AFTERMOD E-PRESS 【vol.00014】(2010年12月07日号)


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00【巻頭】『グローバルグリッドどフラット化の夢』
01【連載】笠原正嗣『北斎流:江戸のイメージアップ奮闘記 vol.3』
02【特集】佐藤慧『その祈りは誰の耳に』
03【告知】12月 8日 安田菜津紀 ウガンダ取材へ出発!
04【告知】12月14日 安田菜津紀 東京ドームにて『ほほえみプロジェクト』
05【告知】12月18日 佐藤慧×松永真樹トークライブ『行動するという生き方』
06【告知】 1月15日 安田菜津紀×佐藤慧トークセッション
          「同じ世界に生きる人々の生活と美」
07【告知】 1月20日 オリンパス写真展「She Has A "PEN"」(in大坂)
08【後記】『祈り』


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00【巻頭】『グローバルグリッドどフラット化の夢』


 夜の街がにわかに煌めきだしている横浜は、冷たい風が並
木を揺らしています。そんな中、安田は赤道直下、ウガンダ
へ向けて出発です。ウガンダはHIV/AIDSが問題となっている
国の一つで、AIDS遺児の数だけでも200万人と言われていま
す。カンボジアを中心にHIV/AIDSの取材を続ける中で、どう
してもウガンダに、と話していましたが今回実現の運びとな
りました。レポートをお待ちくださいませ。


 さて、今回は笠原正嗣の連載『北斎流』と佐藤慧の特集
『その祈りは誰の耳に』をお届けします。レンズ越しの世界
とフラットへの投射、そして、フラット化しない貧困問題と
神。僕らは様々なグリッドを使いながら、その世界を測ろう
としますが、その価値観や尺度は文化や人それぞれで、統一
することは出来ません。誰もが使える変幻自在のグローバル
グリッドと、フラットで平和な社会。どちらも実現は難しい
ですが、目指す過程で発見出来ることは沢山ありそうです。
では、今号もお楽しみ頂ければ幸いです。

(ヤハギクニヒコ)



01【連載】笠原正嗣 『北斎流:江戸のイメージアップ奮闘記 vol.3』


前回は江戸が「諸人入れ込み」のもと、名実ともに日本の
中心となった時代になったこと、そこで円山応挙と葛飾北斎
という2人の天才が活躍しはじめたというお話を書かせてい
ただきました。先日までやっていた三井記念美術館の円山応
挙展では、応挙のポイントを押さえた絵が集められ、遠近法
や銅版画のテクニックが駆使された(と思われる)眼鏡絵、
リアリズムの極地ともいうべき鶴、龍、雪松などの屏風、日
本でも写実感覚が研ぎ澄まされ始めたのを感じさせてくれま
した。1月半ばまでやっているデューラー展もおススメです。
グリッド線の使い方に対して自分の意識も変えてやろうと、
国立西洋美術館へ足を運んでみてはいかがでしょう?



   AFTERMOD E-PRESS
   アルブレヒト・デューラー『メランコリアⅠ』


 アルブレヒト・デューラーで有名な『メランコリア』(151
4)という作品の背景には、魔方陣が描かれております。あの
4×4の魔方陣のすごいところは、作成年である15と14が並
んでいるところです。これはベストセラーで、映画化もされ
た『ダヴィンチ・コード』の執筆者Dan Brown(ダン・ブラウ
ン)さんの最新作『ロスト・シンボル』でも指摘されている
お話です。お時間があれば確認してみるのも面白いと思いま
す。グリッド線の話に戻しますと、この魔方陣を分ける線だ
って多少強引な見方をすれば世界を分かち、整理するグリッ
ド線になるのではないでしょうか。世界を飛び回る方にはぜ
ひ覚えておいていただきたいのは、世界地図の経緯(経度・
緯度)も地球をグリッド線で包んで表します。複素数平面を
ガウス平面と呼ぶ方は多いのですが、もっと身近なxy平面の
別名がデカルト平面というのを知らない日本人が意外に多い
ようです。しかし、このデカルト平面もグリッド線と言える
はずです。少なくとも僕が絵を描くときは、座標的な見方を
したりしますし、模写の練習法で、絵にグリッド線をかけ、
そこにできたマス目の一部を抜き、穴を埋めさせる方法もあ
ります。数学のグラフと写真を並べて考えると、意外に近
い部分が見えくるようです。デューラーが実験した絵の中に
『Woodcut』という絵があります。横たわる女性をグリッド
仕掛け越しに男性画家が描いている絵です。著作権の関係上
念のため載せられませんが、写真の構図を考えるときに、絵
画からの流れがあり、そのさきがけにデューラーがいるとい
う認識を持っておくことは大切だと思います。


 さて、前置きが異常に長くなりましたが円山応挙は自分の
目で見て、見えたままをいかに画面に定着させるかという方
向性を江戸に投げ込みました。そういう意味で、応挙と同じ
く京都にいた奇想画家、伊藤若冲も『群鶏図』を描くとき望
遠鏡を使ったのではないかという仮説がNHKの番組『日曜美
術館』で放送されたとき、ひっくり返る思いでした。ここで
もレンズが絡んでいるわけですね。この時代どうやらレンズ
と言うものに日本が魅かれだしていたようです。


 レンズで見ると、普段見えない対象でもよく見えるように

なります。眼鏡絵師の応挙が粉本主義から“真意”の名のも
と、写生(写真)をはじめ、それによって「見て、描く」歯車
とかみ合い始め、それを一身に受けたのが葛飾北斎だったん
じゃないでしょうか。


 葛飾北斎は、俳句で有名な松尾芭蕉と同じく江戸幕府のス
パイだったという説があるようです。正直僕も北斎が江戸幕
府のスパイとは言わないまでも、仲はよかったんじゃないか
と思います。AFTERMOD E-PRESS第4号の【編集後記】にてヤ
ハギが指摘するように、北斎は93回も引っ越しをしています。
これは僕が直接文献にあたったわけではなく聞いた話なので
すが、この引っ越しの最中に一度北斎は荷物をひっくり返し
てぶちまけてしまったようです。その時ぶちまけられた荷物
に大量の銅版画があったそうです。1枚銅版画を所持するだ
けでも死刑になりかねないのに、大量の銅版画を持っていた
北斎はなぜか90歳で天命を全うしております。記録に残って
いるので、お上の耳にも入っているはずですから、幕府の息
がかかっていたと考えた方が自然なんじゃないかと思うわけ
です。大体NHKの『龍馬伝』を見た方なら十分すぎるほどお
分かりになったのではないかと思うのですが、当時の日本は
陸続きであっても各藩はそれぞれ別の国です。手形がないと
日本を散策することなんてまず不可能。龍馬は脱藩するとい
う強硬に出るわけですが、北斎は芭蕉と同じく色々な場所を
転々としています。これは許可を出す側と仲良しでないと難
しいと思うわけです。北斎が富嶽三十六景を書いております
がこれは実は大変なことだったんじゃないでしょうか。次回
はこの話について触れていきたいと思います。

(文=笠原正嗣 / 画=アルブレヒト・デューラー)


02【特集】佐藤慧『その祈りは誰の耳に』


 ザンビアは、後発発展途上国という不名誉なレッテルを貼
られている国のひとつだ。平均年収はひとり14万円ほど。
ほとんどの田舎では1日1ドル以下の生活が普通である。3
8歳に満たない平均寿命の背景には、高いHIVエイズ感染
率と、幼児死亡率がある。マラリアやコレラなども頻繁に人
々を襲い、5人に1人は5歳まで生きることが出来ない。し
かしその悲惨な数値とは裏腹に、僕がザンビアの田舎で見た
ものは、人々の絆の深さ、そして優しさだった。病気や障害
を持った人、親を亡くした子供たちや、体の弱った高齢者な
ど、彼ら、彼女らは、親類や近隣の住人の温かい手助けの元、
安心した生活を営んでいた。年間3万人の自殺者や、行くあ
てのないホームレス、老人の孤独死を抱える日本と比較して、
いったいどちらが幸福な社会なのだろうかと深く考えさせら
れた。
 
 そんなザンビアの首都、ルサカの街は近年、急速に近代化
している。交通手段や通信技術の発達に伴い、アフリカ南部
の小国は、否応なくグローバリゼーションの波に飲み込まれ
ていった。大型ショッピングモールにはお洒落なブティック
や高級料理店が並び、iPodで音楽を聴く若者たちが映画館に
通う。東京やニューヨークの街でも見かけるファストフード
店では、いつ、どこで買っても同じ味を堪能することが出来
る。恰好いいスニーカー、きらびやかな化粧品、高級な酒、
道路沿いの広告は購買欲を刺激し、その力は勢いよく街を拡
張していく。大量に流入する人、もの、金。資金を得た者は、
その力でより大きな資金を手に入れていく。街全体が大きな
怪物のように、人々の生活を激しい流れへ呑み込んでいった。
その街角のゴミの中で、僕は休むことなく祈りを捧げる男性
と出逢った。毎日毎日、虚空を見つめ、終わりなく祈りの言
葉を紡いでいく。彼と僕は共通の言語を持たず、細かな意思
疎通は出来なかったが、妙に気になり、数日に渡り何度も彼
のもとを訪ねた。彼は何を見つめ、何を祈るのだろう。ほと
んど身動きせず、都会の廃棄物に埋もれ、休むことなく祈り
続ける。人は古来祈り続けて来た。生まれた時、その場所が
偶然にも裕福な場所であったり、また逆に、貧困や痛みの溢
れた場所であることもある。人智を超えた運命を前に、人に
は祈るという選択肢しか残されていない。祈りは誰に届くの
か。真摯な祈りを前に、神は宇宙の統一理論を崩すことは無
い。こちらで目にした、とある宗教系機関紙にこんな2コマ
漫画があった。「なぜ神は貧困を放っておかれるのだろう、
その気になればそんなものは解決出来る力があるというのに」
「同じ疑問を神が我々に投げかけることを思うと恐縮だがね」。
人の祈りは人の心に響くのではないか。祈りとは、限られた
自由の中に生きる人々に残された、最後の声ではないのか。
耳を澄ませば、世界はそんな声に満ちている。そんな、喧騒
にかき消されそうな声を無視することなく、少しでもその痛
みを分かち合えるように、前に進んでいきたい。


    AFTERMOD E-PRESS
その男性の祈りは、都会の喧騒にかき消されそうになりながらも、

      確かな重みを持って響いてきた。


(文+写真=佐藤慧)



03【告知】12月 8日 安田菜津紀 ウガンダ取材へ


安田菜津紀が、12月8日~31日までウガンダへ取材に行って
まいります。レポートを楽しみにしていて下さいませ。



04【告知】12月14日 安田菜津紀 東京ドームにて『ほほえみプロジェクト』


12月14日(火)東京ドームで開かれる『ほほえみプロジェク
ト』でフィリピンの写真を展示して頂きます!ご寄付は「国
境なき子どもたち」を通してアジアの子どもたちの教育支援
に使われます。
よろしければぜひご参加下さい!


