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人を恋する気持ちって、きっと昔から変わらない。

自分がそれに耐えられるのか。
時間は流れ、目に見える経過は滞りなく過ぎ、私の状況は変わる。

人の気持ちの移ろいやすいことなど、いやというほど知っていて。
かといって一人では耐えられない自分もいる。

決めるのは自分で、他の誰でもない。

できるかどうかわからないけれど、決めている事は言った。
言わなくてもよかったことをわざわざ言ったのは、そうなりたくなかったからかもしれない。

実行の可否。
わからないな。
今のままなら無理かもしれない。

天秤の間で気持ちが揺れる。
本当はどちらがいいのか。
それは答えが出ている。
ただ。
選び取るのは難しい。

あなたに罪はないのよ。
ごめんなさい。
ワタシニ ドウ シロト?
ワタシニ ドウ コタエロト?
コトバノ ウラガ ヨメナイ

きっと、こうしたかった。

それが自分を納得させるための言葉かあるいは本心か。

今はまだはっきりとはつかみかねるけど。


なるべくして。

なった。


出逢うべくして。

出逢った。


きっと、そういうこと。

見て 見て 見て

私だけ

他のヒトなんて見ないで

私だけを見てくれなくちゃイヤ!


できないなら

叶わないなら

いったい?


あまりにも我儘な言葉も

あまりにも我儘な私も

厚い氷のはる湖の奥底に沈めてしまいましょう


春になって氷が溶けるまで

誰にも見つからないでしょうから


静かな湖の底にはきっと人魚が住んでいるから

寂しいことはありません

--16:00--

「この1本で全コース制覇だね♪」

ゴンドラを降りてきた南くんに振り返って言うと

「帰りに温泉によって帰ろっか?」

なんてうれしいことを言ってくれる。

彼氏じゃないけど南くんとは気が合うんだよね。

もうだいぶ日が暮れかけてきたゲレンデには誰もいなくて、貸し切りみたいだった。

このコースを滑ればスキー場の全コースを滑ることになるから、ちょっと暗くなってきたけど無理して上まで上がってきた私と南くん。

これから滑るコースは夏場には道路として使われていて斜面がゆるやかな初心者コース。

だから、少しぐらい暗くても余裕で降りられる、うん、きっと大丈夫!

降り始めた雪に背中を押されるように、私と南くんは斜面を滑り始めた。


--16:20--

僕とひとみさんがこのコースを滑り始めて20分。

もしかしてコースを間違えたんじゃないかという思いが、首をもたげる。
気がついていないのか、ひとみさんは僕の少し前を気持良さそうに滑っていく。
最後にコースの表示があってから随分経つし、初心者でも20分で下れるコースだったはずだ。

僕らが下り始めてもう20分経つし、ふもとはおろかゲレンデの形すら見えないことはちょっと考えにくかった。
雪雲が低く垂れ込め雪が降り始めていた。

この分だと吹雪になるのは時間の問題だろう。
稜線に日が沈んで10分がたち、そろそろ完全な日没の時間になる。
僕らがどこかでコースを間違えていたとすると、厄介だ。
あそこのカーブにコース表示がなかったらひとみさんに言おう。


--16:45--

風と雪がひどくって、手で顔をおおっても前が見づらい。

さっき南くんから、コースを間違ったと思うこと、吹雪き始めた中を夜このまま下っていくのは危険なこと、降りてくる途中別荘が見えたからとにかくそこまで戻ろうと言うこと、僕がもっとしっかり見ていれば良かったのにごめんねと言われた。

