大の里の快進撃特集2 新三役優勝と新入幕からの連続11勝  | 三代目WEB桟敷

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スピード優勝記録

 

 令和6年夏場所、大の里がデビューから7場所目にして幕内優勝の最速記録を樹立。付出と前相撲からの違いはあるとはいえ先場所大幅に更新されたばかりの史上最速記録を早速破ってみせた。幕内3場所目での優勝は、先場所新入幕優勝の尊富士らに継ぐ3位タイ。佐田の山に並んだ。

 

 

新三役優勝

 

 超スピード記録であると同時に希少だったのは、新三役、新小結での優勝となったこと。昭和32年夏の安念山以来だから、67年ぶり。翌年に年6場所制となってからは初となる快挙だ。

 

 新関脇優勝は、一昨年の春に若隆景が祖父若葉山の師匠にあたる双葉山以来の達成と話題になったが、昨春霧馬山もマークした。こちらも四股名の後ろ3音を一門の祖にいただいており、不思議な縁を感じる。いずれも関脇デビュー場所だが、小結経験があり新三役ではなかった。

 霧馬山は小結4場所目で11勝しての新関脇。双葉山、若隆景は新三役で負け越し、2度目の三役昇進として新関脇だったが、平幕上位で活躍しての昇進だから地力はついている。

 

 新小結はそれに比べればラッキーで上がるケースも多々あるが、少なくとも平幕中位以上で勝ち越しているわけで、10番手以内の実力を備えていても不思議ではない。優勝の安念山にしても2年近く平幕上位に在ってすでに金星4つの実力者。大の里も新入幕場所から横綱大関戦を経験していて、優勝争い本命に推す識者もいたくらいだ。

 

 

 だが、優勝やそれに絡む成績を残すとなれば、非常に難しい。序盤から横綱大関戦が組まれ、これを乗り切っても終盤は好調か実力ある平幕の難敵、曲者を審判部が狙い澄ましてぶつけてくるので、簡単には勝ち進めない。終盤まで下位力士との顔合わせが続く新入幕とは対戦相手に大差がある。ある程度後半に上位戦が残される関脇でも前半は番付どおりで不調の力士とも顔が合うので、まさに小結の好成績力士は息つく暇もない。それを初めての経験で勝ち抜かないといけない。

 この罠にかかった例として、昭和62年春の益荒雄が挙げられる。7日目までの2横綱5大関戦に6勝1敗と、連日の殊勲で「白いウルフ旋風」を巻き起こした。その勢いで9日目に勝ち越したが、10日目から両関脇に敗れると平幕にも立て続けに敗れて5連敗。最後は前頭二桁で勝ち越していた栃乃和歌、両国に連敗した。

 

 

 過去、11勝以上を記録した新小結は僅か11人。うち10人が後の横綱、大関である。大の里はこの上なくめでたいラインに乗った、かと思いきや、唯一関脇止まりだったのは唯一の優勝力士である安念山のち羽黒山。これはこれは、余計なデータを持ち出してしまったようだ。

 

昭和32年夏場所 安念山

 

 昭和29年5月に新入幕を果たし、負け越しなしで一年で上位へ。2年間平幕上位で崩れもしないが8勝までしか届かず、4場所連続4枚目という珍記録を残すなど安定というか停滞というか。前の場所も4枚目で千代の山から3度目の金星をマークしたが給金後3連敗。千秋楽に連敗を止めて9勝目を挙げると、三役昇進候補4,5番手ながら、3関脇3小結が維持されたため西小結に抜擢された。今日的にはまずこれで上がることはなく、当時でも8勝ならダメだっただろう。

 大の里とは対象的にようやくの三役昇進。初日から栃錦を破る好発進。3日目大関松登、5日目琴ヶ濱に敗れて序盤は3勝2敗。ここから快進撃が始まる。平幕相手に3連勝で持ち直し、9日目は横綱吉葉山を下手投げに下した。さらに11日目には1敗の大関若ノ花を寄り切ると、前頭20枚目の房錦も敗れて5人が首位に並んだ。翌12日日若ノ花と小結琴ヶ濱、13日目は関脇時津山と平幕房錦が後退し、ついに単独先頭。14日目大関朝汐を見事押し倒して優勝に王手。3敗で追うのは4人。その一角・関脇時津山との決戦、とはならない。立浪・時津風は一門こそ違えど親子関係の部屋、一門別ではなく系統別総当たりなので対戦は組まれない。よって対戦が組まれた1差の20枚目房錦に残りの3人は望みを託すことになった。大関戦翌日に前頭20枚目というのもやりにくそうだが、難なくこれを下して栄光を掴んだ。ここで房錦が逆転していれば新入幕優勝の快挙だったが、代わりに唯一の新三役優勝は記録されていなかった。

 ここまで大勝ちできずに三役を逃してきたのに、蓄えた地力が突如爆発。翌場所は新関脇に進んで一気に大関取りを期待されたが、この年はまだ年5場所で7月の名古屋本場所は未開催。3ヶ月空いて9月場所は辛くも9番勝ってチャンスを繋いだが、初開催の11月九州本場所では5日目からの5連敗で霧散してしまった。レギュレーションの過渡期が影響したかもしれない。その後三役常連となり、34年11月には関脇で12勝を挙げたが、13日目に絶不調の鶴ヶ嶺に落としたのが響き、同部屋の新大関若羽黒に1差で逃げ切られた。ライバルに番付を越され、優勝経験でも並ばれたわけだが、「嫁取り」には勝って師匠の娘婿に。2代目羽黒山となり、立浪を継承した。

 

 

新入幕から連続11勝

 

 戦後15日制下で11勝以上した新入幕力士は38人。新小結の11人とは母数が全然違うとはいえ、2年に1度のペースで記録されている。そしてほとんどの力士が翌場所番付が上がって壁に跳ね返されていて、続けて11勝したのは、若ノ海、白鵬、そして大の里の3人だけ。こちらでも大変稀有な記録を残している。

 ちなみに3場所目は若ノ海が4勝、白鵬でも8勝。10勝にまで広げても、新入幕から3場所連続は阿武咲だけだ。

 

ノンストップ特急照國

 

 戦前の15日制年2場所の時代にまで遡れば、偉大なる照國の記録が浮き上がってくる。新入幕から11勝、12勝で新関脇。さらに11勝、12勝、13勝と右肩上がりで大関昇進。大関は12,13勝で2場所突破。新横綱でも14勝するなど、新入幕から10場所連続11勝以上という圧倒的な記録を残している。

 

 大の里はそれ以来となる3場所連続。タフすぎる目標はある。照國コースで出世街道をひた走るのか。それとも上位陣が意地を見せて壁になるのか。はたまた、さらに優勝を重ねて照國以上の快進撃を見せるのか。楽しみである。