≪詳細≫http://hohoemi.datv.jp/index.php


05【告知】12月18日 佐藤慧×松永真樹トークライブ『行動するという生き方』


≪出演≫ナビゲーター:小川光一(NGO LIVEonWIRE)
    スピーカー :松永真樹(NPO 「超」∞大学 学長)
          :佐藤 慧(スタディオアフタモード所属フィールドエディター)

≪日時≫ 2010年12月18日(土)19:00~21:00 
≪場所≫(株)毎日エデュケーション フリースペース「グローバルひろば」

  ■ 料金 :500円
  ■ 定員 :30名限定! ※予約が埋まり次第締め切らせていただきます。


≪お申込み方法・お問い合わせ先≫ ⇒ angletry@gmail.com


件名を「12月18日:トークイベント参加希望」とし、下記を記載のうえお送りください。
--------------------------------------------
お名前:
Eメールアドレス:
所属:
イベント後の懇親会の参加の可否:
--------------------------------------------


≪詳細≫ http://ameblo.jp/keisatojapan/entry-10721398299.html



06【告知】1月15日 安田菜津紀×佐藤慧トークセッション
       「同じ世界に生きる人々の生活と美」


2011年1月15日(土)午後3時開演(開場午後2時30分)

会場:SHIBUYA Cue702
東京都渋谷区渋谷1-17-1 TOC第2ビル7F

ゲスト:安田菜津紀/佐藤慧
会費:2,500円(軽食とドリンクを含みます)


≪申込・お問い合せ≫    admin@cue702.com

≪参加申し込みフォーム≫ http://bit.ly/hj9YVh


主催:Cue702




07【再掲告知】1月20日 オリンパス写真展「She Has A "PEN"」(in大坂)


☆安田菜津紀がオリンパスギャラリー主催のグループ展
「日本カメラ社主催、7人の写真展」に参加させていただきます。
お時間があいましたら是非、足をお運び下さいませ。


◆2011年1月20日(木)~ 2月 2日(水) オリンパスギャラリー大坂
  (AM10時~PM6時/最終日午後3時/日曜・祝日休館)



08【編集後記】 『祈り』


 祈りはいつだって美しい。僕は祈る人ほど美しいものはな
いのではないかと思っているのですが、その祈りにも色々な
理由と方向性があり、また方法もそれぞれです。


 デューラーの銅版画『メランコリア1』に仕込まれた魔方
陣はピタゴラス教団に由来する「ユピテル魔方陣」という西
洋数秘術の一つです。この魔方陣は縦、横、斜めの列の和が
等しくなることはもちろん、四隅の和も四分割したそれぞれ
の四マスも、そして中央の四マスも、すべての和が34になり
ます。ちなみに、34というのは最初の女性数2と男性素数で
ある17を掛け合わせたものです。男性素数自体は不幸の象徴
でもありますので、それを中和するために女性数と掛け合わ
せているんですね。ここにも歴史を越えた祈りがあります。


 もともと、魔術や錬金術というのは祈りの一つでした。そ
れらは純粋な心を持っていないと決して成功しないとされ、
実践者達は、その切実さを胸に、世界の違和感を抱え込んだ
のでした。現代に生きる僕らは、そのことをもう忘れてしま
っています。しかし、誰かのために祈る人はいつだって純粋
で、いつだって美しい。そのことはいつの時代も変わらない
のではないでしょうか。では、また来週お目にかかります。
(ヤハギクニヒコ)



==========
『AFTERMOD E-PRESS』はいかがでしたでしょうか?
今回の記事についてご意見・ご感想など、
お気軽にドシドシと書き込みください。
アフタモードメンバー一同、心よりお待ちしております。

編集  ヤハギクニヒコ 笠原正嗣
執筆  ヤハギクニヒコ 安藤理智 安田菜津紀 笠原正嗣 佐藤慧
発行  株式会社スタディオアフタモード/ studioAFTERMODE Co.,Ltd.
    http://www.aftermode.com/

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を除き、著作者および出版社の権利の侵害になります。記事の使用をご希望される場合は、タイト
ル「AFTERMOD E-PRESS係」にて下記アドレスまでご一報をお願いします。
取材もこちらで承ります。
info@aftermode.com




AFTERMOD E-PRESS 【vol.00013】(2010年11月30日号)


【緊急告知】12/2(木) 安田菜津紀講演@神奈川大学

12/2(木) 神奈川大学藤本ゼミの皆様の主催で、

エイズデーイベントで講演させて頂きます。

神奈川大学横浜キャンパスにて、入場無料です!

お時間がよろしければ、ぜひご参加くださいませ!


≪詳細≫http://fs9515.web.fc2.com/aidsday-2010.html


=index=
00【巻頭】「縁感」
01【連載】佐藤慧『カルチャーショック』vol.4.風の吹くまま:Zambia
02【連載】ヤハギクニヒコ
       『社会学曼陀羅02:インターネットと無縁の風貧困とは何か?』
03【報告】安田菜津紀・佐藤慧 関西出張イベント
04【報告】佐藤慧「明治大学ヒューマンライブラリー」
05【告知】12月 4日 ヤハギクニヒコ 鏡明塾
      「ビジネス書の真贋と要訣」「朝鮮戦争」
06【告知】12月14日 安田菜津紀 東京ドームにて『ほほえみプロジェクト』
07【告知】12月18日 佐藤慧×松永真樹トークライブ『行動するという生き方』
08【告知】12月 2日 オリンパス写真展「She Has A "PEN"」(in京都)
09【後記】『何が人を繋ぐのか』


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00【巻頭】『縁感』


 寒くなってきたなぁと思っていたら、早いもので2010年
も残り1か月となりました。今回の佐藤慧の文章は、彼の
心の葛藤を描いています。アンビバレンスは現在「二律背
反」と訳されますが、元は「愛憎併存」と訳されていまし
た。良かれと思ってやったことが裏目に出ることはよくあ
りますし、社会常識的に考えて良いとされることが何年か
してその国をダメにしてしまうことだってあります。ヤハ
ギクニヒコの文章は「ゲマインシャフト」から「ゲゼルシ
ャフト」へシフトしたという話から始まりますが、これは
M.モースの贈与社会から交換社会へ移行したという指摘
と一致します。相手の好意を受けたのなら返礼をしなけれ
ばならないという意識は自然と起きるものです。返しても
らったのだから、今度は自分たちがまた返そうと思う。そ
ういうサイクルがコミュニティーをつないでいました。

ところが、お金を媒介にしてやり取りを始めた瞬間、「お金
を払ったんだから別に良い」となってしまった。贈与体制
を荒廃させたその上に築かれた制度こそが交換なのだと思
います。交換が主となった場で生きる私たちだからこそ、
一つ一つの縁をしっかりと感じ、大切にしていくことが求
められるのではないでしょうか。携帯電話の登場により、
人間関係すらデジタル化しはじめ、仲の良い人とそうでな
い人の境界がよりはっきりしてきたように思います。二人
の文章はそんな現代の中で、人と人との出会いが織りなす
情報の動きを見つめなおす格好の材料になることでしょう。
どうぞお楽しみくださいませ。

(笠原正嗣)



01【特集】佐藤慧『カルチャーショック』vol.4.風の吹くまま:Zambia


 いつになったらこの泥沼から抜け出せるのだろう、そう
思っていた。ねっとりと足に絡みつくのは、これまで抱え
続けてきた様々な想いだ。「国際協力」と呼ばれる世界に
携わり、自分なりに色々なことに挑戦してきたつもりだっ
た。ところが、ふと立ち止まり周りを見てみると、そこに
いるのは一歩も先に進んでいない自分自身だった。
 始めてザンビアに派遣された時は、大いに無力さを思い
知らされたものだった。HIVエイズやマラリアの猛威の
前に、僕に出来ることなんて本当に僅かなものだった。む
しろ、自分がそこに赴いたことで、多くの人に害悪すら与
えてしまったのではないかという想いがつきまとった。ザ
ンビア駐在中に、ある少年が事務所に盗みに入った。僕が
僅かな給料の中から貯めていたお金や、テープレコーダー
などを盗んだその少年は、いつも仲良く遊んでいた隣の家
の子供だった。その子は捕まり、盗られたものの大部分は
戻ってきたのだが、盗みに入ったという噂は小さなコミュ
ニティの中ですぐに大きな話題となった。結局彼はその村
を離れることを余儀なくされ、親戚のいる他の地方へと去
って行った。”何かが出来る”と思ってザンビアへやって
きた。傲慢にも、”恵まれない人々に何か助けとなるよう
なことが出来る”、そのように思っていたのかもしれない。
結局僕は、無駄に人々の人生をかき乱しただけだけだった
のではないか。


   AFTERMOD E-PRESS
     エイズ陽性の人たちのコミュニティと共に活動


 出来ることなら早くこの世界から足を洗いたい、このよ
うな葛藤など捨ててしまいたい、そういう風に思いながら
もNGOでの仕事を続けた。後輩のボランティアを養成す
る仕事の傍ら、ザンビアの人々に対し何か出来ないだろう
かと、ずっと考えていた。傲慢さを携えて行った先で、僕
は人生と真摯に向き合うことの大切さを学んだ。エイズや
マラリアで多くの人が亡くなる地で、それでも人は毎日を
必至に、大切に生きていた。かけがえのないものを与えて
くれた人々に、恩返しがしたい、そう思って「ザンビアに
学校を建ててみる」というプロジェクトを始動させた。学
校が建てたかったわけではない。そこには確実にニーズが
あり、信用出来る人々がいた。いちから学校を設立するこ
とは出来なくても、彼らと協力しながら、その地に必要な
ものを創り上げていくことは出来るのではないか。そう思
ってのプロジェクトだった。ネットを通じた募金活動によ
って、結果的に200万円を越える募金をいただき、実際
に現地の人々を雇って活動を始めた。半年に及ぶプロジェ
クトの中で、以前とは違った形での人々との交流の機会を
得、”共に歩んでいける”という実感を得た。日々切磋琢
磨し、時に口論し、時に励まし合う。そこには国境を越え
た、人と人との交流が確かにあった。


AFTERMOD E-PRESS
雇っていた大工の棟梁のムワンサ氏と 


 プロジェクトを完遂し、帰国。久々に日本の地に足を降
ろした僕を襲って来たのは強烈な虚無感だった。自分はい
ったい何がしたいのか。何かをやり遂げたつもりになって
も、結局何も変わっていない。ザンビアの人々の生活はそ
こで続き、それは此処から切り離された別の世界の出来事
のようだった。人々との真摯な心の交流と恰好良く言って
みたところで、それは戯言に過ぎないのではないか。ブラ
ウン管の向こう側では、相変わらず戦争を知らせるニュー
スが淡々と流れ、それは映画のひとコマのように、映って
は消え、そして忘れ去られていった。人とは不思議な生き
物だ。他人を愛することも出来れば、無慈悲に殺すことも
出来る。その対象が、誰かにとってのかけがえのない人で
あるという想像は、距離を隔てれば隔てるほどに希薄にな
る。どうすればその距離を縮めていけるのだろう。


