読書 沖縄の怖い話 琉球怪談物語集 / 小原猛 | 気むずかしい いろいろ

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呪いと祟りの正体とは?を知りたいわたしは年に数冊、実話怪談を読む。

最近は、小原猛の沖縄シリーズがお気に入り。なぜ、目に見えない何かの影響で、人が狂い、死んでいくのか。

また、その目に見えない何かは、いったい何なのか。

 

たいがいは“人の念”で片付くのだが、沖縄は目に見えない何かに対峙するためのシステムが、昔からあることに驚く。ちゃんと役割があり、体制があり、連携している。今では、そのシステムもうすれ、沖縄古来のシャーマニズムを信用しない人も増えてるのは、なんとも淋しい。神道も、もとは自然信仰・自然崇拝からはじまっていたはずが、どうしてこうも、発展の仕方が変わったのか。自然の質がちがうのか。読めば読むほど、謎が深まるばかり。

 

今作は、長丁場の話が多く、取りつかれた人がその後、どうなったのかまで書かれているものが多いので参考になる。オチがあると安心する。死んでいようが、生きていようが。

 

<前口上より>※一部抜粋

なぜ沖縄の神様は人にかかるのか。それについては持論があるが、もう枚数が尽きて来た。沖縄には現在でもウタキには神様がいると信じられている。それは恐れ敬うもので、一般の人はむやみに関わってはいけない。しかし、そういった向こう側の世界は、沖縄ではいつでも「そこ」に存在しているのである。本土ではもはや、神や祭司や霊界といったものは、遥か遠くに行ってしまった。だが沖縄では、そういった世界は未だにこの世界と地続きであり、断絶していない。歩いて行ける距離にあるのである。

 

 

<おもしろかった噺>

・イチジャマ / 二股をかけたせいで元カノに金の画鋲で呪いをかけられた男。沖が南山、中山、北山に分かれて戦争をしていた時代、ノロやユタなどのいわゆるシャーマンたちは、敵を倒すためにイチジャマを飛ばした。幽霊は、説得して天国にあげられるからいいが、イチジャマは説得することができない。

 

・ジョンソンさんの部屋 / カナダからの留学生につきまとうオバアの霊。ドリームキャッチャーを胸元に飾るも「ディスイズ クラップ!」と粉々にするオバア。

 

・佐伯さんの部屋 / 元ジョンソンさんの部屋に入居した佐伯さん。オバアを説得しようとして手紙を書き意思疎通ができたのだが、話をきいてくれる人がおると、大勢を連れて戻ってきた。

 

・VFダンスホール跡にまつわる話 2部作 / アメリカ軍の敷地内に有名なダンスホール跡がある。ベトナム戦争時、戦地でバラバラになったアメリカ兵士をいったん沖縄に送り、このダンスホールの冷蔵庫で保管していたそうだ。そういった歴史もあり、このダンスホール跡地は幽霊屋敷として若者たちに人気で、肝試しする人が後をたたない。とある若者が、ホール内で「ダンス・ウィズ・ミー」と叫びながらふざけていると、気が狂った。ユタいわく、ホールにマブイを落としたそうだ。この解釈は、本島にはない発想。

 

・砂場のオジイ / オカンつよい!役立たずだったオジイ(父親)の霊が宿るガジュマルの木を金属バットでボコボコに。息子の友達の家にいる幽霊と一緒に天にあがれ!と脅すわ、怖くなって逃げたオジイに怒ってガジュマルをナイフで刺すわ・・・。いくら霊といえど、オカンめっちゃ怖い。最後に母の霊がでてきて、オジイと、女の霊と一緒に昇天(笑。

 

・ハパタキマンジャイの話 / 沖縄ではないが、鹿児島最南の離島 与論島の話。漁師がみたハパタキマンジャイ(火の玉)を捕まえようとして、命をとられた漁師のはなし。

 

・フツジャーミ / 呪い返しに利用された本島からきた青年。以来、マブイをなくし、空虚な気持ちがおさまらない。

 

・メヌーカーの祟り / どうしてもうまい棒をはらいっぱい食べたかった少年。沖縄のオカンたちはどうしてすぐに「あんた!神様になんかした?」と気づくのだろうが。やっぱり、神様との距離が近い。

 

・やめれ / 御神木にうちつけられた藁人形。引き抜くと「やめれ!」と声がする。たまらずオバアは「うるさい。私の土地だよ。あんたこそやめれ!」と呪いさえ黙らす強さよ。かっこいい。

 

・屋敷の小人 / 遊郭があった時代。堕胎手術で流した赤子を埋める井戸があった。その場所から次々とわくキジムナーのような小人。なかなか成仏できないのだろうか。

 

・折鶴 / 折り目のない、絹でつくられたような折鶴を拝所に飾る大男の神様。その神様を目撃した管理人のおばさん。そこから、会議をしに久高島にいくからしばらく留守にするよ、と仙人のような恰好をした神さまの集団にあい、鬼の形相をした女の生霊を背負った自転車の男と遭遇し。連続して不思議な体験をし、恐怖するも娘たちは「チョーうけるんだけどー」。

 

・ハダカヌユー / 裸世(ハダカヌユー)とは、もともと人間であった存在である。紀元前のこと。沖縄に暮していた人々はその時代、大規模な干ばつと飢饉に襲われた。そこで横行したのが、人々の間での共食いであった。共食いをした人は、相手の魂までをも喰らうことになる。それを繰り返していると、次第に人々の魂は汚れ、理性よりも獣性が支配するようになる。こうして生まれたのがハダカヌユーと呼ばれる存在であった。衣服を持たない時代に生まれたので、それが裸世と呼ばれる所以である。ハダカヌユーはよくウタキや、その時代から残っている貝塚などに良くいるといわれている。

→蟲毒に似たカンジ。こういった生き延びた歴史によって“人の念”の種類もかわるのだろうか。

 

・黒魔術に関する噺 / 黒魔術にハマった米兵と結婚した沖縄の女性をなんとか救出しようと奔走する母親。ユタは英語が分からないからとお手上げ。頼った神父が悪魔祓いを。悪魔は、神父本人でなく、子どもたちを狙うところが姑息。

 

・首のない女 / マジムンにおびえないオバアがまた登場!と楽しみにしてたら、孫って…。気づかんもんやな、首なかったら。

 

・洗濯籠 / 沖縄では八歳までの乳飲み子が死ぬと、その子は門中の墓に入れず、一定期間敷地の外に小さな墓を作って、そこに埋葬されるのがしきたりとなっていた。

 

・打ち上げ花火 / 沖縄はそんなにあっちこっち、骨がでてくるほど、あの戦争で人が死んでしまったのか。ならばペリリュー島もそんな怪談があるのだろうか。

 

・吊るし猫 / 沖縄では、あまりにも幼くして猫が死ぬとマジムンになるという言い伝えがある。だから、死んだ猫は、ビニール袋に入れて気に吊るし、天国に活かせるらしい。そんなのかわいそうだと、猫の袋をおろした親子に災いが。

ユタが母親に言う「大切なのはよ、目に見えない世界とこちら側の世界とでは、価値観が違うってことさ。あんたが人のためだと思ってやったことも、向こう側の世界では無になるわけさ。それさえわかっていれば、大丈夫さ」

 

この本では、沖縄独特の風習も知れて、めちゃくちゃおもしろかった。岩手の方にも独特の風習や怪談がありそう。そっちも読んでみるかな。