批判的批判の批判を終生続けた人 | よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

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大好きな映画の感想をメインに、読書感想や子育てについてetc…のんびりした日々をゆるゆると綴った日記です

『マルクス・エンゲルス』

(2017年 フランス他)


経済思想家・斎藤幸平著

「人新世の資本論」

いつもは読まないジャンルだから

私にはちょっと難しくて

読み終えるまで

時間が掛かってしまったけど

日頃から気になっていたことや

疑問に思っていたことに

触れている部分が多く

とても有意義な読書体験となった。


自分でもかなり左寄りな方だと

認識しているけど

共産主義と聞くと

ちょっと腰が引けてしまう。

(これもまた偏見だな)

でも今の資本主義が

このまま続くことにも疑問を感じている。


だから

この本を手に取ってみたというわけ。

(電子書籍だから手には取ってないけど 笑)



その中で

「資本論」を書いたのは

マルクスがまだ若い頃で

その後終生に渡り

論考し続けたとあった。


だから

最初の頃の思想と晩年の思想では

だいぶ変わっているのだという。

それで俄然

マルクスという人物に興味が湧いた。


そういえば何年か前に

ミニシアターで上映された

マルクスの映画が

確かあったなぁと思い出して

AmazonPrimeで探したら

すぐに見つかった。


映画は

マルクスが「資本論」を書く以前

エンゲルスと出会い

「共産党宣言」を

書き上げるまでが描かれていて

これはこれでとても面白かった。



人と人の間で

愛や親切心など情緒的なものが

大切なのはもっともなんだけど

それはあくまでも

お互いに同じ想いがあることが前提だ。


労働力を使い捨ての部品のように

考えている企業家に対して

情緒的なアプローチをしたって

使い捨てを止めるとは思えない。

現状を変えたいと思ったら闘うしかない。


では労働者が連帯して

デモやストライキを行えば

事態は好転するかというと…

それはそれでなかなか厳しい。


企業家が作り上げた

ヒエラルキーの最下位に

労働者が固定されている以上

この関係は変わらない。


システムに適合しない

めんどくさい奴は排除されるだけ。



労働者は労働力という商品を売り

企業家は賃金という形で対価を支払う。


一見イーブンな関係のように見えるけど

実際は

賃金に見合った労働力を

企業家は求めるから

それなら少ない賃金で

より多くの労働力を得る方が得策と

企業家は考えるだろう。


しかも

それには際限がないから

企業家はより安い労働力にシフトしていくし

それに連れて

労働条件はより過酷になっていく。



企業家から

仕事を与えてもらう場がなければ

労働者は労働力を売ることが出来ない。


賃金を得て生活していくためには

過酷な労働だと分かっていても

そこに身を置く他ない。


辛い労働環境の中で

ギリギリの生活を強いられれば

反抗する力もなくなっていく。


企業家は汗水垂らして労働することなく

利益を得ることが出来るから

同じ形態で次、その次と

労働者に仕事を与える場を増やしていく。


システムを磐石にするために

別のシステムを作り

そのシステムを潤滑に動かすために

また別のシステムを作る。


そのためのルールを作り

ルールを守るためのルールを作る。

それが延々と繰り返され

システムもルールも複雑化していく。


労働者はシステムとルールの檻の中

振り落とされないよう

必死でしがみつかなければならない。

現状を変えようなんて

考える余裕を持つことも出来ない。



話を映画に戻そう。

ドイツ生まれのマルクスは

改宗したユダヤ人。

産業革命がもたらした

不平等な世の中を変えるべく

繰り返し政治批判をしたことで

ドイツを追われフランスへ逃げた。

妻イェニーはドイツ貴族出身だが

自由な考え方の持ち主で

マルクスのよき理解者。


イギリス人のエンゲルスは

父親が紡績工場を営んでいる

裕福な家庭の生まれ。

工場のアイルランド人を

不当に扱う父親を軽蔑していたが

エンゲルスがその工場から

高給をもらっているのも事実。

後にエンゲルスの妻となるメアリーは

エンゲルスの工場で働いていた元女工。

経営者であるエンゲルスの父親に反発し

クビになってしまったが

エンゲルスは彼女の気高さに惹かれた。


フランスで再開したマルクスとエンゲルス。

互いの思想を認め合う二人は

友情を深め合い

激化する社会情勢の中

「共産党宣言」の執筆に

打ち込んでいくのだった…



アイルランド人たちから

労働力を搾取し得たエンゲルスの高給。

そんなエンゲルスから

援助してもらっていたマルクス。


不当な扱いをされている労働者を

解放させるための活動資金が

結果的に労働者から搾取した金で

成り立っているという矛盾。

しかし金がなければ

本を出版することすら出来ない。

二人共ジレンマを感じていた。


元女工のエンゲルスの妻は特に

エンゲルスの金の出処を嫌っていた。

どんなに高潔な志も

金で支配されてしまうのがもどかしい。



マルクスとエンゲルスが

同志だったことは知っていたが

二人の妻、イェニーとメアリーも

同じ志を持っていたと知り

とても感動した。


特にメアリーは妻でありながら

夫を自分のものと思っていない。

自分も夫のものと思っていない。

何者にも所有されない

支配されないという生き方がかっこいい。

彼女はアナキストだったと思う。



イェニーはドイツの貴族階級に生まれながら

ユダヤ人のマルクスと結婚した自由人。

祖国を追われ

ヨーロッパの国々を転々とする

貧しい暮らし。

家事育児の傍ら

夫の論文を読み込み

校正もするし意見も言う。


二人ともこの時代には

珍しいタイプの女性だったと思うから

そういう意味でも

とても面白い映画だったな。




マルクスの

批判的批判を批判する精神は

他者のみならず

自分自身の思想にまで徹底していた。

「資本論」の論考を終生続けたのも

その批判的批判を批判する精神ゆえ。


遍くを救うため

生命尽きるまで教えを説き続けた

仏陀みたいだなと思ったりもして…


幸せになるための「所有」だったはずが

「所有」することで金に縛られ

金のために労働に縛られたら

何が幸せか分からなくなってしまう

気がする。


政治や経済や思想など

興味ある方もない方も

気になった方はぜひ❗️