 早すぎる日本の時計に追われながら日々を過ごす中で、
ふとした瞬間に空を見上げてみる。この空は、ザンビアに
生きる彼ら、彼女らの上にも広がっている。元気な声で笑
う友人たちを思い出しながら、僕はそこにある生活に想い
を馳せた。早く会いに戻りたい。人生の中で出逢える人の
数は限られている。そんな中で出逢った人々。国境を越え
て出逢ったことの意味を想う。前より少しだけ、世界と、
あなたと繋がったような気がして、今日も風の吹くまま、
気の向くまま、前に進んで行く。

(文+写真=佐藤慧)


02【連載】ヤハギクニヒコ
  『社会学曼陀羅02:インターネットと無縁の風貧困とは何か?』


 小学三年生の時、僕には、韓国から来た友人が居ました。
同じマンションの同じ階に引っ越してきた彼らは、僕と同
じ年のケンと2つ上のテンという名前で、2人は母が主催
していた書道教室に通うことになり、すぐに仲良くなりま
した。僕らは良く3人で山へ遊びに行っては、探検をした
り虫を捕まえたりしていました。2人は、両親が韓国料理
の店を出すとのことで、1年くらいで引っ越してしまいま
した。


 それから15年経って、母親から連絡がありました。「ケ
ンちゃんが、会いに来たわよ」その時、僕にはケンという
友人は沢山居ましたが、すぐに彼だと分かりました。「ふ
らっと近所に立ち寄ったから、彼女と一緒に遊びに来まし
た」という彼は、母が僕が居ないことを告げると「僕は元
気です」と伝えて欲しい、とだけ言ってすぐに帰ってしま
ったそうです。僕にとっては、それは衝撃的なことでした。
僕は彼らを外国人だとは思っていなかったのですが、その
瞬間に、なんだかそんな気がしてしまったのです。日本の
友人が、小学生の頃、束の間を過ごした友人が、大人にな
って何となく訪ねてくるなんて言うことを、僕は想像も出
来ませんでした。今度は彼を訪ねたい、そして、覚えてい
てくれたことをどれだけ嬉しかったかを伝えたい。連絡先
も分からないまま、また10年が過ぎてしまいました。


 ドイツの社会学者フェルディナント・テンニースは、い
わゆる「縁」というものを「ゲマインシャフト」と「ゲゼ
ルシャフト」という風にカテゴライズしました。ゲマイン
シャフトというのは血縁や地縁などの縁で運命的繋がりの
ある「共同社会」と訳されます。ゲゼルシャフトは社縁、
すなわち「利益社会」としてのアソシエーションで、打算
的な要素の強い縁です。テンニースは、近代化とはゲマイ
ンシャフトからゲゼルシャフトへ転換することで、人々の
関係が複雑だが実は分離した結合、すなわち目的や利害を
共有したパートタイム的な付き合いになってしまった、と
嘆きました。歴史学者網野善彦は、ゲマインシャフトとゲ
ゼルシャフトは「有縁」であり、その他に「無縁」という
カテゴリーを想定しました。網野史学は中世の職人や芸能
民などの非定住漂泊民の存在を民俗学的に明らかにするこ
とで、日本中世史に大きな楔を打ちましたが、そういう
「無縁」の関係こそ、濃密な心の交流があるのかも知れま
せん。社会的な縁がないのに、繋がっているというのはロ
マンティックですし、希望を感じます。


 東京大学の社会学者上野千鶴子は、有縁を「選べない縁」
無縁を「選べる縁」といいましたが、そういう自由さが、
無縁の儚さであり、同時に希望でもあるのだと思います。
そもそも無縁というのは縁がないという意味ではなくて、
有縁の世界のスタンダードである定住から離脱した人々同
士の関係のことを指しました。その交流の多くは盛り場の
ようなところでの情報交換だったりするのですが、定住社
会を巡る俳諧師による連句の場も似たような縁だったのだ
と思います。有縁と無縁が交差する瞬間というのは、サー
カス団の一員として転校して歩く少女のような、そういう
束の間吹き抜ける風のような魅力を感じます。


 フランスの社会学者エミール・デュルケームは近代化を
「機械的結合」から「有機的結合」への変換と見ました。
同質、類似した人々が没個性的に結合するのが機械的結合
で、異質でスキルの違う人々による結合状態、分業状態が
デュルケームの言う有機的結合です。インターネットの発
達により無縁の世界は生気を帯び、SNS的コミュニティ
ーによって機械的結合が復活しつつあるように思います。
しかし、それは近代以前の有縁ベースの機械的結合ではな
く、ネットワーク上のヴァーチャルな場を繋ぐ無縁の機械
的結合です。僕は風のように生きることに憧れていました
が、同時に大地に根を張るような生き方にも憧れてきまし
た。その両方を同時に実現出来るような環境が、今目の前
に広がっています。ポストモダンがようやく未来を開ける
鍵は、スピードと密度による存在感である気がしています。
ヴァーチャルが日常になりつつある昨今、僕らはいかに存
在し、いかに人と関わって行くべきなのか。いや、関わっ
て行きたいのか。少しだけ自覚した方が良いように思いま
す。僕らは面影を伴わない思い出に、助けられ、哀しみ、
涙を流せるようになっていくのでしょうか。
(ヤハギクニヒコ)


03【報告】安田菜津紀・佐藤慧 関西出張イベント]


先週は関西で毎日色々な方とお会いしてきました。立命館
BKCでの写真展、講演会! 桃山学院大学での3時間に
渡るトークイベント! 中之島ビルでのアフタモードカフェ!

 全てのイベントがそれぞれの個性を持った独特の"場"と
なりました。BKCでは安田、佐藤が写真での初の共演を
果たし、桃山学院大学では学生たちの熱気に包まれての盛
大なイベント、アフタモードカフェでは、少人数でゆった
りと過ごすことが出来ました。


 やはり関西は熱い!


 今後も定期的に関西に足を運び、皆さまと共に元気の出
るイベントを開催していければと思います。この濃密な数
日間に出逢った全ての方々、ありがとうございました。
(佐藤慧)



04【報告】佐藤慧「明治大学ヒューマンライブラリー」
 
 28日(日)に、明治大学で行われたヒューマンライブ
ラリーというイベントに参加して来ました。ゲストが「本」
となり、それを読みたい読者は、貸出カードに書いて申請
し、1対1で30分間お話するというイベントです。
 朝から夕方まで、7コマの時間があったのですが、午前
中には全てのコマにご予約いただき、最後まで濃密な時間
を過ごすことが出来ました。まだまだ改善の余地のある内
容でしたが、普段大勢の前で一方的に講演をすることの多
い僕としては、1人の方と、きちんと目を見て話すことが
出来る貴重な機会となりました。拙い本でしたが、今後も
廃版にならないように頑張ります。
(佐藤慧)



05【告知】12月4日 ヤハギクニヒコ 鏡明塾

「ビジネス書の真贋と要訣」「朝鮮戦争」


◆12月04日(日)神奈川県民センター(横浜駅西口徒歩8分)

[一般]15:05~16:50(405教室)
     「ビジネス書の真贋と要訣」(先着20名様まで)
[中高]17:05~18:50(405教室)
     「朝鮮戦争」        (先着20名様まで) 


参加費用は一般2500円、中高生2000円です。
お申し込みは


[タイトル] 【鏡明塾予約】、日付・コース・名前


をご記入の上、
yahagi.sa@gmail.com


までお願いいたします。ご要望、ご質問等もこちらまで。確認次第ご返信させていただきます。
(ケータイからのご利用の場合、「@gmail.com 」を受信できるようにご設定ください)
では、みなさんのご参加、心よりお待ちしております!


06【告知】12月14日 安田菜津紀 

      東京ドーム『ほほえみプロジェクト』


12月14日(火)東京ドームで開かれる
 『ほほえみプロジェクト』(http://hohoemi.datv.jp/index.php
で「国境なき子どもたち写真展」で展示しましたフィリピンの写真を展示して頂きます!
ボランティアも募集中です!
  →http://www.knk.or.jp/other/r


07【告知】12月18日 佐藤慧×松永真樹

       トークライブ『行動するという生き方』

≪出演≫ナビゲーター:小川光一(NGO Live on Wire)
    スピーカー :松永真樹(NPO 「超」∞大学 学長)
          :佐藤慧(スタディオアフタモード所属フィールドエディター)

≪日時≫ 2010年12月18日(土)19:00~21:00 
≪場所≫(株)毎日エデュケーション フリースペース「グローバルひろば」

  ■ 料金 :500円
  ■ 定員 :30名限定! ※予約が埋まり次第締め切らせていただきます。

≪お申込み方法・お問い合わせ先≫ ⇒ angletry@gmail.com

件名を「12月18日:トークイベント参加希望」とし、下記を記載のうえお送りください。
--------------------------------------------
お名前:
Eメールアドレス:
所属:
イベント後の懇親会の参加の可否:
--------------------------------------------

≪詳細≫ http://ameblo.jp/keisatojapan/entry-10721398299.html



08【再掲告知】12月2日 オリンパス写真展「She Has A "PEN"」(in京都)


☆安田菜津紀がオリンパスギャラリー主催のグループ展
「日本カメラ社主催、7人の写真展」に参加させていただきます。
お時間があいましたら是非、足をお運び下さいませ。

◆2010年12月2日(木)~7日(火)   ギャラリー古都(旧コンタックスサロン)
  (AM11時~PM7時/最終日午後3時/日曜・祝日休館)
◆2011年1月20日(木)~2月2日(水) オリンパスギャラリー大坂
  (AM10時~PM6時/最終日午後3時/日曜・祝日休館)


09【後記】何が人を繋ぐのか


朝鮮半島の雲行きが怪しくなった一週間でした。ネガテ
ィヴな国際問題が報じられるにつけ、国家の問題と、国民
の問題を混同してしまうことに恐怖を感じます。誰かの思
想が、その思想を持たない誰かを苦しめるとしたら、それ
こそが平和に立ちはだかる壁なのではないでしょうか。多
様性に立脚するならば、僕らの言動はそれぞれが同等のも
のです。しかし、その言動の影響力は違います。世界を変
えることが出来るアイデアと、出来ないアイデアがある。
また同じアイデアを持っているにもかかわらず、出逢い繋
がる人と、袂を分かつ人が居て、世界を変えられる人と、
諦める人が居ます。僕らにそれが出来るのかは分かりませ
んが、諦めてしまったら何も変わらないことだけは分かっ
ています。同じ空の下に暮らす韓国の友人に思いを馳せ、
打算的な国際関係が、打算でも良いから平和的に解決する
ことを願いつつ、また来週お目にかかります。
(ヤハギクニヒコ)


