昨日の朝、ちょっと寝坊していつものピーター・バラカンさんの番組をつけたら、ジェシ・ウィンチェスターの「ペイデイ」のライヴ・バージョンが流れている。おっ懐かしいと思っていると次もジェシの「シャマ・ラマ・リン・ドン・ディン」、ピーターさんの話ではどうもジェシが亡くなったらしい。
慌ててネットで検索すると18日金曜日の朝にここ数年患っていた食道がんのために亡くなったとのこと。享年69歳。
ジェシ・ウィンチェスターの音楽に出会ったのは高校二年生だった77年のことで、彼のデビュー・アルバム『ジェシ・ウィンチェスター』が最初でした。
1970年に発売されたアルバムということで発売から7年後に耳にしたことのなるのですが、僕を含め多くの日本のアメリカン・ロック・ファンはこのタイミングでジェシ・ウィンチェスターを体験したのではないかと思います。知る人ぞ知るというシンガー・ソング・ライターが日本でも聞かれるようになったのは、以前拙ブログでも取り上げたワーナー・パイオニア(現ワーナー・ミュージック)とニュー・ミュージック・マガジンのコラボにより76年に行われた<ワーナー・パイオニア「ロック名盤廃盤復活アンケート」>という日本での発売は勿論、本国でも生産中止や廃盤の憂き目を見ている名盤たちを復活させようというキャンペーンの第一回発売作品として日本盤が発売されたからでした。
記念すべき第一回発売のライン・アップは以下のとおりでした。
50代以上だと全部持ってたよという方も多いんじゃないかと思います。今で言えば「ルーツ・ロック」的なアルバムが多く、この「名盤復活」はその後の日本でのアメリカン・ロックの聴き方にも大きく影響を与えたインパクトのあるキャンペーンでした。
ジェシのデビュー・アルバム『ジェシ・ウィンチェスター』が選ばれたのは、ジェシのソングライティングや歌の素晴らしさもありますが、アルバムのプロデュースがザ・バンドのロビー・ロバートソンであり、レヴォン・ヘルムもドラムとマンドリンで参加していたのが非常に大きかったと思われます。75年発売の『南十字星』にレコ評で小倉エージさんが100点満点をつけるなどニューミュージック・マガジン周辺ではザ・バンドは今で言うところの「ネ申」的な存在でしたか。その事はこの第一回発売でもザ・バンドのプロデューサーでありバンドのメンバー全面参加のジョン・サイモンの『ジョン・サイモンズ・アルバム』、リック・ダンコ共作の名曲「スモール・タウン・トーク」を収録し勿論ザ・バンド全面参加でこれぞウッドストック系という『ボビー・チャールズ』と、ザ・バンドが深く関わったアルバムが3枚も選ばれていることでもお分かりいただけると思います。
ルイジアナ生まれのジェシが、何故カナダ出身でNY州郊外のウッドストックを本拠とするロビー・ロバートソンのプロデュースでアルバムを出すことになったのか。ご存知の方も多いかと思いますが、67年23歳の時にベトナム戦争への徴兵令状を受け取ったジェシは、戦争に抗議し徴兵を拒否するためにカナダのモントリオールに移り住みます。そしてカナダで曲を書きコーヒー・ハウスやライヴ・ハウスで歌っているところ、69年にロビーと知り合い、ロビーの援助によりアンペックスと契約しレコード・デビューを果たすこととなります。
>僕が初めてジェシ・ジェイムス・ウィンチェスターにあったのは、カナダのオタワで、とても寒い冬の日だった。彼は徴兵から逃れるために、古い教会の地下室に隠れていたんだ!彼はギターを取り出すと、立て続けに6曲ほどすばらしい歌を披露してくれた。僕はそれを聴き終えるとすぐに、彼のデビュー・アルバムをプロデュースすることを約束した。今思い返すと、なんてクラシックな体験だったんだろう。
by ロビー・ロバートソン『ライヴ・アット・ザ・ビジュウ・カフェ』ライナーより
こうして発売されたジェシのアルバム自体がヒットすることはありませんでしたが、ジェシの作品は多くのミュージシャンに認められカバーされるようになります。
”The Brand New Tennessee Waltz" by Joan Baez
