男同士がイチャつくだけのBL映画やと思っていたら、
エッセイストの高山真という人の、自伝的エッセイが原作やと知って、驚いた。
「死」をオチにした恋愛小説も、映画も基本キライ。
恋や愛の終わりを「死」で飾って、お涙頂戴にしたてあげるフィクションが特にキライ。
で、この映画、実話をベースにしていると知らなくて、
途中で、イヤな気持ちがめばえはじめた。
ところが、龍太は映画の中盤で亡くなるから、後半どうすんのや?と思ったたら、
「死」というテーマに違いはないが、題名の「エゴイスト」の本意がみえてきて、
とてもよい映画だった。
映画の主人公やその愛しい相手が、死の病にかかって、
それを献身的にささえるフィクション青春恋愛映画が乱発してた時は、
本当に胸糞が悪かった。
あの時代、「世界の中心で愛を叫ぶ」時代の日本映画はホンマにクソやった。
<マーケティング>の存在がああも露骨に出てた時代の映画は、ほんまにクソやった。
だけど、これは自伝。作者は完成を見届けることなく旅立った。
<愛する人の死>が、悲しみだけではなく、プラスに与えてくれる機会でもある。
そんなテーマがみえて、タイトルのつけかたが秀逸やと思った。
タイトル「エゴイスト」ってぐらいだから、
ものすごく利己的な人を鈴木亮平が演じるのだろうと思ったが、
そんな表面的な「エゴ」ではなかった。
余命いくばくもない龍太の母(阿川佐和子)が、
病室を出ていこうとした息子の恋人・浩輔(鈴木亮平)にこう言うた。
「まだ・・・帰らないで・・・」
浩輔は「はい」と返事をして隆太の母の手をやさしくさする。
このシーンが、この映画が示す「エゴイスト」か!と、はら落ちしたのだ。
彼女は、死ぬまでソバにいてほしいことを浩輔に要求したのだ。
それが浩輔にはたまらなくうれしかったのだ。
死はつらいが、最後の最後に甘えてくれた。
家を訪ねてきた浩輔が帰ろうとしたとき、ほぼ強引に泊って行けと浩輔を家に泊めた。
その時に母がいうたのは「ごめんね、わがまま言っちゃって」。
状況によっては利己的な態度だが、
浩輔にとっては恋人の母が強引さを出してきたということは、甘えていること。
息子のように思ってくれていること。
人は他人のやさしさを受け取るとき、一瞬、躊躇する。
遠慮して辞退する。
その辞退が、自分を拒否されたような寂しさを感じさせる。
自分が大切におもっている人が、エゴをだしてくるのは、
受け入れてくれて、必要としてくれている証。
龍太の母の行動の変化ひとつひとつが、うれしかったんだろうな。
________
2022年日本
原作:高山真『エゴイスト』
脚本・監督:松永大司
出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明、阿川佐和子
龍太の死の知らせを聞いた時、言葉をそのまま受け取れない瞬間と、理解した瞬間の表情の変化が、おそろしくリアルだった。鈴木亮平、うまい。
お金受けとる、受け取らないの長尺のくだりの龍太の母演じた、阿川佐和子もうまい。
監督の演技指導ゆえやろうな。
脳梗塞ってことなんやろうな。
________
昨夜、高知の女とその旦那と、ツゲの店へ。
ツゲの友達が料理を担当していた。わざわざ東京から引っ越して。
嫁に、ツゲが歩くリハビリをしている姿をみせてもらった。
右足に装置をつけて、一生懸命、足をあげていた。
ツゲ、順調に回復中、安心。
そしてその嫁も顔色がめちゃくちゃよかった。
一緒に酒をのんで、笑って、普通の話もできた。
嫁、気丈だし、頭もよい。前向き。
ツゲはいい嫁に拾ってもらった。運つよい。
ただただ首をながくして待っている。