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BASIC

人を恋する気持ちって、きっと昔から変わらない。

猫は自由だから猫なんだって。
猫が猫であるためにはある程度の自由が必要なんだって。

飼い主は、猫に餌と自由を与えなくっちゃ
猫は死んじゃうんだよ。

猫は猫でいられないと、ダメなんだよ。
だって。
それが猫なんだもん。

犬じゃないからね。
猫だから。
「ん・・・いいの・・・」
アナタとやりとりをする携帯を隣にひとりでしているなんて
口が裂けてもいえない
全てを消し去る前に
どこかにこっそり残しておけばよかったかな、なんて
今頃思っても遅いんだけどね

「メールこないのってさあ、腹たたない?」
恵理はそう言った。
かなりムカムカしていそうな口調だった。
「相手にも都合あるし、まあ仕方ないんじゃないの?」
ここで私が同調しても仕方がないと思って、とり合えず恵理をなだめてみた。
「あんたっていっつも、そう言うわよね!」
矛先が私に向いた。
困ったな。

多分恵理は機嫌が悪い。
腹の虫の居所が悪いってやつだろう。
でも、私にどうしろっていうのよ?
メールの返事を送らないのは私じゃなくて、彼なんでしょう?
そう言っても火に油を注ぐだけな気がして、言うのをやめた。
恵理に言うのをやめる事って多い。
変えられないことを言っても仕方がない気がする。

恵理は愚痴りたいだけなんだろう。
話を聞いて欲しいんでしょう?
女なんてそんなもんだよね。
意見をされたいんじゃなくって、話を聞いて欲しいだけなんだから。

私がそんなことを考えている間も、恵理の彼からメールが1日1通しか来ないことへの愚痴は続いて。
彼とはもういいやと、言っている。
そう決めたならそうすればいいのに。
私になんか話さずにね。

でも、それが決められないから誰かに話したいんだよね。
自分の言葉で自分の心を固めたいんだと思うよ。
だから、まあ、私でよければ話ぐらいは聞くからさ。
少なくとも、私たち友達って思ってるし。

あ、どこかでジャスミンの花の香りがする・・・
雨上がりの夜に漂うジャスミンの香りは、結構好きかもしれない。
雨の匂いと混じった甘い香り。

そんなことを思いながら、駅までの道を恵理と歩いた。
「決めるのは自分だよ」
恵理にそれだけ言って、電車に乗り込んだ。
また、明日ね。
ちゃんと聞くからさ。
元気だしなよ
ホームに残った恵理に、バイバイと手を振りながら心の中でこっそり思った。
突然旅に行きたくなる。
SIN IN  BKK OUTで出かけようか。
ずっとと言う言葉がどれだけ薄いものかをイヤと言うほど知っていて
それなのに
その言葉を
使うのはどうして?

野良猫を餌付けしちゃいけないと、話したでしょう?
飼い主だと思ったら野良猫は困るでしょう?

何をどうしたって信じられないのもわかっているし
何をどうにかして欲しくないのもわかっている

守るべき場所がある人はそれを守らないと
そうして欲しいと思うのは切実な思い

でも、本当はさ

なんでもない
言わないよ
最近流行の化粧品売り場へ行った。
どこのデパートでもというわけではないが、そこの化粧品売り場には男性の美容部員がいる。
しかも、超イケメン。
見に行くだけでも、価値があるでしょう?

最近のデパートは女性客にターゲットを絞り込んでいるので、男性の店員さんが多い。
プランタンの地下なんか、特にそうだ。
カッコイイ男のもとに女は群がり、お店は売上アップ。
美容院でも同じことが言える。
どうせだったらオニイサンの優しく長い指で、髪を洗ってもらいたいと思う女は多い。
それだけで幸せな気分になれそうな気がするから。

会社からちょっと遠かったのだけど、男性の美容部員がいると聞いたデパートへ一人で行った。
とりあえず化粧品売り場を一周してみる。
あ、いた。
化粧品店の中で、一人商品の整理をしている背の高い男性が見えた。
遠めに見ただけなのに、なぜだかチョッピリ頬が弛む。
今日欲しいものはチーク。
できればマスカラも。
ただ、そこのお店の化粧品は使った事がなかったから、肌に合わなかったら買うのはやめようと思っている。
チークは発色もあるし。
気に入らなければ買わないつもり。