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『AFTERMOD E-PRESS』はいかがでしたでしょうか?
今回の記事についてご意見・ご感想など、
お気軽にドシドシと書き込みください。
アフタモードメンバー一同、心よりお待ちしております。

編集  ヤハギクニヒコ 笠原正嗣
執筆  ヤハギクニヒコ 安藤理智 安田菜津紀 笠原正嗣 佐藤慧
発行  株式会社スタディオアフタモード/ studioAFTERMODE Co.,Ltd.
    http://www.aftermode.com/

本WEBサイトの内容の一部または全部を無断で複写(コピー)することは、法律で定められた場合
を除き、著作者および出版社の権利の侵害になります。記事の使用をご希望される場合は、タイト
ル「AFTERMOD E-PRESS係」にて下記アドレスまでご一報をお願いします。
取材もこちらで承ります。
info@aftermode.com



AFTERMOD E-PRESS 【vol.00012】(2010年11月23日号)


00【巻頭】『動き出す労働の境界線』
01【特集】安田菜津紀『ある母子家庭に見る日本の貧困問題』
02【特集】ヤハギクニヒコ『社会学曼荼羅01:貧困とは何か?~環境と選択肢』
03【報告】佐藤慧×安田菜津紀 TEDxYouth
04【告知】11月22-24日 佐藤慧&安田菜津紀『Under The Same Sky -同じ空の下で-』
05【告知】安田菜津紀11月20日発売『日本カメラ』掲載
06【告知】12月 2日 オリンパス写真展「She Has A "PEN"」(in京都)
07【後記】『死に至る病に抗う』


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【メルマガ登録はこちら】 http://www.aftermode.com/press/ml.html



00【巻頭】『動き出す労働の境界線』


 今回は「貧困」についてです。BOP(Bottom/Base of
the Pyramid)を提唱されたC.Kプラハラードさんも今年
お亡くなりになり、今後は僕たちの世代が受け継いでい
かなけらばならないように思います。
 貧困と言う話題は、搾取するものと搾取されるものと
いう話と切っても切れない関係にあるわけですが、最近
出版され、松岡正剛さんも千夜千冊で取り上げられた
『資本と言語』(クリスティアン・マラッツィ著、人文
書院)という本があります。ここに取り上げられた内容
で僕自身が驚いたことは、「労働がますます言語行為に
よって定義されるにつれて、(中略)、労働時間と不労
時間、労働と生活を隔ていていた伝統的な壁が崩壊して
いく」という一節です。僕たちは何かを買う時ある程度
情報を集めてから買いますが、その調査時間は本来僕た
ちのプライベートな時間であるはずなのに、それも「労
働」と取れてしまうということだと思います。もしそう
だとすると、携帯電話でゲームを提供し客を集めるビジ
ネスも、実はプレイヤーは無償労働させられていること
になります。搾取された労働は売上ではなく時価総額で
現れてくるわけですね。今回は貧困というテーマに対し
て、安田は国内から、ヤハギは国外から目を向けます。
二人の視線が交差する瞬間を意識して、この問題に目を
向けていただけたらと思います。


(笠原正嗣)



01【特集】安田菜津紀『ある母子家庭に見る日本の貧困問題』


 ある母子家庭の話です。お父さんが10年前に亡くな
り、お母さんが女手一つで子どもを育ててきた。好きだ
った趣味をやめ、朝は新聞配達、子どもを送りだしてパ
ートへ、土日も古着を集めてフリーマーケットで売って
は生活費の足しにした。そんな姿は近所の人の目にもつ
いた。「学校の友達から家のことをからかわれる度に、
喧嘩をして帰ってきました。母は何も言わなかったけれ
ど、きっと分かっていたと思います」。小学校時代を振
り返り、娘はそう語る。


 そんな頑張りが認められ、彼女は準職員になった。け
れど昨年、乳がんが見つかる。初期であったため転移も
なく、無事に摘出が終わったものの、ずっと彼女の中で
張り詰めていた糸が突然、ぷつりと切れてしまった。
「自分の、人生の負の部分が自分に一気に襲い掛かって
きたような気がしたのだ」と言う。幼い頃親から虐待を
受けた記憶、夫との離婚、彼の死という現実、そして娘
の反抗期。乳がん手術を終えた3ヵ月後、彼女は精神を
病んで再び入院することになった。


 精神の病は一筋縄ではいかない。入退院を繰り返しな
がらも何とか仕事を続ける彼女だったが、「精神病」に
は様々な偏見がついて回る。職場の理解は得られなかっ
た。彼女は突然、解雇された。本来ならば傷痍手当がそ
の年の年末までもらえるはずであったが、会社側はそれ
も告げなかった。


 娘は大学受験を控えている。彼女は市の窓口で生活保
護を申請しに行き、こう告げられる。「娘さんが大学に
進学した場合、保護支給の対象にはなりません。また保
険は財産ですので、全て解約して下さい」。「医療費は
全て市が負担しますから」、とのことだった。


 生活保護は今後一生受けられるものではない。生活保
護が打ち切りになった後、癌の手術経験のある彼女が再
び保険に加入することは難しい。そんな中、 もし癌が
再発してしまったら?


あまりのリスクの大きさに、彼女は生活保護の受給を諦
めた。


 それから病の体を引きずりながらパートに行き、それ
でもとても足りず貯金を切り崩す毎日。彼女の娘は、果
たして大学に進学することができるのだろうか?


AFTERMOD E-PRESS
   娘の部屋の棚に置かれた家族写真。
娘はいつもそれを伏せ、母はそれをまたこっそり起こす。
    何年間もその繰り返しが続いている。


 これは特異なケースではなく、日本で日常的に起きて
いる問題です。彼女のケースを見るだけでも、様々な問
題の側面が見えてきます。社会の中の孤独の問題、教育
の問題、そして行政の対応の問題。日本の貧困問題は、
果たして本当に「自己責任」なのでしょうか? 子ども
たちが自由に「夢」を描ける環境にあるのでしょうか?


 進学を諦めていく子どもたち。連鎖していく貧困。そ
んな現実を目の当たりにする度に、悔しくてたまらなく
なるのです。「子ども」から「大人」になった私が一番
やりたいこと。それは次の世代、「子ども」たちの未来
を育むことなのかもしれない。今後「日本の貧困」の取
材を進めます。


(文+写真=安田菜津紀)


02 ヤハギクニヒコ『社会学曼荼羅01:貧困とは何か?~環境と選択肢』


 仮に、「貧困」の対概念を「幸福」としてみます。


 1998年にノーベル経済学賞を受賞したインドの経済学
者アマルティア・センは「幸せ」とは「選択可能性の幅」
すなわち「潜在能力」であると言いました。これを「ケ
イパビリティ」と言います。だいたいにおいて、人は自
分が選択可能な中から最善の選択をしています。それは
当たり前なのですが、例えば僕の場合、以前勤めていた
会社で「有給休暇」というものがなかったので、基本的
に休むことをしませんでした。これは当時の僕にとって
は最善の選択だったのですが、社会的に見たら問題があ
るわけです。つまり別の選択肢が見えていなかったんで
すね。選択するためには、まず自分の中に理想やヴィジ
ョンがなければいけないわけですが、それすらままなら
ない状況に、無自覚の福祉問題が潜んでいるといえそう
です。


 2008年、はじめてカンボジアへ行ったときに真っ先に
感じたのは、経済状態だけで貧困を語るのは危険だ、と
いうことでした。人と人との繋がりが非常に豊かで、僕
が出会った人々もまた、そこに価値を見出しているよう
に思えました。むしろ、日本が支援して欲しいくらいだ
とすら感じる豊かな人間関係と温かい雰囲気の中で、そ
れでもケイパビリティはとても低いと感じました。“国
境なき子どもたち”の施設で出会ったディーという青年
は、絵を描くのが好きでとても才能があるのですが、鉛
筆もあまり手に入らないし、穴だらけの小屋に住んでい
る家族の生活が優先だと言っていました。彼にとっての
最善の選択は、日本に暮らす僕らの選択肢とどのくらい
違うのでしょうか。


 オーストリアの哲学者イヴァン・イリイチは経営者や
正社員以外の労働者を「シャドウ・ワーカーズ」と呼び、
資本主義経済を支えているのは正にシャドウ・ワーカー
ズであると言いました。マルクスの『資本論』で考える
のならば、正社員もその他の労働者も会社が搾取出来る
だけ余分に働かなければなら成りません。しかし、その
労働量はかなり幅があります。ワーキング・プアと呼ば
れる人々を尻目に、いつ働いているのか分からないよう
な、給料に見合わない仕事しかしないホワイトカラーも
居ます。マルクスのいう搾取だけで現代の資本主義が成
り立っているとは考えられません。確実に不当に搾取さ
れすぎている人々がいるはずなんですね。そんな中、自
分にとっての最善の選択としてシャドウ・ワークを選ぶ
人が存在する。イリイチはそういう社会事態に問題があ
ると批判しました。それは真の自発的選択ではない、と
いうんですね。


 例えば、僕が授業を持っている中学受験生達の中には、
親の意志で塾に通っている(と本人が認識している)生
徒と、自発的に通っている(と本人が認識している)生
徒が居ます。しかし、自発的に通っている生徒に、その
理由を聞くと、受験をした方が将来(お金に)困らない
と親に言われたから、あるいは地元の公立中学校があま
りに荒れているから、というような答えがかなり多くあ
ります。果たしてこれらの生徒は自発的に受験勉強をし
ていると言えるでしょうか。この辺に日本社会の持つ問
題点が見え隠れしているように感じます。イリイチは、
自発的でない勉学もまたシャドウ・ワークであり、肥大
した資本主義を支える要素になっていると分析しました。


 先日ご招待戴いたTEDxSeedsカンファレンスで、写メ
ールや床発電を手がけた発明家の武藤佳恭さんとお話し
させて戴く機会がありました。その時に武藤さんは「お
金に頼る支援など長続きしない。本当に支援を考えるな
ら金ではなくて頭を使わないと」と仰っていたのですが、
もしかしたら僕らはお金に価値を置き過ぎることで選択
肢を狭め、そのためにさらに資本主義に絡め取られてい
るのではないか、と感じました。アマルティア・センの
経済学は「モチベーションの倫理的思考法」と「それを
達成するための手段」をベースにしています。僕らがそ
れぞれの貧困から脱するためのキーワードは、貨幣に変
換することを拒否するような、そういう価値を多様に持
つことと、それによる選択肢の豊かさなのであり、それ
を実現出来るような社会的アプローチを国やマスコミに


