「夜明けのすべて」+「PERFECT DAYS」+「72時間」 | 直球オヤジの自由奔走生活

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座右の銘は「"行きたい"、"やりたい"、"欲しい"と思った時が"その時"」。55歳で早期退職し、高齢者と呼ばれるまでの今が"その時"。趣味のバイクや自転車は年齢的に待ったなし。エコノミーな生活で趣味を楽しむ。これをどう追い求めるかが、このブログのメインテーマです。

ずっと気になっていた映画があった。今まで、この手の映画は殆ど観てこなかったが、観て良かった。何が私にそう思わせたのだろう。

今年は観たい映画がなかなか現れず、3月になってまだ1本しか観ていなかった。別に自分に課している訳ではないが、例年平均して毎月2本程度は観ているのに、この少なさはどうしたことか。何かイイ映画はないか?私が日頃映画情報を得ている「
KINENOTE」という映画情報サイトにアクセスすると、そこに長らく断トツの点数で首位に張り付いている映画がある。「夜明けのすべて」という邦画。写真には若い男女が立っている姿が映っている。当初は「この手のモノはくだらないラブコメだろう」と、そう思い込んで無視していた。しかし、一向に観たい映画は現れないので、その映画の解説を読んでみた。



 

映画のあらすじはこうだ。「月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚の山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生き甲斐も気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる」(映画の公式ページより)

これを読んでもあまりピンとこなかったが、なぜか
長期間2位以下を大きく離してトップにいるのだから、少なくてもくだらない映画ではなさそう。主演の二人が出た映画やドラマは観たことがないので、どんな俳優かも知らないし、主演女優の「上白石萌音」って、苗字が三文字なのも何か嫌だな(偏見)。名前の「萌音」も何と読むのかも知らない。でも私の生き方は「気になるのなら、それを解消する」なので、この気になる映画を観に行ってみた。もし「観るんじゃなかった・・・トホホ」となっても、高々千数百円の損で済むしね。

良かった。こういう映画は少ないかも。二人の主人公の周囲に足を引っ張る悪人や嫌な奴は一人も出てこない。主演の二人もお決まりの愛だ恋だという関係にならない。取り分け大きな出来事や事件が起きる訳ではない。「ほら泣け」というような感動的なシーンも無い。自分の抱える障害により、小さな会社で働く二人が淡々と生活し仕事をし、そのうちその障害を意識してそっと助け合うという話で、この二人が中心になって進める終盤のイベントにしてもささやかな規模のもの。そんな映画的な刺激が殆ど無い作品だから、人によってはつまらないと思うかもしれない。しかし、普通の人の日常って、大声でまくしたてたり、どなったり、絶叫したり、泣きわめいたりしない。静かに日常生活が淡々と流れていくだけ。自分の障害に悩みながらも、普通の生活を営んでいこうとする若い二人の好演と、それを取り巻く周囲の人々。ただそれだけの映画だったが、ありていに言えば「観終わった後、優しい気持ちになった」。

そう言えば、去年の終盤に観た、
役所広司主演の「PERFECT DAYS」もそうだった。「東京・渋⾕でトイレ清掃員として働く平⼭は、静かに淡々とした⽇々を⽣きていた。同じ時間に⽬覚め、同じように⽀度をし、同じように働いた。その毎⽇は同じことの繰り返しに⾒えるかもしれないが、同じ⽇は1⽇としてなく、男は毎⽇を新しい⽇として⽣きていた。その⽣き⽅は美しくすらあった。男は⽊々を愛していた。⽊々がつくる⽊漏れ⽇に⽬を細めた。そんな男の⽇々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を⼩さく揺らした」(映画の公式ページより)

あらすじには”思いがけない出来事”と書いてあるが、映画的には全然大した話ではない。でも普通の人においては日常の生活でちょっとザワつく出来事はあるもの。トイレ掃除を生業とする主人公の生活を淡々と見せながら、そんな小さな出来事を少しばかり混ざっているだけで、全体のトーンは
普通の人の普通の日常を追っただけの映画だ。役所のセリフは非常に少ない。でも2時間の上映中全く退屈することなく、そして「人間って、そういうもんかもしれないな」「人の幸せって何だろう」と深く考えさせられた映画だった。

これら二つの映画は所詮は作り話。トップスターが演じているから、普段の彼らの優雅であろう生活を想像するとちょっと冷めてしまうかもしれないが、私がよく見る番組「
ドキュメント72時間」(NHK)は一般人が主人公。72時間定点観察をしながら、そこに現れた人にインタビューをするだけ。ポツリポツリと話す彼ら彼女らの口から出る話の中には、自分自身が抱える境遇をチラッと垣間見せられたり、その人の生き方を感じさせることがある。この番組を観て思うのは「みんなそれぞれの人生を生きているんだな」という単純なこと。でもそんな普通の生活を普通に送れることの幸せを感じてしまうし、ただそれだけのことなのに、人間の愛おしさを深く感じてしまう。

この番組のテーマ曲「
川べりの家」が良い。

♪大人になってゆくほど 涙がよく出てしまうのは
ひとりで生きて行けるからだと 信じて止まない
それでも淋しいのも知ってるから
あたたかい場所へ行こうよ
川のせせらぎが聞こえる家を借りて 耳をすまし
その静けさや激しさを覚えてゆく
歌は水に溶けてゆき そこだけ水色
幸せを守るのではなく 分けてあげる♪

最近、ギターでこの歌を弾いて唄っているが、泣けるなぁ。特に突き刺さるのが、最後の一節。「
幸せを守るのではなく 分けてあげる」。近年あまりにもガチャガチャしてきた世界。この混沌とした社会は今後更に増していくだろう。そんな世界の流れから取り残されつつある日本だが、平和だし食うには困らないし一見幸せそうに見える。でも愚かしい人々が国の政治を握っている実態は不幸だ。人類全ての人間が「幸せを守るのではなく 分けてあげる」という境地に至ったら地球も救われるだろうに。