たらたらと辺りを一周した後、目的のお店に何気ない風を装って入った。
きれいに並べられたチークを見て、これなんか結構好きな色かもしれないと思う。
とりあえずこれが第一候補かな。
一人気ままに見ていると、後ろから声をかけられた。
「何かお探しですか?」
声だけでドキリとした。
「チークを探しているんです。」
自分の声が上ずっていないことを祈った。
ちらりと胸元に視線を投げると、林正孝というネームプレートがあった。
ふうん。
林さん、か。

「普段はどんなお色をお使いですか?」
「オレンジ系が多いかしら」
「今つけていらっしゃるのもそうですよね」
「そう。ここのじゃないけど。」
当り障りのない、手探りの会話。

「もしお時間があれば、試してみませんか?」
「そうね」
「付けてみないと実際の感じってわからないものですし」
「じゃあ、お願いするわ」
私より頭一つ分は背が高い林さんを見上げて、私はそう言った。

キレイに飾られた店内には、私と林さんしかいなかった。
雨のせいだろうか、デパート自体がすいていた。
導かれるまま椅子に座り、眼鏡を外した。
ああ、コンタクトにしてくるんだった。
これじゃあ何にも見えやしない。

チークを軽く落として、「新色なんですよ」と言うファンデーションを少しだけつけてもらう。
林さんは男の人のわりに細くしなやかな指をしている。
この指でどんな事をするのだろうと少しだけ想像をした。
「いつもつけているのはオレンジ系でしたよね?」
「ええ、そう」
そんな想像をしていたことなどおくびにも出さないで、林さんと会話を続ける。
「たまにはこんなお色はいかがですか?お客様にはお似合いになると思うのですけど」
セールストークが上手いわねと、内心苦笑しつつ
「どうしようかしら?」
と、答える。
何百回もこの椅子の上で繰り返された会話なんだろう。
「普段はどんな服を着られます?」
「こんな感じかしら。いつもそれほど変わらないわ」
「だったら、この色を一度試してみませんか?きっと似合うと思いますから」
それじゃあと、林さんに言われるままいつもと違う色のチークをつけてもらうことにした。
似合わなければ、買わなければいいし。

それはサーモンピンクのチークで、普段全くつけたことのない色だった。
大きな筆にふんわりとチークをのせて、林さんは私の頬にそっと色をのせた。
それから、納得するように「うん」と大きく頷きながら、私に鏡を見るように促した。
「いかがですか?」
「あ、いいかも」
キレイな発色だった。
思ったとおりの色がでていて、顔全体が明るく見えた。
鏡を覗き込む私の後ろから、林さんも鏡を覗き込んだ。
「ほら、素敵でしょう?」
耳元で囁かれたようで、思わずドキリとした。
「ええ。いい感じ」
「それとですね・・・」
ちょっと言いにくそうな照れたような林さんが鏡に映った。
「下着助けて」
「え??」
「お客様の下着が、あの、ちょっと透けて・・・」
「あ、それはごめんなさい」
恥ずかしいより先に、可笑しかった。
「今ね『下着助けて』って聞こえて」
「『下着助けて?』」
「ああ、もう、ごめんなさい。」
もう言ったままおなかを抱えて笑う私を見て、林さんも笑い出した。
林さんは、下着を助けるんじゃなくて、下着が透けていると言いたかったのだ。
雨が降っていたから、少し濡れた白いシャツに下着が映っていたのだろう。
だから鏡を後ろから覗き込むように立って、他の人から見えないように隠してくれたのだろう。
多分、だけどね。

ようやく笑いがおさまって
「これ、頂くわ」
笑顔で林さんにそう告げた。
眼鏡をかけて何度鏡を見ても、チークはやっぱりきれいな色だった。
「ありがとうございます。よく似合いますよ。」
営業トークだとしても、そう言ってもらえるのはちょっぴり嬉しい。