何度か試したけれど、頼みの綱の携帯も電波が届かなかった。

ボードを担いでゆるやかな斜面を登るのも、南くんが前を歩いてくれるからなんだか安心していられた。

「あ、あれあれ。さっき降りてくるときに見えたんだ。」

吹雪で真っ白になった南くんが、振り返って別荘を指差してくれた。

「もう10分も歩けば着くよ。頑張って!」

「うん!」

ますます強くなる吹雪の中、南くんとふたりで別荘を目指しながら雪を踏みしめて歩く。


--17:00--

今回僕らは二人だけで来ていたから、僕らが帰らなくても誰も気がつかないだろう。

車が一晩スキー場にとめてあったところで、誰も不審に思わないことは誓ってもいい。

僕が別荘だと思ったのは山小屋のようで、人は誰もいなかった。

暗い山小屋は気持のいいものではなかったけれど、それはひとみさんには黙っておいた。

土間に薪が山盛りになっている所を見ると人の出入りはあるようで、懐中電灯があったのでそれをひとみさんに渡し、僕はだるまストーブに薪をくべた。

すぐに火がつき室内が照らし出され、僕はだいぶホッとした気持ちになる。

薪をどんどんくべると、無人の山小屋が少しずつ暖まり始めた。

スキーウェアを脱ぎ厚い靴下をストーブの前で乾かす間、持ち主には申し訳ないけど室内を探検させてもらう事にした。

電気も水道もガスも、それから電話も通っていない山小屋には、2Lのペットボトルに入った未開封の水が6本と、インスタントラーメンが1ケース、それにランタンとガソリンがあった。

僕がランタンに火をつけると、ひとみさんは明るいと言って喜んでくれた。

あのまま遭難しなくてよかったし、ふたりで一晩過ごすにこの山小屋はまぁ悪くないと思う。


--18:00--

携帯は相変わらず通じなかったけど、もうこのまま朝まで待とうと南くんと話をした。

お腹が空いたので、大家さんには悪いけどインスタントラーメンを2つ作った。

初めて作る袋入りのインスタントラーメンはなんだか化学の実験みたいで、南くんと一緒にお鍋から直接食べた。

ちょっとお行儀悪いけど緊急事態だし、南くんもそんなことはきっと気にしないと思う。

もし気にしていたら、ちょっと困っちゃうけど。

外の吹雪はますますひどくなってきたと、外を見に行った南くんが話してくれた。

「あのまま下ったら遭難したかもしれないね」

私がいうと、南くんはストーブに薪をくべながら

「明日天気が回復すれば帰れるから大丈夫だよ」

と言ってくれた。

そうだね、南くんといればきっと大丈夫だって、そんな気持になれるから。

安心しているね。


--20:00--

山小屋の中にあった毛布にくるまって、僕らはいろんな話をした。

僕とひとみさんは同じサークルの仲間で、仲はいいけど恋人じゃない、そんな関係。

「ねえ、雪女の話って知ってる?」

ひとみさんが唐突に僕に聞いてきた。

「吹雪の晩雪女が来てお父さんが殺されちゃうんでしょ?で、息子は殺さずに後から自分が奥さんになるって話。」

「そうそう。あの話ってさ、どう思う?雪女がお父さん殺しちゃうじゃない?だとすると当然お父さんのお墓があって、雪女もそこにお墓参りに行ったのかな?」

なんでこんな時に雪女のお墓参りなのか・・・ひとみさんは時々僕にはよくわからないことを言い出す。

でも、そこが面白くて好きなんだけど。

「仮にもお義父さんのお墓なんだろうから、お墓参りぐらい行っただろうね。」

「そのときってさ、雪女はどう思ったんだろう?自分の殺した男のお墓参りに行って、しかもその息子と結婚してるんだよ?」

難しいんだか難しくないんだか、よくわからないことをひとみさんは僕に聞く。

「どうなんだろうね。でも案外雪女の中では、別々のこととして決着がついていたのかもしれなくない?」

僕も自分でもなんだかよくわからない返答をした。

「こっちにおいでよ」

ひとみさんを誘うと、雪女について考え込みながらも素直に僕の毛布にもぐりこんできた。

ひとみさんのぬくもりを感じる。

「決着ってなに?」

真面目な顔をして僕を見上げるひとみさんの顔を見て、僕はそっとキスをした。


--20:30--

ずっとこうしたかったのかもって、南くんの腕の中で思う。

南くんの腕の中に抱きしめられるのがこんなに心地良かったなんて知らなかった。

もしかして私、今まで損してきたのかな?