(ヤハギクニヒコ)


03【報告】佐藤慧×安田菜津紀 TEDxYouth


 11月20日に開催されました「TEDxYouth@Seeds 」に、
スタディアアフタモードからは安田菜津紀、佐藤慧が参
加しました。安田はメインステージで、佐藤はアフター
パーティでの発表でした。100名を超える厳選された
参加者の前での発表は、「0から1への種を蒔く」と同
時に、僕たち自身も大きな力を頂きました。

 20代を中心に、これからの世界を変える可能性を秘
めた人々の集う場は、その場に居るだけで楽しく、エネ
ルギーに満ちていました。ここで得た新たな出逢い、前
進への意思は、今後少しずつ芽吹き、成長し、未来への
花を咲かせることと思います。巡り合えた全てのみなさ
まに感謝。また来年、お会いしましょう。

(佐藤慧)


04【告知】11月22-24日 佐藤慧&安田菜津紀

『Under The Same Sky -同じ空の下で-』


11月22日から3日間、滋賀県の立命館BKCをお借りし
て、写真展を開催します。安田菜津紀の写真と共に、国
際協力団体TOM SAWYER様との共催です。

この団体の創立メンバーでもある千葉慎也 氏には、今
回のイベントを開催する切っ掛けを作っていただきまし
た。彼の活動の展示コーナーもありますので、よろしけ
れば足をお運びください。

「Under The Same Sky」というタイトルは、
僕が今後永く続けていきたいテーマタイトルで、今回は
その第一歩となります。同じ空の下で、同じ世界に呼吸
する人々の命を、少しでも垣間見えるものを写真を通じ
て感じてもらいたいです。

日時:11月22~24日
場所:立命館BKC リンク2階、リブロスペース

◇ 22 日:11:00 ~ 18:00(11:00 ~ 18:00 作者在廊) 
◆ 23 日: 9:00 ~ 18:00(14:00 ~ 18:00 作者在廊)
◇ 24 日: 9:00 ~ 18:00(14:00 ~ 18:00 作者在廊)

◆23日にはトークイベントも開催します。
【イベント詳細】はこちら→http://ameblo.jp/keisatojapan/



05【告知】安田菜津紀 11月20日発売『日本カメラ』掲載


11月20日に発売しされました『日本カメラ』にて、安田
菜津紀の記事を掲載されております。「オリンパスPE
Nのインタビュー」、「『CAPA』に今岡昌子さんと
の対談」と二点掲載していただいているので、お時間の
ある方はぜひ手に取ってご覧ください!


06【告知】(in京都)オリンパス写真展「She Has A "PEN"」


☆安田菜津紀がオリンパスギャラリー主催のグループ展
「日本カメラ社主催、7人の写真展」に参加させていただきます。
お時間があいましたら是非、足をお運び下さいませ。

◆2010年12月2日(木)~7日(火)   ギャラリー古都(旧コンタックスサロン)
  (AM11時~PM7時/最終日午後3時/日曜・祝日休館)
◆2011年1月20日(木)~2月2日(水) オリンパスギャラリー大坂
  (AM10時~PM6時/最終日午後3時/日曜・祝日休館)



07【編集後記】死に至る病に抗う


 11月19日、「九条の会」主催による飯田進さんの講演
会に参加してきました。現代日本に住む僕らの直面して
いる問題など、戦時中に起こったことに比べれば“絶望”
するにはおこがましい些細な問題に感じます。しかし、
飯田さんをして「今の日本は絶望的である」といいます。
実際、僕の接する中にも、社会に対する閉塞感や、絶望
感を口にする学生が数多くいます。努力をせずにネガテ
ィヴな言動を取ることに対して、僕は憤慨しがちなので
すが、そういう風に感じさせる社会に原因があるのもま
た事実だと思います。社会のせいにして個に引きこもる
のではなく、隣の個に語りかけて、少しずつ輪を広げて、
社会に近づいていく。飯田さんは「一部の学生との対話
の中には希望を感じる」と仰っています。国境や世代を
越えてわかり合うことと、隣の誰かとわかり合うことは、
根本的には同じことのように思います。草の根的な活動
に希望の光を見つつ、また来週お目にかかります。

(ヤハギクニヒコ)


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『AFTERMOD E-PRESS』いかがでしたでしょうか?
今回の記事についてご意見・ご感想など、
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編集  ヤハギクニヒコ 笠原正嗣
執筆  ヤハギクニヒコ 安藤理智 安田菜津紀 笠原正嗣 佐藤慧
発行  株式会社スタディオアフタモード/ studioAFTERMODE Co.,Ltd.
    http://www.aftermode.com/

本WEBサイトの内容の一部または全部を無断で複写(コピー)することは、法律で定められた場合
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info@aftermode.com


AFTERMOD E-PRESS 【vol.00011】(2010年11月16日号)


=INDEX=


00【巻頭】技術革新と本質へのフォーカス
01【特集】安藤理智「レンズが捉えるスポーツの本質」
02【特集】笠原正嗣『絵巻物とiPad/iPhone』
03【報告】佐藤慧×安田菜津紀 『カンボジア、ザンビアの今を伝える』
04【告知】11月20日 ヤハギクニヒコがTEDxSeedsに、
           安田菜津紀・佐藤慧がTEDxYouthに参加します。
05【告知】11月20日 「超」天職セミナー≪トークライブ編≫
06【告知】“あと2日”オリンパス写真展「She Has A "PEN"」
07【後記】未来を受け入れる準備


xx【緊急告知】

11月22-24日 佐藤慧&安田菜津紀

  場所:立命館BKC リンク2階、リブロスペース

  ≪詳細≫http://ameblo.jp/keisatojapan/


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00【巻頭】技術革新と本質へのフォーカス


  拝啓、皆様、ここ横浜も日に日に冬の気配が街を包みこん
でいます。お元気でお過ごしでしょうか。週末までAPECの警
備のために日本中から警察官が集まって、深夜もにわかに賑
わっていましたが、今夜はすっかり静かです。さて、アジア
大会を取材している安藤から、スポーツカメラマンの視点で
のスポーツ論が届きました。一方、笠原の特集は絵巻物と新
しいメディアの親和性についてです。どちらも技術革新が進
み、道具を通して対象を見る在り方が変化しつつある中で、
変わらないモノ・コトがあることを示唆しているように思い
ます。便利な時代になったからこそ、ラディカルな視点をも
つことで、見失いかけた本質を捉えやすくなった部分もある
と思います。進む技術と歴史や伝統を同時に前向きに捉える
こと。これが僕らスタディオアフタモードのキーワードです。
では、第11号、お楽しみ下されば幸いです。



01【特集】安藤理智「レンズが捉えるスポーツの本質」


今、私は中国/広州にいる。第16回アジア大会の真っ最中
だ。縁あって、日本人でありながらタイ国オリンピック委員
会のオフィシャルカメラマンを務めさせて頂き、今大会もタ
イ国代表選手団に帯動し、朝から晩まで競技会場を駆け回っ
ている。


今回はそんなアジア大会から、皆さんにスポーツの面白さを
文章で伝えるという試みにチャレンジしたいと思う。



スポーツには人間の物語がある。


    AFTERMOD E-PRESS
   (C) R.ANDO / National Olympic Committee of Thailand


スポーツは人間が生み出したドラマだ。選手達が見せる喜怒
哀楽は、さまざまな表情となって僕たちを魅了する。そこに
あるのは、まさに人間本来の姿だと思う。感情を剥き出しに
し、プライドを賭けて一瞬に挑む選手達の表情は、見ている
我々を虜にする。


筋書きのないストーリーの、その一瞬だけを、ファインダー
を通して永遠に記録すること。それがスポーツ写真であり、
スポーツカメラマンの仕事なのだ。


選手の持っている魅力。それを言い換えれば競技に挑み、体
力、技術、精神力。そういったものを武器に戦う人間の生の
姿をとらえてこそ、感動的なスポーツ写真が生まれる。


昔はアクションの魅力をとらえることがスポーツ写真の主流
と考えられていた。しかし、それだけでは十分にスポーツが
持つ魅力を伝えられるわけではない。


アクションと、人間そのものの魅力を映像として残してこそ、
現代のスポーツ写真なのだ。メダルを持ってにっこりピース

写真だけでは見る側に感動が伝わらない。



技術の時代から感性の時代へ。


    AFTERMOD E-PRESS
    (C) R.ANDO / National Olympic Committee of Thailand


カメラの進歩に伴って、スポーツ写真の世界も大きく変わっ
てきた。まだオートフォーカスカメラが無かった時代には
「ピント」「フレーミング」「シャッターチャンス」の3つ
を同時に操作することが、スポーツ写真における基本技術と
されてきた。瞬時にこれができなければ、スポーツの写真は
撮れなかったのである。


私もスポーツ写真を撮り始めた時は、先輩カメラマンに習い、
ピントが合わせられるようになるまでフィルムを何百本と無
駄に使ったものである。念のために付け加えておくが、時代
はすでにオートフォーカスカメラ時代。ところが、先輩達か
ら「マニュアルでピントがあわせられないならスポーツは撮
るな」と脅かされていたのだ。


ところがオートフォーカスカメラの性能が上がるにしたがい、
操作は格段に楽になった。特に一番の難関とされてきた「動
くものに常にピントを合わせ続ける」という操作も、カメラ
が正確に、早くあわせてくれるようになった。


その結果としてピントをカメラにまかせ、フレーミングとシ
ャッターチャンスに注意して撮影を行えば良い事になった。

さらに時代は進み、カメラの精度が上がり、連写機能が充実
する事で、シャッターを押し続ける事でシャッターチャンス
もある程度はカメラ任せにできる時代になってきた。フィルム

からデジタルへと写り、枚数を気にする事無く撮影もできる

ようになってきた。


そうなると問題になってくるのが「感性」だ。撮らされた写
真と、撮った写真は明らかに違う。


何百分の一秒、あるいは何千分の一秒、という最高の一瞬を
狙うのであれば、ただシャッターを押し続けていても、「良
い瞬間」は撮れない。やはり、全神経を集中させ、選手と気
持ちを同じくして初めて「最高の瞬間」をものにできるのだ。

ただカメラ任せにするのではなく、自分の技術を磨くという
意味においては、まだまだ真剣に取り組む必要がある。

とはいえ、カメラ操作が何よりも優先された時代はすでに終
焉を迎えつつある。まさに、写真を撮る人間の感性が試され
る時代へと突入しているのだ。



選手同様に甘えは許されない。


    AFTERMOD E-PRESS
    (C) R.ANDO / National Olympic Committee of Thailand


オリンピックやアジア大会を取材するスポーツカメラマンは
華やかな世界にいるように見えるかもしれないが、実際はか
なり過酷だ。まず、機材も15kgから20kgを一人で持ち歩
き、朝から晩まで競技会場を移動しながら撮影を続ける。も
ちろん、締め切り時刻がある場合にはその時間を考慮しなが
ら撮影した写真のセレクトを行う。