会計のために席を外した林さんが、キャッシャーから戻るのを待った。
あ、マスカラも欲しかったんだ。
でもそれは次の機会にしておこう。
また、林さんに会いたいし。
「それではお客様、こちらになります」
小さな紙袋に入ったチークと、おつりの小銭がのった小さな銀色のトレーをもって、林さんが戻ってきた。
トレーの上には小銭と一緒に名刺も置いてあった。
「僕、林といいます。」
「斎藤です」
私も自分の名前を告げた。
言う必要なんて別になかったのだけど、強いて言えば林さんに覚えていて欲しかったから。
「あの、もし宜しければ・・・」
「はい?」
「雨まだ、降っていますし」
「ええ」
「少し、お召し物を乾かしていかれませんか?」
ああ、そうだった。
私のシャツは濡れていたのよ。
「それに」
林さんはちょっとうつむいて。
「あと30分で仕事が終わるので、もし宜しければお食事でも・・・」
そう言って、林さんは言葉を詰まらせた。
「あ、でもごめんなさい。気を悪くしないで下さいね。すみません、余計なこといって」
慌てて取り繕おうとする背の高い林さんがなんだか可笑しくて。
こんな事を言うのが慣れていないことに、100万円賭けたっていい。
「じゃああと30分で、マスカラも選んでいただける?」
この後予定なんてないから。
林さんと一緒に食事をするのも悪くないなって思った。

30分もあれば、白いシャツも乾くだろう。
店内にマスカラを取りに行く林さんの後姿を見て、またちょっと頬がゆるんだ。
シャワーを浴びる。

大きな手で体を流してもらう。

水しぶきの中、胸に顔を埋める。

別れた後、髪がまだ乾かないとメールが届いた。

湿度が高いからかな、と。

濡れた髪に触れた時、私を思い出してくれるかしら。
狂った関係なのかもしれない。
でも、それが、それだけが、大事なのだ。
私宛に書かれた言葉。
それを読んで、泣けてしまった。

本当につらいのは、私じゃないんだろう。
私は、つらいといって駄々をこねて、思い通りにならないといっては泣いているだけだ。

状況。
状態。
常軌。

何をしていても楽しい時間。
どうでもいいことで笑って、こっそりキスをして、ずっと手を繋いで歩く。
「なんか、ラブラブじゃん?」
そういう私に
「知らなかったの?」
と言われた。
そうか、なるほど。
本気で知らなかったよ。

いつか、未来は変わるのか?
未来は交わるのか?
あるいは?

神のみぞ知ること。
今この時間を、できるだけ精一杯生きる事だけを考えよう。
道はきっと、後からついてくる。
ふんわり、優しく、軽く唇がふれた。
このキス、知ってる。
とろけるように甘くて、とっても優しいくちづけ。

腕を回して、ゆっくり抱き寄せた。
何度も何度も、優しく軽いキスを交わす。
頬をすりよせて、髪をなでる。
腕の中に包まれて、肌をすりよせる。

さっき飲んだお酒が残って、ポワンとしていた。
何かを尋ねられたけど、お酒の回った頭にはテンポよく言葉が入らない。
なんて返事をしたのだろう?

甘いキスを交わしながら、長い指がゆっくりと私のからだを刺激する。
背中をなでられ、下着が外され、肌がもっとふれあうようになる。
絡めあった足の間をぬって、やがて、ゆっくりと、でも的確に、長い指は私を捉える。

「いい声だ」と言われて、「いや」と言う。
「もっと鳴かせたい」と言われて、「やめて」とお願いする。
「気持ちいいんだろう?」と見つめられて、視線だけが絡み合う。
その間も長い指は絶え間なく私を捉えて離さないから、最後には「キモチイイノ」と涙目で訴える。

こんなに乱れたくない。
こんな姿を見られたくない。
それでももう、与えられる快感に自分を抑えきれなくて。

ポイントを刺激される。
「なんか出ちゃう!!」
ダメなのよ。
ここじゃダメ、ここはダメ。
お願いだからそんなことしないで。
「大丈夫だよ、出さないから」
恨めしく見上げるけれど、からだはおそろしく反応している。
どうしてこんなになるの?
私はどうなっちゃうの?
「やだったら!」
「しないから」
「だめだったら・・・」
「ほら、こうしなきゃ出ないよ?」
そういってなおきつく、長い指で責めたてられた。
限界寸前まで弄られて、弛められ。
それを何度も何度も繰り返された。

最後にあなたがいい声で鳴くまで。
濃密な時間は続いた。

気がつくと、胸も髪も背中も、汗びっしょりで。
それがなんだかおかしくて。
半分照れてフフフって笑った。







自分の声で覚醒した。







え?
なに?
ここどこ?
自分のベッド?

昨日はだいぶお酒を飲んだんだった。
それから?
途中から全く記憶がない。

ベッドの中がごそごそ動いた。
ハッとして身構えると、犬がブランケットの隙間からちょこんと顔を出した。
肩の力が抜けた。

時々、おそろしくリアルな夢を見る。