しばらく黙っていた南くんが

「ずっとひとみさんのこと見ていたんだけど、知ってた?」

って言ったから

「知らない」

って答えた。

だって、私を見ていたなんて、そんなの知らない。

「いやだった?」

「イヤじゃないけど・・・。どうして見てたの?」

「気になってたから。」

「気になった?」

「嘘。好きだったから。」

「そうなんだ」

そう答えてちょっと笑った。

「私のこと好きだったの?」

「そう。・・・ダメだった?」

南くんの声にうっすらと失望の吐息が混じる。

「ねぇ。私達、逢えてよかったよね?」

そう言って、今度は私からキスをした。

逢えてよかったと思ってるんだよ、本当に。

南くんの背中に手を回し、髪をまさぐり、長い時間夢中になってキスを交わした。

思う存分キスをした後、南くんが私の顔をのぞきこむ。

「好き?」

そう聞く南くんの顔は恐いぐらい真剣で、また小さく笑っちゃった。

「人が真剣に聞いてるのに!」

南くんも怒ったふりをしながら、笑った。

答えはさっき言ったでしょ?逢えて良かったって。

それとも、私の言葉の意味は気がつかなかった?

「スキダヨ」

南くんの耳元でこそっと囁いた。


--深夜--

全てが幻の中の出来事みたいだった。

薪のはぜる音と、揺らめく炎。

僕らの吐息しか聞こえなかった。

ひとみさんの着ているシャツをまくりあげ、ブラジャーのホックを外し、そっと口付ける。

「あ・・・」

小さく上がったその声だけで、僕はドキリとした。

ひとみさんの体は温かくて、そして敏感だった。

もつれる長い髪と湿った肌が、炎に照らし出されてコントラストを描いた。

僕の腕の中には、やわらかく小さな彼女がいた。

夜はいつまでも続いた。


--05:00--

ぐっすりねむっちゃったみたいで自分がどこにいるのかわからず慌てると、隣りで眠る南くんの姿が目に入った。

そうだ。私、昨日ここで南くんに抱かれたんだ・・・

思い出して恥ずかしくなって、慌てて洋服に着替えた。

ストーブに薪を入れて部屋を暖める。

それからもう一度南くんの隣りにもぐりこんだ。


--06:00--

目を覚ますと、隣りにひとみさんの姿があった。

僕だけ服を着ていないことに気がついて、慌てて下着だけ身に着ける。

「おはよ」

僕の背中にひとみさんの声がかかった。

「おはよ」

僕も同じように返して、それから振り返ってひとみさんを優しく抱きしめた。

幻でも夢でもなく、僕の腕の中にいる彼女。

大丈夫、僕がきっと守るから。

安心して。


--エピローグ--

外を見ると、昨日の吹雪が嘘のようだった。

夜があけ辺りが太陽に照らし出されると、尾根の位置から僕らのいる現在地がおぼろげにわかった。

僕らはどうやら、スキー場とは反対側に降りてきていたらしい。

身支度を整え、手持ちのお金を少しと簡単な経緯と連絡先を書いたメモを残して、僕らは山小屋を後にした。

何かあれば山小屋の持ち主から僕に連絡が来るだろう。

昨日降った新雪が歩くたびに雪煙を上げた。

ボードを着けものの10分も滑り始めると、数件の人家が遠くに見えた。

近づいていくと除雪された道路に行き着き、『スキー場まで3KM』と書いた看板が立っていた。

「思ったより近かったんだね?」

ひとみさんにそう言われた。

「そうだね。でも・・・」

「でも?」

「遭難しなくてよかったでしょ?」

結果論かもしれないけど僕の判断は間違っていなかったと思うし、思いたかった。

彼女を危険な目に合わせる事だけは、絶対に避けたかったのだから。

「それに」

今度は彼女が言葉を続ける。

「たまには幻みたいなあんな夜もいいんじゃない?」

ひとみさんの言葉が、晴れ渡った青空に響いた。

今日はいい天気になりそうだった。

もう二度と誰の言葉も信じない。
信じたことで傷つくのはもうごめんだから。
ずっとそうやって生きてきたし、これからだってそうやって生きていけばいい。
ただそれだけの話だ。

嘘つきとは思わない。
別に嘘をついたわけじゃないし。
誰だって自分がかわいいのは変わらないんだから。

ただ。
少しでも信じた自分が馬鹿みたいで。
空を見上げてなにやってんだかなぁって一人ごちた。
なにやってんだか。

そらはこんなに青いのにね。

あーあ、ばっかみたい!

