バイクツーリング到来の時期になったが、私が一番懸念するのは、他車との事故や転倒・転落のような単独事故よりは野生動物との遭遇。特に出没頻度も高く、その挙動が読み難いシカが最大の敵になる。そんな折、バイクがシカと衝突し、ライダーが亡くなったという事故をネットのニュースで知った。
一昨年の6月、私は北海道ツーリングでシカと接触して大転倒し、大ケガを負った。突然どこからともなくバイクの目の前に飛び出して来たシカ。北海道ツーリングは通算20回ほどで、それまでにも何度かシカにはヒヤリとさせられた経験があり、奴らには十分警戒していたのにも関わらず、シカとの接触事故で酷い目に遭ってしまった。巷ではクマのことばかり話題になるが、先日のニュースでこの事故のことを知ると「やはりシカ野郎による事故はあるんだな」と思いつつ、我が身に起きた過去の記憶が再び蘇る。
先日入電したバイク事故の内容はこうだ。(FNNプライムオンラインより抜粋、編集)
「群馬県渋川市で29日未明男性が国道で倒れているのが見つかり、その後死亡が確認されました。警察はひき逃げ事件として捜査しています。
29日午前1時半ごろ、群馬県渋川市川島の国道で「バイクと人が倒れていて、轢いた車が逃走した」との通報がありました。現場は片側1車線の直線道路で(転倒した)バイクの近くには2頭のシカが倒れていました。警察はシカと衝突したあとに後続車にはねられた可能性もあるとみて目撃情報をもとにひき逃げ事件として調べています」(※その後、ひき逃げの容疑者は逮捕された)

死亡したのは衝突後なのか、轢かれたからなのかは不明だが、いずれにしてもシカが原因
これだけの情報しかないが、ここから何が言えるだろう。私の長年の経験を絡めて述べてみる。
・地図でこの地名を探すと現場は国道353号線のバイパスのようで、位置的には市街地からさほど遠くなく、深山幽谷の深い山の中ではない。こんな場所でもシカが出る。それも自動車専用道に。シカが非常に多い北海道では市街地をシカが闊歩している光景を見たこともあるが、北海道以外では深い山間部でないとなかなか目撃しない(奈良公園のシカは別)。去年から頻繁に報道されるクマの出没も、山間部と市街地の境界のエリアにも出没するようになってきたと言われているが、シカも同様な傾向にあるのだろうか。
・私の事故はシカと”接触”し転倒したが、私が転倒から起き上がった時にはシカの姿は無かった。シカの傷は大したことではなかったのだろう(私は数箇所骨折し重傷)。報道された事故では、”シカが現場に倒れていた”ということから、バイクはシカとモロに衝突したのだろう。衝突となると、現場は自動車専用道だからそれなりのスピードが出ていたはずで、ライダーは大きく飛ばされてしまったであろう。また、北海道での私の事故でバイクを運んでもらったレッカー業者の話によると、四輪車でもシカとまともに衝突すると走行不能になるほどのダメージを負うことが多いと言っていた。動物との接触や衝突を甘く見てはいけない。

2024年6月、私の事故直後(転倒したバイクは、通り掛かった方の協力を得て起こした)
気がついた時にはシカの姿は無かった
草が散らばっている地点から、森の中に戻ったと思われる
・ニュースでは”2頭のシカ”と書かれていたが、シカはハーレムを形成し群れで行動することが多い。私が過去に何十回と目撃しているが、単独のシカの場合もあるが、複数頭、それも10頭前後の群れを成していることもあった。一頭をかわしてホッとしたら、そのシカを追うかのように次々飛び出してきたこともある。
・事故の時間は深夜1時頃。シカは夜行性ではないが、夜間や明け方活発に行動するそうだ。シカの目は暗闇でピカーッと光ってよく目立つが、それでも夜は道路の傍らに立つシカの発見はし難く、視認は遅れがちだろう。前出の北海道のレッカー業者も、道内で起こるシカとの事故(道庁のデーターによると年間約5000件!)は夜間の方が圧倒的に多いと言っていた。
バイクに乗る友人や息子にも「気を付けて」と言って送り出すことがあるが、いったいどう気を付ければいいのか。残念ながら有効な策は乏しいというか、ほぼ無い。無いと言いながらも、私のブログではライダーにおける野生動物対策を何度も書いており、重複する部分もあるし、大した効果も望めそうもないが、全くの無策では余りにも危険な状況になって来た。この事故の件も含めて野生動物、特にシカにどう備えたら良いか書いてみる。
1.遭遇確率を下げる
