ささやかな「しあわせ」を拾い集めながら生きていく | よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

大好きな映画の感想をメインに、読書感想や子育てについてetc…のんびりした日々をゆるゆると綴った日記です

『川っペリムコリッタ』

(2021年 日本)


一昨年9月に発生した

台風15号の浸水被害により

翌日は各地で道路が寸断。


家から一番遠い市内の映画館で

ちょうど今作の上映が

始まったばかりだった。


待ちに待った

荻上直子監督の新作だからと

なんとかして観に行かれないか

あれこれ考えてみたものの

迂回ルートはどこも大渋滞。

何時に着けるか分からないし

行っても帰って来れる保証は無い。


仕方ない。

その日は諦めて

次の日に行こうと思ったら

今度は映画館が入っている

ショッピングモールごと

電源が喪失してしまい

翌日から全館休業に。


数日後に上映は再開したけれど

平日は仕事で行かれない。

それなら週末にと思ったら

既に上映は最終時間1回きり。

行ったら帰りのバスが無い。

泣く泣く諦めた苦い思い出…


今日

何の気なしにアマプラを開いたら

知らぬ間に

「あなたにおすすめ」されていた。

ありがとうアマプラお願い


今作を観たら

前述の話と微妙にシンクロしていて

不思議な気持ちになった。



STORY

誰とも関わらず生きようと決め、

ボロアパート「ハイツムコリッタ」で

暮らし始めた孤独な山田。

底抜けに明るい住人たちと出会い、

ささやかなシアワセに気づいていく。


山田は、北陸の名もなき町にある「イカの塩辛」工場で働き始め、社長から紹介された「ハイツムコリッタ」という安アパートで暮らし始めた。できるだけ人と関わらず生きていこうと決めていた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。山田は、念願の米を買い、ホカホカ炊き立てご飯を茶碗によそい、イカの塩辛をご飯に乗せた瞬間、部屋のドアがノックされる。ドアを開けると、そこには隣の部屋の住人・島田が風呂を貸してほしいと立っている。ぼさぼさ頭で汗だくの男は、庭で野菜を育てているという。
(公式サイトより転載)


新しい職場の社長に紹介され

「ハイツ ムコリッタ」で

暮らすことになった山田。



誰とも関わらないように

暮らし始めたものの

隣人の島田が

突然家に上がり込んできて

勝手に風呂に入ったり

ご飯を食べたり…



向かいの部屋の

墓石を売る親子とは

顔を合わせれば会釈する。

大家さんには毎月家賃を持っていく。




まるっきり

人と関わらず暮らすことは

案外難しいものだ。



そうでなくても

社長や職場の人

働いていれば

誰かと関わらずにはいられない。

働かなければご飯は食べられないから

否が応でも人と関わることになる。


島田は言った。

「ご飯ってね、ひとりで食べるより

誰かと食べたほうが美味しいのよ」って。

図々しさの言い訳みたいだけど

これが真理とも言える。



島田は山田のことを言ってるようで

自分のことを言っていたのかも知れない。

図々しいくらいに誰かに掴まっていないと

向こう側へ行ってしまいそうだもの。


それは山田も同じようなもの。

意味を見つけようとすれば

暗い闇に迷い込んでしまうだろう。



だから社長は山田に

「頭を使わずに手を使え」って

言ったんだろうな。


山田は島田が

日常にあるささやかな「しあわせ」を

見つけるのが得意な人だと言った。

でもそれを見つけなければ

生きていけないからかもと言った。


私は足先が乗るほどの

小さな石を見つけながら

川を渡る島田の姿を想像した。

ギリギリを精一杯生きている。

それは島田も山田も同じだ。



ゆっくりと湯船に浸かる。

風呂上がりに牛乳を飲む。

炊きたてのご飯を頬張る。

庭で作った野菜を収穫する。

誰かと一緒にご飯を食べる…


そんな

ささやかな「しあわせ」を拾い集めながら

絶望の中に彼らは生きている。



設定は「いま」のはずだけど

作中、テレビやスマホが出てこなかった。

みんなお金がないからなんだろうけど

部屋には必要最小限の古い家電だけ。

島田はミニマリストを自称していた。


そういえば

島田だけ家の中のシーンが無かった。

息子の話も最後まで語られなかった。

彼が抱く心の闇は計り知れない。



あちらとこちらを分けているのが

あの川だとすると

川辺のブルーシートに暮らす人

ハイツ ムコリッタに暮らす人

犬の墓石を買った高台のお屋敷のご婦人…

川からの距離が

生命の距離にも思える。



台風が来るたびに流されそうになる。

実際に流されて生命を喪う人もいる。

命拾いをした人は

また一から生活を立て直す。

それでも一人ぼっちじゃなかったら

案外なんとかなるだろう。


片手を挙げて

「ボクお金持ってません!」って言えばいい。

もう片方の手には

自分家から持ってきた箸を握って。


傷も罪も背負ったまま

みんなで寄り添ってご飯を食べたら

今日もなんとか生きていけそうな気がする。

ここでなら生きていけそうな気がする。

ささやかな「しあわせ」を拾い集めながら…



途中から涙がずっと止まらなかった。

悲しいとか感動したとか

ハッキリとした感情ではないのに

ただただ涙が止まらなかった。


観た後の余韻が心地よく

色々なことに思いを馳せる時間が

また心地よい。




私が見たい

松山ケンイチが見れて嬉しかった。

こういう松山ケンイチが好きなのだ!

NHKドラマ

「お別れホスピタル」も良かった!


ムロツヨシのヤバさとか繊細さとか

言葉にできないような複雑さから

目が離せなかった。


他にも素晴らしい俳優さんばかりで

嬉しくて嬉しくて。

パスカルズの音楽も良かったな。


カエルカエルカエル

冒頭の台風被害の話の続き。
私が暮らす市の隣の隣の市には
市内山間部を走る小さな鉄道がある。
とても人気が高くて
なかなか乗車予約が取れない。
休日には他県から
たくさんの観光客がやってくる。

しかし
台風被害があってから
一部区間が不通となっており

いまも代替バスを運行している。

NHKの交通情報では

毎朝アナウンスが流れる。

現地から離れた所に暮らしている

私の耳にはすっかり馴染んでしまい

当たり前のように聞き流していた。


しかし

今朝「おや?」と思ったのだ。

代替バスのアナウンスが無いことに。

いつから無くなったんだろう?

鉄道の運行再開のニュースを

私が知らないだけなのかな?


調べたら

復旧しているのは全線の半分。

代替バス区間はいまも残っている。

利用者は少ないのかも知れないが

NHKくらいは交通情報のアナウンスを

止めないで欲しい。


私のように全面復旧したと

勘違いしてしまう人がきっといる。

私のように不通区間に暮らす人たちのこと

忘れてしまう人がきっといるから。

不便を感じている人たちが

居ないことにされてしまわないように。


雪だるま雪だるま雪だるま


本作のロケ地は富山県。

能登半島地震と一括りにされてしまうけど

富山も被害が大きかったはず。

映画を観ながらとても気にかかりました。

被災された方々には

心よりお見舞い申し上げます。







↓荻上直子監督に会いたくて他県で行われた舞台挨拶つき上映に行った時のブログ