カラオケで中島みゆきの悪女を歌う同僚を眺めながら、私のほうが今なら絶対に上手く歌えると思う。

彼女はこの歌が好きみたいで、カラオケに行くとよく歌っている。

悪女が十八番なのもどうかと思うけど、それでも歌う姿はいつも気持良さそうだ。


彼から上司の家に遊びに行ってきたと告げられて、もうそろそろ2ヶ月がたつ。

遊びに来いと言われたのは事実みたいだったけれど、実際は遊びではなくゆるやかなお見合いだったらしい。

そんな話も、後から聞いた。

上司からの話と言うこともあって、その女性とは時々会っているようだった。

それ以上はなんとなく気まずくて、お互いに話すことはなかった。


もう別れ時なんだろう、きっと。

今なら絶対に中島みゆきの悪女が上手く歌える。

ある日1通のメールが届いた。

「はじめまして」で始まるそのメールは、僕が書いている雑文ブログを読んでいるという人からだった。

メールが届いて初めて、このブログの本体が読者と書き手の密度を高くするというのがうたい文句だったことを思い出した。

たしか初期設定で『読者から書き手へメールが送れる』という項目がデフォルトになっていて、その変更をしていなかったことも一緒に思い出した。

今までその機能を使ってきた人などいなかったから、こちらもそんなことはすっかり忘れていた。

失敗したなと思ったけれど、届いたメールを無視することも気が引けた。


どこの誰が送ったのかわからないメール。

開くには細心の注意を払った。

いろいろなチェックしたが、結果はクリア。

恐る恐るメールを開く。

彼だか彼女だかわからないが、僕の記事がいつも面白いということ、毎日楽しみにしていること、そんなことがメールには書かれていた。

ブログ用に使っているアドレスはもちろんフリーメールで、いつでも消すことができた。

だからできるだけ自分の情報を与えないように、少し素っ気ない返事を送った。

内心は自分の書いたものを心待ちにしていると言われて、とても嬉しかったのだけど。


そんなことからメールのやりとりがはじまった。

いま読んでいる本、その作者、最近あった面白い出来事、料理のレシピ、好きな人のこと。

相手との距離を測るように外堀が埋められていったけれど、何度メールを交わしても個人情報を明かすことはお互いにしなかった。

それは暗黙のルールになっていて、相手の本名すら知らなかった。

でもそんな事は別に構わなかった。


一度会ってみましょうかと、話が出た。

お互いになんとなく、そんな気持ちになっていたのだと思う。

近くのバーで会うことになった。

会うときに困るからといって、携帯のメールアドレスを教えてもらった。

こちらも同じように、携帯のアドレスを教えた。

初めて教えた個人情報だった。

でも、携帯のメールアドレスはすぐに変えられる。

それほど心配することはないだろう。


見たことがない相手との食事と、そんなことをしようとしている自分が未知の存在に思えた。

お店の近くの駅で待ち合わせをした。

会社帰りのサラリーマンが行き交う駅前は、携帯のメールがなければ会えなかっただろうと思う。

「どこに居ますか?」

「ドトールの前です」

「それは駅の何口ですか?」

「北口です。黄色いシャツを着ています」

もう少し詳しく待ち合わせを決めておけばよかったかなと後悔した。

何人かを見送った後で、それらしき人を見つけた。

「あの・・・」

と声をかけると

「コウさんですか?」

と、ハンドルネームで尋ねられた。

ハンドルで呼ばれたことなど初めてで、

「あ、はい。コウです。はじめまして」

どぎまぎして、つっかえつっかえ話した。

メールの相手はこの人だったんだ。

それは不思議な出逢いだった。


2時間近くはお酒を飲んでいたかもしれない。

ブログには書かれなかった裏話をお互いに話して盛り上った。

ハンドルネームで交わされる名前もなんだか面白かったし、お酒も手伝って少し饒舌になった。

駅での別れ際、「また会いましょう」という言葉は交わさなかった。

次があってもいいし、なくてもいい。

そんな気がした。