スポーツにおいては「やり直し」がない。同じ瞬間は二度と
訪れない。だからこそ、万全の準備をして競技会場へと向か
うのだ。


自分が狙ったイメージをものにするため、全神経を集中させ
る。甘えは許されない。


写真は怖いものだ。その時の気分が沈んだ状態では、それが
そのまま写真に残ってしまう。だからこそ選手と同じく、写
真を撮る側も「肉体と精神」を充実させて大会に臨むのだ。


アジア大会が終わると、アジアビーチ大会、冬季アジア大会
と続く。意外かもしれないが、常夏の国タイも冬季アジア大
会に選手団を派遣する。
映画『クールランニング』ではないが、そのうちタイからも
冬季オリンピックのメダリストが誕生する日が来るのかもし
れない。

                      (文+写真=安藤理智)



02【特集】笠原正嗣『絵巻物とiPad/iPhone』


五島美術館(http://www.gotoh-museum.or.jp/ )が開館50周
年記念展として11月28日(日)まで「国宝源氏物語絵巻」展を
やっています。愛知県にある徳川美術館と共に所蔵する源氏
物語絵巻を一堂に集めているようです。日本人としてはぜひ
見てみたい展示会ですね。


『日本の絵画のあそび』(榊原悟/岩波新書)によると、絵
巻物を見るにあたって読み手は「作品を机上に置き、(中略)
鑑賞者みずからが画面を左手で左方へ広げ、熟覧し、次に右
手で巻いていく方法」を取っていたと指摘しています。そし
て「絵巻を味わうには、それなりの労力と時間がかか」り、
「鑑賞それ自体にすでに時間的、空間的展開性を持っている」
と書かれています。


簡単に言ってしまえば、巻物をほどいて右端から絵巻物(=
文字+絵)を順々に見ていったとき、本のページを捲るよう
にスルスルと左へ左へ巻物を開いて物語を楽しむよねってこ
とです。鑑賞者はたぶん貴族やお偉いさんが多かったでしょ
うから、読み手の周りには侍女などサポーターも多かったこ
とと思います。ですからお偉い読み手がいちいち読みながら
巻物を撒いたとは思えませんが、それでも一巻読むのに結構
な労力があったと考えられます。しかし今回僕が言いたいの
はそこではありません。榊原悟さんがご指摘された「時間的、
空間的展開性」、要するに、巻物はシームレス(継ぎ目なく、
ひと続き)にずっと一方通行で時間と空間、登場人物が動い
ていたということです。


一般的に現代の技術でこれを体現しているメディアはなんだ
と思いますか?


僕はアニメーションだと考えます。フラットな画面に色彩を
載せているという意味で絵柄は似ていますが、さすがに音声
があるわけでもなく(音読はしていたでしょうけど)、キャ
ラクターがそれぞれしゃべるとは思えないので現代のアニメ
一歩手前が絵巻物だったと言えるのではないでしょうか。


そしてそのアニメ一歩手前の状態を現在体現しているメディ
アが最近登場しています。ソフトバンクはよくぞ持ってきて
くださいましたね(孫正義社長、ありがとうございます!)。
そう、タイトルで出落ちですがiPad/iPhoneです。


iPad/iPhoneでマンガを落として読んだことがある方ならイ
メージが付きやすいと思うのですが、タッチパネルで次のペ
ージにスライドさせたときマンガはスーッと移動するんです
ね(しかも、日本のマンガは右から左に読むという法則は当
時の絵巻物と同様、まだ現在に保存されている!)。


また拡大縮小の機能により、クローズアップなどアニメでよ
く使われる効果も見られます。絵巻物を読んでいた当時の貴
族やお武家さんは、きっと夜読んでいた時ついつい絵巻物を
自分に近づけて読んでいたんじゃないかと思います(だって
ろうそく灯りですよ、かなり暗いはずです)。

もうお分かりと思いますが、巻物を横にスライドさせていた当

時の人の読み方と、iPad/iPodでマンガを読むというのはよく

似ているわけです。ちなみに今のマンガの原型ともいえるも

のは黄表紙と言いますが、国文学をやっている方の中には

なぜか、当時の黄表紙のテクストの部分だけを読み、絵をカ

ットして研究する人がいるそうです。みなさんがマンガを読む

とき「マンガの絵なんてなくてもいいや」と思うかちょっと考え

てみてください。


ここに気が付いたキュレーターさんや美術館、デバイス関係
の方、ぜひアプリとして販売していくムーブメントを作って
欲しいと思います。僕が思うにこれはちゃんと発表出来たら
世界がビックリするはずです。くしくも、パソコンでスクロ
ールという言葉が使われていますが、それを絵画で昔の日本
がやっていたかもしれないわけですから、日本の文化に目を
向けてもらえるきっかけになるかもしれません。


ただ一つ難点なのは、絵巻物は元々長いのでストーリー重視、
画像はサブ、当然絵の全体像とかはあまり気にしなくて良く、
見るにあたってはスライドし続けるだけで良いのですが、例
えば水墨山水の掛け軸などは困るわけですね。せっかくスラ
イドして滝の流れを目で追ったあとに、さあ全体像を見よう
としたらiPad/iPhone画面のサイズに縮小されてしまいます。

ハッキリ言って超つまらないです。一応アイデアとしては、
iPadなり、40型テレビを縦に3つくらい並べて上から掛け軸
的に絵を落とすというものが考えられます。


実物の絵巻物や掛け軸ではさすがにスクロールを試すのは不
可能ですが、iPad/iPhoneのような石版的タッチパネルメデ
ィアに一度スキャンして使えるようになれば、当時の人間の
見方を体感できるようになると思います。するときっと何か
しら閃く人が出てくることでしょう。今まで展示物やただの
テクストだけでは見えてこなかった解釈も期待できるのでは
ないでしょうか。学校にも簡単に配布できますし、マンガ感
覚で読めるのなら、日本の文化に目を向ける子供も増えると
思います。ぜひ、美術館さま筆頭に実行していただきたく思
います。


とりあえず、今のところそういう動きがないようなので、五
島美術館さんで絵巻物を体感するときは巻物が動かないです
から、鑑賞者が動きましょう。歩きながら読んでください(笑)。
    

                             (笠原正嗣)



03【報告】佐藤慧×安田菜津紀 『カンボジア、ザンビアの今を伝える』

13日に毎日エデュケーション、グローバル広場で開催した
取材報告会は、皆さまのおかげで素晴らしい場を創り上げる
ことが出来ました。


安田菜津紀のカンボジア、佐藤慧のザンビアの取材報告をす
ると共に、インタビュアーに今井紀明氏を迎え、40名を超
える方に来ていただきました。


ご来場いただいた方々も熱心に聞いてくださり、また新しい
繋がりも増えました。


個々の人間のひとつひとつの行動は、取るに足らないほどの
ちっぽけな力に過ぎないかもしれませんが、そのエネルギー
のベクトルが、「より良い世界、未来へ向けて」という点で
集約していけばきっと大きな変化が訪れると思います。


これからも皆と共に、切磋琢磨しながら前に進んでいきたいです。


ご来場い頂いた方々、
お手伝いをしてくれたスタッフ、
そして素晴らしい機会を提供して下さった
毎日エデュケーショングローバル広場の皆さま、
本当にありがとうございました。

今月23日には、滋賀県の立命館BKCにて、またこの3人
のチームでクロストークセッションを行わせていただきます。

                               (佐藤慧)


04【告知】11月20日 ヤハギクニヒコがTEDxSeedsに、
             安田菜津紀・佐藤慧がTEDxYouthに参加します。


「TED」とは、Technology、Entertainment、Designの頭文
字を表し、この3つの領域が一体となって未来を形作るという
考えに基づいて世界中で展開している国際会議です。このTED
会議が提唱してきた”ideas worth spreading”の精神に共感
し「日本のアイデアを世界の人にもっと知ってもらいたい」
という想いからはじまったカンファレンス「TEDxSeeds」に、
アフタモードメンバーを呼んでいただくことになりました。

 今回は、横浜は赤レンガ倉庫で行われる本会議にヤハギク
ニヒコが、慶應キャンパスで行われる20代が中心のユース会
議に安田菜津紀と佐藤慧、そしてライブオンワイアーから小
川光一と長野友紀が参加させていただくことになりました。
安田は登壇者として、プレゼンテーションが、佐藤慧と小川
光一もスピーチの機会を頂けることになりました。参加され
る方は、是非お楽しみに。会場でお会い出来た際には声を掛
けて下されば幸いです。
TEDxSeeds


05【再掲告知】11月20日 「超」天職セミナー≪トークライブ編≫


28歳という異色のカテゴリーで集められた現在活躍しているメンバー

による『「超」天職セミナー』に佐藤慧が参加します!
お時間が取れましたらぜひご参加くださいませ。


《日時》
11月20日 10時~13時

《場所》東京都渋谷区代々木4-28-8 608号 イマジニ屋学校拠点
《アクセス》新宿南口改札より徒歩15分、初台駅より徒歩5分

甲州街道20号線の交差点「西参道口」を新宿駅を背にして左。
そして次の信号(西参道)を右。
東都レジデンス新宿ビルの隣の白いビルです。
http://p.tl/TZxK

《料金》2,980円
《定員》25名(早いもの価値!!満席になり次第受付を終了させて頂きます。)
《申込み》 info@globecorp.co.jp
まで11月20日「超」天職セミナー申込みと表題にお書き頂き
ご連絡ください。


≪11月20日授業内容≫
◆10:00~10:45
☆「超」スーパーバカ代表☆
【イマジニ屋】松永真樹(28歳)

◆11:00~11:45
☆「超」スーパージャーナリスト☆
【フィールドエディター】佐藤慧(28歳)

◆12:00~12:45
☆「超」スーパービジネスマン☆
【営業コンサルタント】松澤真太郎(28歳)

≪詳細≫http://ameblo.jp/keisatojapan/theme-10025484462.html


06【再掲告知】安田菜津紀 オリンパス写真展「She Has A "PEN"」


☆安田菜津紀がオリンパスギャラリー主催のグループ展
「日本カメラ社主催、7人の写真展」に参加させていただきます。
お時間があいましたら是非、足をお運び下さいませ。

◆2010年11月11日(木)~17日(水)  オリンパスギャラリー東京
  (AM10時~PM6時/最終日午後3時/日曜・祝日休館)
◆2010年12月2日(木)~7日(火)   ギャラリー古都(旧コンタックスサロン)
  (AM11時~PM7時/最終日午後3時/日曜・祝日休館)
◆2011年1月20日(木)~2月2日(水) オリンパスギャラリー大坂
  (AM10時~PM6時/最終日午後3時/日曜・祝日休館)