"Brand New Tennessee Waltz" Matthews Southern Comfort
"Brand New Tennessee Waltz" Every Brothers
"Yankee Lady" Brewer and Shipley
”Biloxi” Tom Rush
”Payday" Alex Taylor
Elvis Costello, Jesse Winchester & Sheryl Crow on bass - "Payday
以上はデビュー・アルバムからのナンバーです。カントリー系のミュージシャンのカバーが多い中でかなり後年にはなりますがエルヴィス・コステロがカバーしているのが意外な感じもします。でもコステロはカントリー大好きですからね。アレックス・テイラーは完全にスワンプ・ロックになっていてカッコイイですね。
ジェシの曲の中で最もヒットしたのは2ndアルバム『Third Down, 110 to Go』収録の「サード・レイト・ロマンス」のアメイジング・リズム・エイシズによるカバーで75年に全米14位、カナダでは見事1位のヒットとなっています。
”Third Rate Romance” Amazing Rhythm Aces
僕が初めてジェシの名前を知ったのは75年に発売されたジェリー・ジェフ・ウォ-カーの『ライディン・ハイ』の中に収録された74年の3rdアルバム『Learn to Love It』の「ミシシッピー・ユア・オン・マイ・マインド」という名曲中の名曲によってでした。
”Mississippi You're on My Mind”Jerry Jeff Walker
故郷に帰れないジェシの気持ちをおもんばかってカバーしたジェリー・ジェフのバージョンも大好きなのですが、後にLPを買って耳にした本人バージョンにはかないませんでした。
"Mississippi You're on My Mind" Jesse Winchester
ワゴンの轍の道
轍の両脇には草がぼうぼう
そんなのを眺めていたっけ
道の片側には
錆びた鉄条網の壁があり
その向こうには
古いタール紙貼りのバラック
我が心のミシシッピー
我が心のミシシッピー
我が心のミシシッピー
狂ったオーヴンのような暑さを
燃え立つような南部の太陽の下で
感じていたことを思い出す
土埃の雑草の中
太ったバッタが跳ねていた
こんがり焼けちまう前に
小川に逃げ出すことにしよう
我が心のミシシッピー
我が心のミシシッピー
我が心のミシシッピー
真夏のうだるような暑さでカラカラに乾いた土埃にまみれた雑草、はたから見ると勘弁してもらいたいような南部の風景なのでも、故郷に帰れないジェシにとっては心を揺さぶる懐かしい風景、そんな気持ちが伝わってくる素晴らしいと歌声です。
日本では先にも書いたようにザ・バンドがらみの1stが「名盤」とされ発売元のベアズヴィルの日本での販売権が変わるたびに国内盤がリイシューされています。90年代に来日したイアンマシューズはレコード店でジェシのCDを見つけ大喜びで買っていったそうです。しかし、「ミシシッピー」が収録されジャケもジェシの優しさが伝わり、僕個人としては1st以上に好きな『Learn to Love It』や2ndの『Third Down, 110 to Go』がリイシューされないのはなんとも残念です。
"L'AIR DE LOUISIANE" JESSE WINCHESTER
ジェリー・ジェフやガイ・クラークそしてジェシといったジャンル的にはカントリーにカテゴライズされる人たちの作品は80年代に入ると「カントリー」ということだけで日本ではほとんど紹介されなくなっていきます。そんなこともあって70年代以降のジェシのアルバムはほとんど聴いたことがない僕ではありますが、学生時代の京都の下宿のスレレオからは、特に独りぼっちが淋しい夜には、「ミシシッピー」や「ビロキシー」といった曲が流れていました。その優しい歌声になんど励まされたことか。
ありがとうジェシ、そして安らかに。
最後に一番大好きなカバー曲を。今頃、天国で久しぶりなんて挨拶を交わしてるかもね。
R.I.P.