このままメールがこなくても、それはそれでいいと思った。

ネットでの出会いなんてそんなものだろうから。

この一緒に過ごした2時間は楽しい時間だったから、それだけで十分満足した。


翌日も変わらずにメールが届いた。

なんだかホッとした後で、昨日のお礼と、楽しかった思いと、面白かった話を書いて、返事を送った。

ルーティンのようになっているな、そう思いながらもメールを楽しみにしている自分は誤魔化せなかった。


きっとそれはひそやかな恋心だったのだろう。

自分の中にそれが育っていくことは恐かった。

心の中に蒔かれた種は、ゆるゆると芽を出し始めていた。

大きく育つ前に引き抜いてしまおう。

今はそれがつらくても、だ。


ブログの中には『恋愛』というジャンルがあり、そこには不倫の話がごまんと載っている。

ブログを書き始めてから、それを知った。

夫がいるけれどネットの相手に恋をした、そんな話が多かった。

妻がいるけれど恋をしたという話はあまりなかった。

男のほうが隠すことに不器用だからかもしれない。

でもまさか、自分が同じになるとは思ってもいなかった。


「もうやめましょう」

それだけ書いたメールを送った。

「どうしてですか?」と理由を尋ねるメールが届くかと思ったが、それもなかった。

いかにも、彼女らしい態度だった。

それっきりになった。


それまで毎朝届いていた「お仕事がんばってください」とかかれたメールが届かなくなった。

それが一番こたえた。

自分が支えられていたことに、今更ながら気付いた。

それでもメールを送らなかったのは、きっと格好悪い姿を見せたくなかったからだろう。

最後だけは、格好良く去りたかった。

それだけの思いで自分を支えた。


初めて会ったあの店で待っています。

そう綴ったメールを書いては消した。


1日が3回続けば3日になり、

3日が10回続けば1ヶ月になる。


いつかきっと、忘れるだろう。

キミがサインを出していたのに、見逃したのは僕だった。

あちこちに置かれたサイン。

僕の目にとまるように置いてあったのに、僕はそれを違って受け止めた。


そして大切なことをキミに告げられた。

まさかそんなことが起こるとは予想していなくて、僕は戸惑い黙りこんでしまった。

繊細なキミはそれを感じ取って、「ごめんなさい」と僕に謝罪の言葉を告げた。

違うんだ。

悪いのはキミじゃない。

誰も悪くないし、そして誰も傷つく必要なんてない。


僕が甘かったんだ。

考えていてしかるべきだった。

言葉を本気に受け止めすぎた。

でもそれは僕のせいであって、キミのせいじゃない。

僕は僕を責めるけれど、キミが大切なことを打ち明けてくれたことは嬉しかったんだよ。

それは嘘偽りない気持ちだから。


告げることは勇気がいっただろう。

告げると決めるまでにどれだけ迷い彷徨ったのだろう。

つらかったね。

気付いてあげなくて、ごめん。


待ち合わせた駅。

星がまたたく海辺。

朝霧の漂う夏の朝。

温かな缶コーヒー。

切り取った空から見た満月。


どれもいつか、思い出という箱の中にしまわれるのだろう。

思い出は封印され、誰もその形を壊すことができなくなる。

そしていつか忘却の彼方に漂い、静かに沈んでゆく。


キミの輝ける未来に、僕はエールを贈るよ。

だからどうかその瞳を濡らさないで。

だって、僕はキミが・・・

いや。

それは言わないでおこう。


どうかキミの未来に笑顔があらんことを。

それが僕の一番の願い。

言葉は雪のように軽いのです。

手のひらにのせるととけてだして、他の形になるのです。

輝く多面体は美しいけれど、それは磨かれたものかもしれないから悩むのです。


顔を見ればそんなこともないのでしょう。

そっと頬にふれればそんな想いも吹き飛ぶのでしょう。

やさしく抱きしめれば本当のカタチが見えるのでしょう。


でもそれができないから。

もどかしいのです。


夏の夜の白く輝く美しい月が、ビルの谷間からは見えないように。

輝く多面体を眺めては、心が揺れてしまいます。