07【編集後記】未来を受け入れる準備


 能動的であることと、受動的であること。そしてその間に
機械が入り込むこと。写真というのはその登場時から、人と
機械と世界とのコラボレーションでした。その意味で、僕は
写真ということに魅力を感じ、足を踏み入れたのですが、ネ
ットメディアや、新しいデバイスの登場により、ますますそ
の有機的結合は、一言でデジタルだのアナログだのと二分出
来るような状態ではなくなってきました。(もっとも最初か
らアナログの対義語はデジタルではないはずなのですが)機
械化しながら未来へ向かうことに警鐘が鳴らされて久しいで
すが、機械化をも受け入れる多様性を、僕らの文化は元々持
ち合わせているのではないかという気がします。新しく感じ
ることも、僕らが忘れてしまっているだけで、その表象や性
能は違えど、既にあったモノやコトの再編集なのではないか、
と思うこともしばしばです。もし過去にあった何にも例えら
れないモノやコトが登場したときに、本当のパラダイムチェ
ンジは来るのではないかと思います。いずれ現れるそれをポ
ジティヴに迎えられるように、僕らは準備が必要なのかも知
れません。では、また来週お目にかかります。

                          (ヤハギクニヒコ)





==========
『AFTERMOD E-PRESS』いかがでしたでしょうか?
今回の記事についてご意見・ご感想など、
お気軽にドシドシと書き込みください。
アフタモードメンバー一同、心よりお待ちしております。


編集  ヤハギクニヒコ 笠原正嗣
執筆  ヤハギクニヒコ 安藤理智 安田菜津紀 笠原正嗣 佐藤慧
発行  株式会社スタディオアフタモード/ studioAFTERMODE Co.,Ltd.
    
http://www.aftermode.com/

本WEBサイトの内容の一部または全部を無断で複写(コピー)することは、法律で定められた場合を除き、著作者および出版社の権利の侵害になります。記事の使用をご希望される場合は、タイトル「AFTERMOD E-PRESS係」にて下記アドレスまでご一報をお願いします。取材もこちらで承ります。
info@aftermode.com

AFTERMOD E-PRESS 【vol.00010】(2010年11月9日号)


=INDEX=

00【巻頭】覚悟することと足りないことと
01【特集】安田菜津紀 元日本兵・松浦俊郎
02【対談】ヤハギ×小川光一 『それでも運命にイエスという』対談(後編)
03【告知】佐藤慧『マイ・フェイス 秋号(Vol.003)』にて掲載中!
04【告知】11月20日 「超」天職セミナー≪トークライブ編≫
05【告知】安田菜津紀 琉球大学講演
06【後記】未来をつくる実践と思惟


↓このサイトはミラーです。本サイトはこちら↓
【AFTERMOD E-PRESS】 http://www.aftermode.com/press/
【メルマガ登録はこちら】 http://www.aftermode.com/press/ml.html




00【巻頭】覚悟することと足りないことと


 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。すっかり日も短くなり、冬

の到来を感じさせますね。E-PRESSも今回で無事10号を迎える

ことが出来ました。少しずつ、しかし確実に僕たちの言葉が多くの

人に届いているのを実感します。 今回は安田が取材に伺った元

日本兵・松浦俊郎さんのお話を筆頭に、ヤハギクニヒコ×小川光

一の対談の後編もお伝えします。寒い季節が近づくと、シベリア

に抑留されていた祖父のことを思い出します。僕が幼少の頃に亡

くなった祖父は、寡黙で、とても優しい目を持った人でした。彼が

戦地に赴いていたということ、戦後に極寒の地で強制労働に従事

していたこと、それらの事実は、僕には現実感の薄い遠い昔話に

聞こえました。母方の祖父母は広島生まれで、祖母は田舎での

畑仕事の最中に「ピカドン」を目撃したと言っています。祖父は零

戦で出撃する直前に終戦を迎えており、もし終戦の時期が遅れた

ならば特攻兵として出陣していたかもしれません。戦争に巻き込

まれ、当事者となり、また被害者となるのは、僕の祖父母のような

普通の人たちです。大切な人を大切にしたいと思うのは、全ての

人の願いだと思いますが、それが実現しない今の世の中に欠けて

いるものとは一体何なのでしょうか。耳を澄まし、眼を見開き、痛

みを糧に前に進んで行く覚悟が、今必要とされているのではない

でしょうか。今回の記事の放つ言葉もまた、あなたの心に触れる

ことが出来たら幸いです。

(佐藤慧)



01【特集】安田菜津紀 『元日本兵・松浦俊郎さんを訪ねて』


"第二次世界大戦"と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか? 


きっと人それぞれの答えがあり、そして世代によっても異なる価

値観があるのだと思います。私の場合、昨年までそれは教科書の

中の文字でしかなく、どこか遠いお話でした。けれども実際にこの

戦争を体験している方にとっては、この言葉から様々な記憶が蘇

ってくるのではないでしょうか。この世代間の価値観の違い。 もし

かしたら世代を越えて経験を共有できていないのでは? そう感じ

るようになったのは、ニューギニア戦線に派兵されていた元BC級

戦犯の飯田進さんと出会ってからでした。飯田さんとお話をしてい

くうちに、それは「あなた」の戦争になり、そして「わたし」にとっての

戦争となっていったのです。


「あの戦争は一体なんだったのか?」飯田さんがよく口にされて

いた言葉を反芻するように、戦後65年となった2010年、私は必

死に戦争の跡をたどりました。中でも最も衝撃を受けたのが、フィ

リピンで目の当たりにした戦争の傷跡でした。日本兵のゲリラ掃

討作戦の対象となり、一夜にして焼け野原になったマパニケ村。

村の人々の中には今なお、恐怖や悲しみが忘れられることなく残

っていました。「私たちの正義は傷つけられたままです」。生き延

びた村の人々は口々にそう語ります。


 フィリピンでの戦争を追っていく中で、一人の元日本兵の方とお

会いすることができました。松浦俊郎さん、88歳。学徒出陣を受

け、大学を繰り上げて卒業した後、陸軍予備士官学校へと進学。

けれども南方戦線が厳しい状況となってきたことから、在学中に

フィリピンに派兵されることになったそうです。松浦さんがフィリピ

ンに入った頃はまだ、日本軍とアメリカ軍が空中戦を展開してい

た頃でした。けれどもある日を境に、それがぴたりと止みます。日

本軍の戦闘機が全滅したのです。


 やがて5~6万にものぼる米兵がリンガエン湾沿岸(マニラから

北西に進んだ海沿い)に上陸、急遽北上を命じられます。車など

はなく、毎日20~30キロの距離を徒歩で進んでいきました。 そ

の間、半分はマラリアを患って亡くなり、松浦さんの知る限りでも

20名が銃で自殺を図ったと言います。
「"バターン死の行進"のことはよく知られていますが、私たちの行

軍もそれと同じくらい過酷なものでした。意味のある死に方をした

人間はほとんどいませんでした」。


 大腸炎に苦しみながらゲリラに怯える過酷な状況の中、 ある日

上空から蒔かれたビラで戦争終結を告げられました。そこに勝敗

は記されていなかったものの、敵の策略かと最初は信じられなか

ったのだと言います。
「連絡手段がないために、私たちが敗戦を知ったのはそれから半

月も経ったときでした。 私たちは武装解除のため、持っていた手

榴弾や刀剣を綺麗に磨いておきました。しかしいざ捕虜になるとき、

米軍たちはそれをどんどん投げ捨てていく。私たちにとってはなけ

なしの武器だったものも、米軍にとっては何でもないものだったの

です」。


 当時残した手記を見せてもらいました。紙も鉛筆も不足していた

ため、薄いノートの切れ端には、米粒よりも小さな文字がびっしり

書かれ、それらのほとんどが食べ物の名前でした。食料が不足し、

とにかく食べ物を欲している最中、各地から集まった兵隊同士が

自分の故郷の特産品の話をして空腹を紛らわせたときの記録な

のだそうです。


AFTERMOD E-PRESS

 当時、フィリピンの人々の日本人に対する憎悪は激しいもので

した。道を歩けば石を投げられ、「パタイ!(死ね)」という罵声を浴

びせられることはしょっちゅうでした。そのことについて触れると、

松浦さんは言葉を詰まらせながら語ってくれました。
「生きるために、略奪をしてきました。フィリピンの人たちには、か

わいそうなことを思っています」。


 マパニケ村のロラ(おばあさん)の言葉が思い出されます。「も

ちろん、日本の政府に対しては怒りを感じる。けれど日本兵一人

一人も犠牲者だと考えられるようになった」。 一人一人を責めるこ

とができない戦争。 けれども同じことを繰り返さないために、省み

なければならない傷跡。未来へバトンを渡すために、わたしたちが

受け止めていかなければならない声があるのではないでしょうか。

(写真+文=安田菜津紀)


02【対談】ヤハギ×小川光一 『それでも運命にイエスという』対談(後編)


◆映像という方法。


ヤハギ: もともと葉田さんとは知り合いだったんですね。
光一  : 葉田とは知り合いでしたが、全然仲良くはなかったんで

す。でも本当に声をかけてくれたタイミングが良くて。
ヤハギ: なるほど、それもまた運命ですね。
光一  : そうですね。葉田と僕の化学反応は完全に奇跡です。
ヤハギ: では、最初から映像を一緒に作ろうと?
光一  : はい。多少迷いましたが、直感でした。
ヤハギ: まあ、創作活動なんていうのは、結局、何と出会ってしま

