余程の温泉好きでなければ訪れることもないであろう湯治宿。
どんなところか、ご存知でない方も多いのではないでしょうか。
昔は農家が農閑期に静養するために長期滞在していた宿。
病気の治癒目的で滞在していた人々も。
来た時は杖をついていても、帰りは杖を忘れて帰る人も多かったとか。
長期滞在の人達は、食材を持ち込んで自炊をしていたのです。
今でも一部でそのような滞在ができる宿もありますが、だいぶ少なくなりました。
自炊にも種類があり、全自炊は食事の全てを自分で賄う。
半自炊はご飯と味噌汁は宿から出してもらい、おかずは自分たちで用意する。
自分で調理する必要があるため、自炊客用の調理場があります。
炊飯器は自分で持ってくる人が多いようです。
お部屋で炊くんですね。
大抵の湯治宿は、「湯治部」と「旅館部」に分かれていることが多いです。
建屋も違うし、料金も違う。
しかし、旅館部に泊まったとしても、一般的な温泉旅館よりもかなり安いことが多い。
それは、サービスや接遇のベースが「湯治宿」であるからだと思われます。
基本的に、至れり尽くせりのサービスやホスピタリティは料金に含まれていないと思った方がいい。
湯治部よりも綺麗で設備が良い部屋を提供され、快適に過ごせるのが大きく違う点かな。
そして食事が付く。
お風呂は湯治部と共用なので、そこはやはり激渋です。
しかし、マニア垂涎の素晴らしいお湯が充されているのは特筆すべき点。
湯治宿の最大のウリは泉質ですから、ここがダメだと存続できないのです。
逆に言うと、今残っている湯治宿は、かなり素晴らしい泉質であることが保証されていると言えます。
「高級旅館に名湯なし」だと私は思っていて、そういうところは癖のない単純泉か、アルカリ泉が多いです。
なぜそうなるかというと、強酸性の温泉や硫黄泉はあらゆる設備を劣化させるので、痛みが激しい。
よって、耐用年数が極端に短くなります。
設備投資に大枚はたいても、すぐに傷んで修繕が必要になります。
壁や屋根、内部の構造や浴室に至るまで、全てです。
家電や電子機器もすぐに壊れるのでしょっちゅう買い替えねばなりません。
だから良いものは置けないし、壊れたらすぐに替えが効く値段のものでないと設備できない。
なので、湯治宿はあらゆる設備の「痛み」との戦いです。
だから高級旅館にはなりにくい。
高級な宿に求めるようなものを、ここでは求めてはいけないということ。
では、どういうお客が来るかといえば、単純に、その宿のお湯が大好きな人たちです。
食事は豪華である必要はなく、家庭的なおいしさのあふれるお食事が出れば御の字です。
そしてお部屋に清潔感があるなら更によし。
寝具は清潔感と寝心地が大事になります。
お値段的には、繁忙期は1泊2食付きで1万円を若干上回るくらい。
それ以外の時期なら8千円台で泊まれるところもあります。
全自炊の部屋なら1泊素泊まりで3000円代のところもある。
しかし、こういう部屋はやはり激渋なので、湯治上級者向けです。
私もそういうお部屋はちょっと敬遠します。
お年寄りの長期滞在が多い印象。
今回お邪魔したお宿はGW過ぎだったせいか、一泊2食付きで8千円代でした。
そしてお部屋はこんな感じで綺麗にリノベーションされてます。
しばらく来ないうちに、こんな綺麗なお部屋ができてたんだな。
眺めも良き。
硫黄のにおいが染み付くので、浴衣へのお着替えはマストです。
水回りは共用ですが、こちらも綺麗にリノベーションされていました。
どうやら、跡を継ぐ人が決まったみたいです。
以前は高齢のご主人が中心になって頑張っておられましたが、今回来てみたら、娘さんや息子さん、お孫さんと思しき若い人たちが目に入りました。
今後はこのかた達で宿を引き継ぐことにしたのでしょう。
以前の高齢のご主人の頃は、傷んだ設備を治す気持ちもなく、廃業を考えているような節が見えました。
ですが、このお金のかけ方を見るに、これからもこの宿をやっていこう!という後の世代の意欲が感じられました。
この素晴らしいお湯が存続するのですから、私も我がことのように嬉しいです。
今回のお部屋がとても気に入ったので、部屋番号を写真に撮っておきました。
どのお宿でもやるのですが、好きな部屋に当たったら、部屋番号を記録しておく。
そうすると、次回の予約の時に部屋指定でお願いすることができます。
湯治宿は特に、部屋によってコンディションがかなり違いますから、好みの部屋を覚えておくといいのです。
このお宿はネット予約を受けておらず、電話予約のみ。
電話すると、最初に「こちらに宿泊されたことはありますか?」って必ず聞かれます。
知らずに過大な期待をしてくるお客を防ぐためだと思われます。
もし初めてなら、この宿が湯治のための宿で、とても古い設備であることや、普通の温泉旅館のようなサービスは提供していないことなどを説明する必要がある。
そうしないと、来てみてびっくり!となってクレームになってしまうので、それを避けるためだと思われます。
別の湯治宿では、電話予約を受けると最初に、「ウチ、来たことあります?ボロボロなんですよ!」って言ってました。
おばあさんから温泉宿を受け継いだお孫さんが運営されていたのですが、そうやってクレームを防いでおられましたね。
私はそこも大好きでよく行っていたのですが、本当にボロい!ボロいを通り越して崩れ落ちそうな宿でした。
でもお湯は一級品で。。
そして、リノベーションされたお部屋が1つだけあって、常連になるとそこへ通してもらえるという秘密もあったりして。
まあ、湯治のお宿って、そんな感じなのです。
とにかく素晴らしいお湯を目指して行き、色んなことに目をつむって楽しむのです。
温泉の出る親戚の家に寄せていただくような感じといったら良いでしょうか。
親戚の家に泊まりに行ったのに、あれやこれや過大な要求をする人はいませんよね?
そんな感じです。
そういう場所で素晴らしいお湯を楽しみたいなー、と思える人だけ、お気に入りの湯治宿を探してみてください!