12日間、水だけで過ごしてみました。いわば断食です。目的はダイエットではありません。〈空腹感〉の正体が知りたかったのです。
ひらたく云うと「どうしてお腹が減るのかな?」
食事は充分摂っているはずなのに、夜中に小腹の空くことがあったり、家でゴロゴロしている時に限って、いつもよりお腹の空くことがふしぎだったのです。
もっとも、後者には持論があります。動きたがっている肉体が、怠けたい心と妥協するために「とりあえず、なんか食べません?」とメッセージを発しているのです。
美味しいものを食べれば脳内に快楽物質が分泌しますし、ものを食べると胃が動きます。胃は筋肉です。胃が動くことで、肉体も「筋肉使ってるね!」と自らを騙しているのです。
しかし、消費されないカロリーがどんどん蓄積されるため、そのまま放っておくと、怠惰なアメリカ人みたいにブクブク太ってしまうのです(※ 医学的根拠はまるっとありません)。
問題は前者です。「こりゃもう辛抱たまらん」と云うほどお腹の空いた時は別ですが、なんとなく「あ、お腹空いたな」と思う時、私は本当にお腹が空いているのでしょうか? 夜中に小腹が空いた時、私は本当にお腹が空いているのでしょうか? ……私、気になります(なんでしょね?)。
激しいスポーツをする時は、お腹が空く前に栄養補給をしておかないと、ハンガーノック(いわばガス欠)状態におちいってしまいますが、日常生活でそのようなピンチが訪れることは稀(まれ)です。この場合、あまり参考になりません。
本当の〈空腹感〉とはなにかを探るために「そうだ。1週間、断食してみよう」と思いました。ただ、日常生活に支障をきたすようでは困るので、一応、水だけは飲んでおくことにしました。
「2ヶ月間、水だけで生きていた女性がいる」と雪城ほのかが云っていたので、1週間くらいなら問題はないでしょう。
断食がちょっとしんどかったのは3~4日目です。四肢にだるさを憶えました。時おり、ひどい空腹感にさいなまれましたが、長続きするものではありません。なんとか耐え忍ぶことができました。
ふしぎなことに、断食5日目から空腹感はほとんどなくなりました。体力は落ちていますが、精神的に疲弊するなどと云った症状は出ませんでした。
水分をしっかり補給しているせいでしょうか(口の中はいつもカラカラに乾いていましたが)、食事のことで頭が一杯になったり、無意識のうちに食べ物を凝視してしまうようなこともありませんでした。
正直、最初は「1週間も断食するのはムリだろう」と思っていたのですが、12日目を迎えても、楽勝な気分でした。極限状態にはほど遠く、まだ10日間は余裕でイケそうです。
こうなると、もう「イケるとこまでイッたろかい」と云う気分にもなりましたが、体力が落ちていることを考慮して(やめ時が判らなくなりそうだったので)一応終了しました。
丸12日間なにも食べていないので、体重も減りました。ダイエット目的ではないため、はじめの正確な体重は計り忘れましたが、6~7kg減ったようです。
ただ、1日500gずつ体重を落としていくのであれば、1時間の有酸素運動で同程度の効果は得られます(※ 効果には個人差があります)。
ようするに、ダイエット目的で断食をするのは、労多く功少ないと云えるでしょう。食べながら運動してやせる方が、長い目で見ても良いことだと思います。閑話休題。
で、肝心の〈空腹感〉の正体についてですが……とどのつまりは、よく判らんかったなあ、と(笑)。自分の身体感覚が、いかにあやふやなものであるか確認しただけと云う気もします。
あとは「なにごともやってみる前から限界を決めつけてはいけないなあ」と改めて思いました。常識や思いこみが、いかにツマラナイものか判ります。
自分で経験していなければ、誰かから「12日間、水だけで生活しても全然平気だったよ」なんて云われても、信じないと思います。
「なんでも体験してみることは大事だなあ」と思いました。……当初の目的とは、なんの関係もないんですけどね。
ま、どっとはらい。
〈おわり〉
【蛇足1】
「徒然美術読本(13)
」でも触れましたが、彫刻家・詩人の高村光太郎は、パリ留学中に高価なロダンの作品集を購入し、塩と水だけで生活していたそうです。「本当にそんな生活できるのかな?」と疑問だったのですが、今回の体験で、さほど大変ではなかったであろうことが〈実感〉として判りました。最低でも1ヶ月くらいはなんとかなりそうです。
【蛇足2】
水だけ断食の弊害かどうか定かではありませんが、4日目の夜に、突然ひどい腰痛に見舞われました(人生初!)。鎮痛剤を飲まなければ眠れない日々が4日間続きました(この間は空腹よりも腰痛との戦いでした)。毎日ストレッチで腰痛は解消されました。
〈おわり〉