あの日、ふたり握り合った手と手 | よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

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大好きな映画の感想をメインに、読書感想や子育てについてetc…のんびりした日々をゆるゆると綴った日記です

『流浪の月』

(2022年 日本)



Introduction
〈女児誘拐事件〉
ーふたりしか知らないあの夏の<真実>


帰れない事情を抱えた少女・更紗(さらさ)と、彼女を家に招き入れた孤独な大学生・文(ふみ)。

居場所を見つけた幸せを噛みしめたその夏の終わり、文は「誘拐犯」、更紗は「被害女児」となった。

15年後。偶然の再会を遂げたふたり。それぞれの隣には現在の恋人、亮と谷がいた。


『悪人』で善悪の境界を朧にし、『怒り』で信じることの困難を世に問うた監督・李相日。人間存在を極限まで掘り下げ、観る者の心にそれまで感じたことのない感情を呼び覚ます濃密な映画体験を提供し続けてきた李が、待望の新作として選んだのは、2020年本屋大賞受賞の凪良ゆうのガラスのように繊細な物語。


更紗役に広瀬すず、文役に松坂桃李という現日本映画界をリードするふたりを迎え、横浜流星、多部未華子が新境地に挑む。


更に、現邦画界で輝く実力派が結集し、物語に深みを添える。

彼らの心象を叙情を込めて映し出すのは、『パラサイト 半地下の家族』『バーニング 劇場版』を手掛けた韓国映画界のレジェンド、撮影監督ホン・ギョンピョ。『キル・ビル Vol.1』『三度目の殺人』等、世界を股にかけて活躍する美術・種田陽平、NODA・MAPや2021年東京オリンピック開会式のダンスパフォーマンスへの楽曲提供も話題の音楽・原摩利彦ら、国境を越えた才能の競演も見どころだ。


いつまでも癒えない傷を抱えて生きてきたふたりが手を伸ばした、ひとすじの光。一歩先の未来。

世界の片隅で生きる〈許されない〉ふたりの物語が、息が止まるほどの感動と深い共鳴であなたを包む。
(公式サイトより転載)


小学生の頃に怖い思いを何度か体験した。

それを思い出すのが怖かったのと

映画が小児性愛を肯定することはなくても

こういう映画を利用して

小児性愛を正当化してくる人の

意見を目にするのがもっと怖くて

公開時は映画や小説と距離を取っていた。


公開から少し時間が経ったタイミングで

Netflixにあがってきた。

今更騒ぐ人もいないだろうし

辛かったら家観なら途中で止められる。

警戒しながら観始めたけど

私が思っていたのとは違っていた。


「人は思うようにしか見てくれない」

というセリフがあり

それは

「わたしは

わたしの思うようにしか見ていない」

ということなのだと実感した。



始めはストックホルム症候群かと思った。

でもそうじゃなかった。


そうはいっても

どこかのタイミングで

女児に手を出すんじゃないかという恐怖が

心にどんよりと立ち込めていたが

それと同時に

文はそんな人じゃないという気持ちもあり

とても複雑な心持ちで観ていた。



亮はいつも

「逃げ場を持たない人」を選んでいた。

それは無意識なのかも知れないが

支配と愛を混同しているからだと思う。


彼の「愛してる人を守る」というのは

逃げないように囲うこと。


「逃げ場を持たない人」を選びつつ

更に逃げないようにしていたのは

心の中に閉じこもったままの

子どもの亮が持つ恐怖と弱さだった。



彼らに共通していたのは

子どもの頃に存在を否定されたこと。

助けてくれる大人がいなかったこと。


だから大人になったいまでも

自分の存在に確信が持てないのだ。



だから

亮のように

自分が存在するために

支配する人を必要としていたり

更紗のように

他人から必要としてもらうことが

自分の存在理由だったりする。


そんな孤独な二人が出会った結果

がんじがらめの支配構造に

なってしまったのも頷ける。


本来なら

一番出会って欲しくない組み合わせだ。



同じように文も孤独を抱えていたが

彼には更に

他者には到底(母親にさえも)

もっと理解できないような

絶望を抱えていた。


文の唯一の居場所になった

更紗にさえ言えなかった。

彼の絶望は想像してもしきれない。


夜中に隔離された小屋から抜け出し

川に浮かびながら見上げた月に

文は何を想い涙を流していたのだろう。


心が引きちぎられるようで

涙が止まらなかった。




亮と更紗のやり取りでは

私が思ったことをどちらかが話し

それについてまた思ったことを

どちらかが話すということが繰り返され

観る者の心を引き込むのが

巧みな脚本だなと思った。


肉体的な暴力に留まらず

あらゆる人による

精神的、心理的な暴力が絶えず繰り返され

わたし的にかなりヘビーだった。



松坂桃李、広瀬すず、

横浜流星、多部未華子、

三浦貴大、趣里…

みんな本当に素晴らしかった。


そんな中

わたしが一番注目していたのが

更紗の子ども時代を演じた白鳥玉季。


「凪のお暇」や「mellow」など

子役時代から見てきたけど

今作での著しい成長ぶりに

これからの活躍がますます楽しみになった。



観終えてからも色々と考え続けている。

友だち、恋人、親子、家族…

世の中が「是」とする関係の中で

苦しんでいる人たちがいる。


そういう人たちが繋がれる関係が

たとえ世の中から

タブーだと見なされる関係だったとしても

当事者同士が安らぎ合えるのだとしたら

誰に責められようというのか。


「人は見たいようにしか見てくれない」し

「自分も見たいようにしか見ていない」けど

ファミレスの店長のような人もいる。

それを忘れないで欲しい。



映画が良かったから

今度は原作も読んでみよう。