
花冷えのあの日、私は公園のトイレの隅でうずくまり、震えていました。母さんは、誰かが私たちを拾ってくれないかと、犬を連れた人のもとへ行っては、助けを求めていました。
日が傾いてきてますます寒くなってきた頃、通りがかったパパが私に気づきました。抱きかかえてくれた時の、たくましい腕と厚い胸に、心からほっとしました。すぐに母さんをよびたかったけど、私は生まれてまだ間もなく、その声は出ませんでした。
パパが公園の管理人さんから私が数日前からそこにいると聞き、「一緒に帰ろう」と言ってくれました。そして、大きなキャンピングカーの広いソファに寝かせてくれたのです。軟らかくて温かくて、それはもう幸せでした。
走ってからしばらくして、バックミラーに映る何かに、パパが目を留めました。懸命に追いかけてくる母さんです。パパは車から降りて、息の荒い母さんの背中を優しく撫で、「そうか、君はお母さんだったのか」と、私のそばに導きました。
その時、窓の外には一面に咲く菜の花畑が金色に輝いていました。パパは、私を「うめ」、母さんを「サクラ」と名付けました。私たちの人生が初めていろづいた瞬間でした。
それからはパパが休みを取れるたびに、キャンプに連れて行ってくれます。私たち母子が住む小屋の前には愛車が止まっていて、その日は朝から準備するパパが見えます。私たちはそわそわして「早く連れてって~♪」と歌います。
パパはかっこいい車やバイクも乗りこなすけど、やっぱりキャンピングカーが一番好きです。運転手のパパにくっついて、この先にはどんな世界が広がっているのだろうと、流れる景色をまっすぐ見つめます。
北海道から本州、四国、九州まで、海、山、川、あちこちの場所へ行きました。お気に入りは、番屋のある海。漁師さんが獲れたばかりの魚をくれるからです。パパも「新鮮な魚はいいよなあ」とホクホク顔です。
「めいっぱい遊んできたけど、うめとサクラとキャンプに行くのが何より楽しいよ。こんなに楽しいことがあるとは思わなかった」と、パパは話します。それは私達も同じ。こんなに豊かで鮮やかな日々が待っているとは、思いもしませんでした。
あの時助けてくれて、本当にありがとう。今度のお休みは、どこへ行きますか?もうすぐ4年目の春ですね。
うめより
大塚薬報2020.1.2 No.752 「拝啓御主人様」より引用
そのときの出会いが人生(犬生?)を変えた心温まる話です。
「素晴らしい人生をあなたのものに」私の好きな言葉ですが、読んでくださった方に温かい気持ちが届きますように。