その人をその人と証すもの | よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

大好きな映画の感想をメインに、読書感想や子育てについてetc…のんびりした日々をゆるゆると綴った日記です

『ある男』

(2022年 日本)


嫌な後味が絶妙な『愚行録』と

松岡茉優の演技にまた度肝を抜かれ

雨の演出に心打たれた『蜜蜂と遠雷』の

石川慶が監督の本作。


この監督の作品は

日本を舞台にしていても

どこかヨーロッパ映画のような雰囲気で

私はとても気に入っている。


それなのに

上記二本ともレビューを書いていないとは

なんという体たらく魂


脚本は向井康介。

山下敦弘監督の

『リンダ・リンダ・リンダ』が大好きなのは

言うまでもないが

私的にはふくだももこ監督の

『君が世界のはじまり』が大好き。

タナダユキ監督の

『マイ・ブロークン・マリコ』も

すごく良かったな。


↓『マイ・ブロークン・マリコ』レビュー


原作は未読。

予告編とキャッチコピーで

亡くなった夫についての

ミステリーということだけは知っていた。



ネタバレになってるかも知れないので

未見の方はこの先ご注意ください⚠️⚠️⚠️

↓↓↓↓↓




STORY
弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から、亡くなった夫・大祐の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、やがて出会った大祐と再婚、新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、大祐は不慮の事故で帰らぬ人となった。ところが、長年疎遠になっていた大祐の兄が、遺影に写っているのは大祐ではないと話したことから、愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明したのだ。城戸は男の正体を追う中で様々な人物と出会い、驚くべき真実に近づいていく。
(映画.comより転載)


先日レビューを書いた

『市子』とはまた違うのだけど

出自にまつわる物語という点では

少し似ているかも知れない。


↓『市子』レビュー


そしてまた

戸籍というものについて

考えさせられた。



甲本ヒロトは「青空」で

(生まれた所や皮膚や目の色で

いったいこの僕の

何がわかるというのだろう)と歌った。


ここに存在するために

何かを証さなければならないとするなら

証すものが無ければ

存在することができない。

存在しないということになってしまう。


そもそも

存在の理由を問うたり

存在している人に対して

その証明を求めること自体が既に

論理破綻していると思うのだが…



共に過ごした時間。

交わした言葉。

握った手の温もり…

どれも形の無いものだけど

どれもその人だけにしか残せないもの。


その人であった証は

目に見えなくても

共に過ごした人たちみんなが知っている。



日本で年間に行方不明になる人は

届けが出ているだけで8万人を超えている。

理由としては

認知症などの健康問題が一番多く

次に多いのが家族関係の問題というのが

実に日本らしいと思った。


死刑制度を存続させ

蔓延するヘイトスピーチは野放し。

排外主義が横行する

ムラ社会ニッポンの姿が

作品にもよく現れていた。



窪田正孝の演技力に唸らされた。
ラストも秀逸。
『蜜蜂と遠雷』と同様に
劇伴のセンスが抜群だった。

予想の上を行く素晴らしい作品。
石川慶監督には
これからも注目していきたい。