近年、だれも傷つけない漫才が主流になっていているが、この作品はまさにその映画版だった。社会的な構造を批判してはいるが、個人の選択を批判していない。新しいなと思うも、やっぱりこれでは物足りないなと思う。
・代々医者の家系に生まれ、金に不自由なし。生きる目標も夢もなし。姉二人と両親、祖母から結婚はまだかと急かされる華子。
・後に華子の結婚相手となり、将来は代議士をへて議員になるよう、親がしいたレールの上を、当然のように歩む幸一郎。
・富山出身で、必死で勉強して慶応に入るも、親の金回りがわるくなりキャバクラでバイトをし、大学中退後、IT企業に勤めている。幸一郎の友達以上、恋人未満のセフレでもある美紀。
・華子の友人で、金持ちの家の出身なのに自立をめざしてバイオリニストとして日本と海外で活躍中。食べていけるほどではないが、妥協せずに努力をしている逸子。
立場と、思考がまったく違う4人の群像的なものがたりだ。華子と、美紀が、逸子の計らいで対面する場面があるのだが、普通ならここで「あの人と、別れてください」となるはずなのに「あの人は、どんな人なんでしょうか?」と尋ねるだけ。
この映画、物語の重要な局面での会話を、いさぎよくカットする。その後、華子と逸子がどんな会話をしたのか。華子がネイリストの紹介であった男と安居酒屋でどんな会話をしたのかとか。まったく描かれていない。
この大胆な意図は、そういう生き方をする人を断罪したくないからか。会話を重ねると、どちらがよくて、どちらかが悪いというバイアスがかかる。観客のバイアスを極力さけて、事実だけを重ね、どう思いますか?を提示している映画なのか。
わたしはこの手法は、あまり好きじゃない。実際の人生ではその人なりの正義があるし、白黒はっきりさせるのはフェアじゃないが、これは映画だ。ドキュメンタリーでもない。実話ベースでもない。こういう世界がありますよ、というファンタジーだ。なのにふんわりさせるのは、モヤモヤがのこる。
このカンジ、「ミセス・ノイジィ」と似てるなと思ってみたら、次女が主演の人やった。
搾取する人、搾取される人、自立する人、できない人、継承したくてしてる人、していない人。世の中にはいろんな人がいて、それぞれがアリ!というダイバーシティ的な捉え方なんやろうけど、映画としては思考停止しているだけにしか思えん。
おもろなかったわ。
______
2021年日本
原作:山内マリコ
脚本・監督:岨手由貴子
出演:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、佐戸井けん太、篠原ゆき子、石橋けい、山中崇、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀粉蝶
▼こんな映画が増えてくるのか?かんべん!
______