先日、オモうまい店で激安スーパー<エキサイト田中>の店主が、こう言うた。
「ワシの金で買うたもんを、ワシがなんぼで売ろうがワシの自由じゃ」
そういうて店主は、仕入れよりも安い値で牛肉を売りさばき、あっという間に赤字になるで!と楽しそうに、さらに半額割引のシールを貼っていた。その店主は、理想はぜんぶタダで売れる店にすることらしい。「損って不幸せなんか、なんなんじゃろうって、よー分からんなってきたんよ」とも言うた。
美術界に巣食う魑魅魍魎と真逆の美しい魂だ。
アメリカの田舎の民家でみつかった一枚の絵。美術品が好きな男の死をきっかけに、家族が売りに出した一枚の絵。二束三文のような値で田舎のオークションに出品され、それをN.Y.の脱サラ美術画商が13万円で落札した。それが、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の作品《サルバトール・ムンディ》(世界の救世主、通称 男性版モナ・リザ)でないかと言われ、510億円の値がついた。
13万円が510億円になる、アート界の<ビジネスシステム>?カラクリを、丸裸にしているドキュメンタリー映画だ。これが、編集がうまいのかミステリー映画みたいでおもしろいのだ。1枚の絵がダ・ヴィンチ作かどうかのミステリーでなく、だれがどうやって儲け、誰がだれに騙されたのか。騙されていないのか。のような構成。もし、この1枚の絵がダ・ヴィンチ作でなかったら、世界の上位数%の金持ち野郎が、何百億と損をしたことになるのだ。いや、実に痛快。ま、結局、真贋のほうは現在でも分からないままだけど。
不思議なのは、個人所有として購入したロシア人の金持ちはモナコに住んでいるのだが、オークション会場からインドネシアの倉庫に直送。倉庫で厳重に保管されているのだそう。一度でも、みたんやろうか?世界一、高い美術品を所有することに喜びを感じているのか。さびしい価値観やな。
そして、ロシア人の金持ちは、購入時の交渉人に手数料2%以上に、中抜きされてたことに気がついて、訴訟を起こしてたりする。なんかセコい。
わたしブランドを信用しないたちだから、愚かしい人たちが、愚かしい行為をくりかえす、おもしろいドキュメンタリーだった。
クリスティーズのオークションを盛り上げるために、コンサルが入ってPR広告にディカプリオを使ってるあたりからキナ臭さ倍増。真贋がわからんから、古典美術としてでなく、現代美術として展示する切替は、見事というか、詐欺っぽいというか。ま、見るだけだからいーか。
キリスト教徒じゃないからか、あの絵になんにも感じんかった。
_________
2021年フランス
監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ
出演:レオナルド・ダ・ヴィンチ、ドミトリー・リボロフレフ(ロシアのオリガルヒ)、レオナルド・ディカプリオほか