シカやクマが活発に活動する夜間や明け方近くは発見も遅れがちになるので、その時間帯はできる限り走らない方が賢明。しかし、そうしたとしても自然豊かな土地を走ることが多いツーリングにおいて、野生動物に全く遭遇しないようにしたくてもほぼ無理。但し、例えば「クマだけは勘弁して」ということなら、絶滅してクマがいない九州や、極僅かしか生息していないと言われている四国を選べば大丈夫。しかし、シカはほぼ全国どこでも目撃する。サルも頻繁に遭遇するが北海道を除いて全国区。北関東ではシカよりイノシシの方が深刻だと言う。故に、野生動物に遭遇するか否かは運次第ということ。
2.早めに見つける
野生動物が道路上にいればすぐに認識できるが、カーブを抜けた先の道路上にシカが立っていたこともあり大いに慌てた。コーナーリングの途中で進路を急変させるにも限度があるし、急ブレーキを掛ければ転倒の可能性が高まる。それでも道路上にいるだけマシで、多くの場合、草木の生える道路脇の路肩付近にいることが多い。野生動物が動いていれば発見し易いが、多くの場合、草を食んでいたりして静止しており、しかも体の色はほぼ保護色なので、至近距離にならないとなかなか見つけられない。見つけ難い点では警察のネズミ捕りと同様だ。
また、バイクの場合、そこそこスピードを出して走るので、スピードが増せば増すほど視野角は狭まり、道路の脇の方まで十分に認識できない状態になる。スピードを極端に落とし、路肩を含めてキョロキョロ見ながら走れば野生動物を捕捉できる可能性は高まるが、交通量が少ない爽快な道をノロノロ走るのは現実的ではないし、対向車を見逃したりしたらそれこそ大変だ。よって、早期に野生動物を見つけるといっても限度がある。
シカはどこにいたのか、接触するまで全く見えていなかった
3.遭遇した時、どう対処するか予め考えておく
遭遇するかしないかは運次第。早めに見つけ難を逃れたくてもかなり見つけ難い。いったいどうすりゃいいのさ。唯一できるのは、バイク走行中に遭遇した時、どう対処するかを予め想定しておくことだ。クマに遭遇したら、決して脱兎のごとく逃げてはいけないと言われている。クマは逃げる獲物を追うかららしい。そういうことを知っているか否かで、生死を分かつことがある。ではバイク走行中にシカに遭遇したらどうするか。
遭遇するパターンにもよる。私が一昨年事故った時、シカは私の死角から目の前に飛び出してきて、全く避けようがなかった。こういうパターンはほぼ防ぎようがないが、数十メートル前方に突然シカが飛び出して来たり、路肩や道路上に立っていたら対応は可能。まずは減速する。できれば徐行程度、場合によっては停車する。そうしてホーンを鳴らして蹴散らす。複数頭の場合、ホーンをちょっと鳴らした程度では動じないことがある。JR北海道の花咲線に乗った時、線路上にたむろしていたシカの集団は列車が警笛を何度鳴らしても動かなかった。私が道路上の群れに遭遇した時もそうだった。しばらく眺めていたらようやく移動し始めたが、ホーンを鳴らせば逃げるだろうと思って、そのままバイクの進行を止めずに進むのは危険だ。奴らの挙動は不信極まりなく厄介だ。動き出したと思ったら急に止まったり、方向を変えたりする。だからホーンを鳴らして動きだしたと思ったら目の前で急に止まったり、または他のシカが草むらから追随して飛び出してくることもあるので、蹴散らした直後はシカの姿が完全に見えなくなるまで気を抜かず、その間はスピードを落として走行する。
では前述の数十メートル先ではなく、数メートル先の前方、バイクの目の前すぐ近くに、走行ラインと被さる位置に飛び出してきたらどうするか。これは難しい。私の過去の例では間一髪、寸でのところでヒラリとかわせたこともあったが、腕が良かったというよりは運が良かっただけ。急ブレーキを掛けるか、ヒラリとかわすか、その時のスピードや道路状況、走行姿勢にもよるし、そんな事態においては頭で考えている間はなく本能的な動作になる。どんな回避手段であっても、転倒覚悟で衝突だけは避けた方が被害は少ないが、こうなるともう腕と運次第。
巷のクマ騒動の陰でシカやイノシシ、サルに困っている人々は多いはずで、バイクのライダーもそのひとつだ。大手メディアはもとより、バイク雑誌でも取り上げられないテーマで見落としがちだが、バイクで大自然の中を爽快に走っている時、その爽快さに酔いしれながらも、頭の片隅に野生動物(特にシカ)の存在を忘れずに思い描いておこう。そして万一の転倒や衝突に備え、保護具で身を守ること。これらの効果は僅かかもしれないが、その僅かな差が生死を分かつかもしれない。
宿に掲示されていた啓発ポスター










