新入幕優勝空白の110年間 挑戦者たち | 三代目WEB桟敷

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  空白の110年間はなぜ生まれたか

 

大相撲における個人優勝表彰は、旧両国国技館開館に合わせて優勝掲額が贈呈された明治42年(1909年)6月が公式の起源とされる。とはいえ当初は東西制による団体表彰の方が公式で、個人優勝者の方はあまり厳密な制度を整えていなかった。そのためか、当時は引分、預りも多く、不戦勝はなく相手都合で休場になるなど、公平に優勝者を決めがたい状況が長く続いた。また相星の場合は番付上位者が優勝とされたため、下位力士はなかなか優勝には手が届かなかった。それでも、日数が少ないこともあって圏内に残る下位力士は毎場所のように現れ、役力士に当てる間もないし、そもそも優勝争いの公平を期そうという今日的発想にはなかなか至らない。そのため上位が潰し合うと、時折抜け出す平幕優勝力士が現れた。初代掲額の高見山からして平幕である。

 

戦後になってようやく優勝決定戦が導入され、15日制固定、系統別総当たり、部屋別総当たりと現在のレグレーションとなってまもなく60年となる。好調の下位力士を後半戦上位力士と当て始めたのも同時期だが、取組編成の問題なので今も運用には賛否ある。

 

 

さて、今場所残り2日で新入幕尊富士が2差をつけて首位。いよいよマジック1に迫った新入幕優勝だが、唯一の先例は110年も前のこと。両国(いまの境川親方から数えて2代前)が無敗で制したことは快挙には違いないが、その間ゴールデンルーキー1世紀分が束になってもなしえなかったほどの大記録だったかというと、上述のように個人優勝制度が未整備の時代。東前頭14枚目の両国は、なぜか4日目に小結と顔が合っているが、それ以外は平幕相手だ。7日目を終えて6勝1休で西横綱太刀山と並んでいたが、8日目に太刀山と関脇朝潮の一番は預かりとなり、勝ちっぱなした両国が半星差で上回った。太刀山からすると横綱として役力士(といっても3人だが)を相手に無敗、相手の休場1つに、僅か1つ仕留めきれなかっただけで下位力士に勝ち抜けられたことをどう受け止めただろうか。

 

その後も9日から11日の短い興行日数の時代には、勝ち抜けそうな新入幕力士が度々出ているが、なかなか抜けきれなかった。

大正期から昭和初期には、優勝してもおかしくない好成績者がいたが、上位の好成績者に持っていかれている。中には優勝者より勝ち星の多いケースもあったが、休みや引分を含む曖昧な優勝基準もあって惜しくも快挙を逃している。のちの横綱も名を連ねているあたり、栴檀は双葉より芳しといったところだ。大蛇山も聞き覚えがあるが、昨年引退した徳勝龍が、最高位平幕の優勝力士としてその名を引っ張り出していた。3年後の大正15年に見事優勝を果たしている。

 

戦後、上位者優勝が廃止され、平幕がやたら多くて割崩しもない、最も平幕下位が抜け出しやすい環境だったが、出羽錦、大蛇潟が勝てば決定戦まで迫ったくらいで、やがて15日制になると、稀に12勝3敗が出るくらいで優勝に迫る力士は現れなかった。そんな中で空前の快進撃を見せたのが大鵬。11連勝して13日目まで首位タイにつけ、日本中の注目を集めた。星数では、その後北の冨士が最多の13勝をマークした。

部屋別総当たりとなって、平幕下位の好成績者が徐々に上位と当たるようになると、一層難易度が増した。43年の陸奥嵐の13勝は役力士と当たらず1差のまま届かなかったが、48年の大錦は首位と3差ついてからも上位戦が組まれ、大関貴ノ花、さらに琴櫻を破って史上初の金星。三賞独占となったが星は11勝で賜杯は遠かった。

平成に入って2大関を食った栃乃花が久しぶりに12勝したが、大概は三役力士が出動して待ったをかけていた。優勝争いで目立ったのは19年の豪栄道。11日目時点で1敗で単独トップに立ったが、上位には通じず。上位も食ったのが逸ノ城で、付出からわずか5場所目にして1敗で快走。2大関に続いて鶴竜からも金星。14日目白鵬との相星対決に敗れて次点に終わったが、100年ぶりの快挙に期待が高まった。

令和に入ると翔猿が1差で、伯桜鵬が首位タイで、自力優勝の可能性を残して直接対決に挑んだが、やはり大一番で跳ね返されていた。

 

 

 

  主な新入幕活躍力士

 

 

<東西制>

大正3 

両国 9-0 1休 優勝 8-0 1休1預の太刀山上回る。4日目に小結戦

大錦 8-1 1休 千秋楽初黒星、鳳全勝

源氏山 9-1 最多勝利も、8勝1分1休の大関西ノ海がV

大潮 9-01預 千秋楽痛恨の預り 同成績の栃木山が逆転上位優勝

陸奥ノ山 8-2  1差 7日目まで単独全勝も連敗

大蛇山 9-1 1休 不戦勝制度あれば最多勝利も、9勝2分の大関常ノ花に譲る。

信夫山 9-2  次点 1差追走も上位優勝のため10日目消滅

武蔵山 9-2  次点 1差追走も上位優勝のため10日目消滅

鹿嶋洋 12-1 単独次点 上位優勝のため12日目消滅

五ツ海 8-2 残り3日で全勝も連敗 十両に敗れ脱落

 

<戦後・系統別総当たり・優勝決定戦導入>

出羽錦 9-2 次点 千秋楽敗れて決定戦ならず 三役対戦なし 2枚目まで

大蛇潟 9-2 千秋楽敗れて決定戦ならず 三役対戦なし 7枚目まで

成山 12-3 単独次点13日目脱落

若秩父 12-3 次点 13日目脱落 三役対戦なし

大鵬 12-3 次点11連勝 14日目に首位陥落 準優勝

豊山 12-3 単独次点 1差逃げ切られる 役力士対戦なし

北の富士 13-2  9日目から2差縮まらず

 

<部屋別総当たり>

禊鳥 12-3  13日目脱落

龍虎 11-4  首位3人を追う1差で楽日も敗戦

陸奥嵐 13-2  単独次点 1差で逃げ切られる。役力士対戦なし

大錦 11-4 3差ついてから横綱大関撃破し三賞独占

出島 11-4  14日目に2差に後退 最終1差 役力士対戦なし

栃乃花 12-3 13日目で2差に後退も2大関撃破

白鵬 12-3 優勝王手の北勝力破り1差

把瑠都 11-4 14日目1差対決敗退

栃煌山 11-4 13日目2差に後退

豪栄道 11-4 11日目単独首位

魁聖 10-5 大鵬以来の初日から9連勝

逸ノ城 13-2 単独次点 1横綱2大関撃破、14日目相星対決敗れる

翔猿 11-4 楽日1差 直接対決惜敗

伯桜鵬 11-4 楽日首位タイ 相星対決敗れ決定戦逃す

 

※再入幕(新入幕全休で実質幕内デビュー場所) 

琴光喜 13-2  1差逃げ切られるも1横綱3大関破る