ったか、ってことですよね。実際初めての映像で、どんな

苦労がありましたか?
光一  : まず、映像制作について全くの無知だったことが一番の

苦労でした。
ヤハギ: どうやって勉強されたのですか?
光一  : 撮影も映像編集もパソコンも意味が分かりませんでした(笑)。

本とか読みました。あと、ドキュメンタリー映画を3,4ヶ月

で200本見て研究しました。
ヤハギ: おお! それは凄い。その中で、特に参考になった作品と

かは?
光一  : とりわけ「これ」というのは選べないですが、200本見たこ

とは映像編集ド素人の僕をかなり助けてくれたように思い

ます。
ヤハギ: 量が質に転じるというのはありますからね。僕にとっての

本がそうですね。
光一  : なるほど!!
ヤハギ: 段々映像を見る視点が変わって来たとか、そういう変化は

ありますか?
光一  : かなり変わりましたね。なんだか番組を見ていてもパズル

みたいな感覚に陥るんです(笑)。ヤハギさんも映像編集

されるようですが、そういうことはありませんか?
ヤハギ: そうですね。時間と空間に対する知覚については随分思

索しますね。時を止めて、分断して、入れ替える。そうする

ことで、文脈を変化させる。そういう「操作」という感覚は、

頭の中で常に起こりますね。
光一  : 時間と空間に対する知覚、今でこそ凄く分かります。まさ

に操作感覚ですね。
ヤハギ: 断片化した知覚を、どう繋ぐかで、物語が出来る。順番だ

けで、意味が変わる。そう考えると、少し怖い気もしますけ

どね。
光一  : そうですね。要は映像を見る人を操作すうることも出来て

しまいますからね。


◆絶望の中の光、希望の中の闇。


ヤハギ: 取材中一番印象に残ったことは、何ですか?
光一  : HIVに感染していた方の笑顔です。 あまり詳しい内容は

ここでは話せませんが、絶望ばかりでないことにハっと

させられました。
ヤハギ: なるほど。僕もHIV村へは行きましたが、同じように希望

を感じましたね。明日のためにコツコツと内職をするご夫

婦にお世話になりましたが、二人は病院で出会って結婚

したと言っていました。
光一  : 僕も同じHIV村に行きましたが、希望も絶望も表裏一体し

ている印象がありました。
ヤハギ: 本当は、僕らだって表裏一体なのだと思います。しかし、

片方が際立たないと、なかなかもう片方のかけがえのな

さに気づけなかったりしますね。
光一  : まさしくそうですね。その点、今回の映画には表裏を込め

れたんじゃないかなと思っています。
ヤハギ: 僕は、アートには問題提議があるべきだ、と考えています。

アリストテレスは、平和へ向かうもの以外はアートとは認

めませんでしたが、かなり近い感覚だと思っています。平

和へ向かうためには、敢えて、逆を照射する。それはとて

も大事なことなんじゃないかって思うんですね。僕らが9

月にやった、飯田進さんのイベントも、まさにそういう側面

がありました。 逆から見ようにも、僕らの世代には分から

ないことが多すぎる。このまま、流れてしまっては、 本当

にマズイという直観があります。
光一  : ホワイトアウトですね。 闇がなく、光だけでは視界は真っ

白。
ヤハギ: バランスが大事です。境界を捉えるというか。 しかし、既

存の境界線は疑ってかからなきゃならない。自分で立っ

てみて、そして捉え直す。 そういう思想が大事なんだろう

と思います。
光一  : はい、今ある境界線はマズい流れを作った主語と同じだ

と思います。
ヤハギ: これは、壮大な問題だと思います。個人で何とかなるよう

なことではないですね。 共闘しつつ、少しでも伝えていき

ましょう。
光一  : はい、共闘しましょう。尽力します。


◆“心が動く”を超えた“体が動く”を目指して。


ヤハギ: 実際に映画を撮ってみて、自分や周りの環境に変化は

ありましたか?
光一  : 以前はどうしたら発展途上国の格差をなくせるのかばか

り考えていましたが、映画の制作を通して、日本で伝え

ることにも、より重きをおくようになりました。変化としては、

自分の思考や活動の偏りが、バランスを取れてきた感覚

です。

ヤハギ: なるほどね。 今一緒に活動しているLIVEonWIREでも、生

放送であることとか、音声や動画に注目しつつ、新しいネ

ットメディアを作っていこうとしているわけですが、取り立

てて、映像で何が表現できる、あるいは表現できないと思

いますか?
光一  : 映像で表現できるのはその場の空気だと思います。写真

や文章では伝えられない。 逆に映像だと、一瞬を紡ぎ出

せる写真や、より伝えたいことが反映できる文章などに比

べて、何が重要かが少しぼやけてしまうところがあるかも

しれません。たくさん盛り込めるので。
ヤハギ: 僕も「雰囲気」というか「プロセス」というか、目に見える形

での「行間」が映像の強みだと思いますね。
光一  : ヤハギさんはどう思いますか?
ヤハギ: 写真は「定着」です。 凝視しなくても、一番伝えたい瞬間

が、定着している。映像だと、そうはいかないという弱点も

ありますね。 しかし、僕らは定着しない世界で生活してい

るわけで、より身体的なのもまた、映像なのだろうと思いま

す。
光一  : 僕らは定着しない世界で生活してる、だから映像ですか。

名言ですね。
ヤハギ: やはり、五感ということを考えると、常に揺れている。じっと

していたって、止まったものを凝視していたって、揺れてい

るんです。同じ音を、いくら同じ音程で同じ強さで、機械的

に作ったところで、振動であることからは逃げられない。そ

ういった意味での「リアル」は、やはり動画や音声なんだろ

うと思います。

光一  : 振動であることが五感としてリアルにつながるわけですね。

勉強になります。
ヤハギ: 僕らは、定着した写真すら、動画としてみているんですね。

そのことを意識するのは、大事なんじゃないかと思います。
光一  : 写真を見ても、頭の中でイメージしますもんね。
ヤハギ: 今後の活動はどういったヴィジョンがありますか?
光一  : もちろんこの映画を通して「カンボジアのHIVの現状を伝え

たい」というのがありますが、僕としては見てくださった方の

意識に訴えかけたいと思っています。
ヤハギ: なるほど、具体的にはどういった方法で?
光一  : これは僕が日頃に感じる持論なのですが、たとえば感動す

る文章や音楽、映画に触れて、ほとんどの人は“心が動く”。

でも、ほとんどの人は“体が動く”までは行かないと思うんで

すね。その「“心が動く”を超えた“体が動く”」を追求したいと

思ってます。
ヤハギ: カントですね。純粋理性批判。実践なき理論は空虚である。
光一  : その通りです。2011年2月15日~3月27日に日本一周上

映会をして、各都道府県で、協力してくださる団体とコラボレ

ーションしてイベントを行っていくことを予定しています。
ヤハギ: 日本一周という発想は、まさに言うは簡単行うは難しですね。

作品を作るところで力尽きちゃう人や、満足しちゃう人は多い

ですが、一緒に育っていかないといけませんよね。
光一  : この今回のドキュメンタリー映画を、協力してくださる国際協

力団体が作り上げるイベントと組み合わせることで、この「“

心が動く”を超えた“体が動く”」を実現させたいと考えていま

す。五感です。イベントは五感を揺さぶる統合術ですよね。
ヤハギ: 自分と作品と、世界を結合する術ですね。 計り知れない関

係線が引かれますね。とても楽しみです。
光一  : この関係線がどうなるのか、全くの未知の世界です。僕も日

本一周が楽しみです。


◆何が起こるか、何が出来るか。


ヤハギ: その素晴らしい第一歩として、『それでも運命にイエスと

いう。』 が、UFPFF 国際平和映像祭にて上映が決まり

ましたね。 おめでとうございます。
光一  : ありがとうございます。 200名の方に見ていただけると

いうことで、非常に恐れ多いです。
ヤハギ: いよいよLUZファクトリーも本格的に動き出すわけですね。
光一 : 動き出しますね。11月3日のUFPFF国際平和映像祭発

表会が過ぎると、僕は日本一周の準備をしながら、次の

制作を始めることになっています。ヤハギさんもLUZ FA

CTORYのメンバーの一員ですよね?(笑)
ヤハギ: ははは、そうなんですよね。 僕も末席に加えて頂くこと

になったのですが、何が起こるか、何が出来るかとても

楽しみです。
光一  : ホームページのプロフィール一覧では、あえての一番下

に据えてみました。なんだか個人的に安心感が増しまし

たよ。笑
ヤハギ: 僕は、場所は拘りません。色んな場所にいることには拘

ってますけどね(笑)。
光一  : 神出鬼没ってやつですか(笑)。
ヤハギ: これからの時代、ことインターネットメディアにおいては、

いわゆる「ジャンル分け」というものは不要になってくると

思っています。そういう意味で、僕にとってはいまだ未知

が多い映像制作に関わらせて頂けるのは、とても有り難

いですね。
光一  : こちらこそ、次世代のインターネットメディアを先駆する

であろうヤハギさんのお力添えをいただくことができるこ

とを光栄に思っています。
ヤハギ: 僕には病気の弟がいますが、彼は元気だった頃、 写真

家と映画監督を目指していました。もともと彼の代わりに、

と始めた写真でしたが、映像の方にも引っ張られてきまし

たね。これにも縁を感じます。
光一  : 映画監督もだったんですね。 引っ張る一因になれたこと

を嬉しく思います。これからも様々なツール、様々な場所

で共闘していきましょう!まずは追いつきます(笑)。
ヤハギ: では、色々と活動を共にしていくことになりますが、まずは、

この映画が多くの人の心と体を動かしますように、僕も出

来ることをさせて頂きます。さて、いきなりのロング対談に

なりましたね。有り難うございました。
光一  : ありがとうございます。どうぞ『それでも運命にイエスという』

をよろしくお願いいたします。こんなに対談するとは思って

なかったですよ(笑)。ご多忙な中、ありがとうございました。
ヤハギ: こちらこそ、有り難うございました。着々と行きましょう!



03【告知】佐藤慧『マイ・フェイス 秋号(Vol.003)』にて掲載中!


雑誌『マイ・フェイス 2010年秋号(Vol.003)』にて、佐藤慧の記事

『黒人社会の白い先生、チャンダ』を掲載させていただいております。
アフリカ・ザンビアで教師として働くアルビノ当事者:チャンダさんの

生活を現地の写真と共にお伝えしておりますので、お時間があれば

ぜひご覧ください。


HP: http://mfms.jp/myface/2010/1028/myface2010autumn.html


04【告知】11月20日 「超」天職セミナー≪トークライブ編≫


28歳という異色のカテゴリーで集められた現在活躍しているメンバー

による『「超」天職セミナー』に佐藤慧が参加します!
お時間が取れましたらぜひご参加くださいませ。

《日時》
11月20日 10時~13時


《場所》東京都渋谷区代々木4-28-8 608号      
イマジニ屋学校拠点


《アクセス》新宿南口改札より徒歩15分、初台駅より徒歩5分

甲州街道20号線の交差点「西参道口」を新宿駅を背にして左。
そして次の信号(西参道)を右。
東都レジデンス新宿ビルの隣の白いビルです。
http://p.tl/TZxK


《料金》2,980円

《定員》25名


(早いもの価値!!満席になり次第受付を終了させて頂きます。)

《申込み》 info@globecorp.co.jp
まで11月20日「超」天職セミナー申込みと表題にお書き頂き
ご連絡ください。



≪11月20日授業内容≫
◆10:00~10:45
☆「超」スーパーバカ代表☆
【イマジニ屋】松永真樹(28歳)


◆11:00~11:45
☆「超」スーパージャーナリスト☆
【フィールドエディター】佐藤慧(28歳)


◆12:00~12:45
☆「超」スーパービジネスマン☆
【営業コンサルタント】松澤真太郎(28歳)


【詳細】http://ameblo.jp/keisatojapan/theme-10025484462.html



05【報告】安田菜津紀 琉球大学講演


琉球大学の皆様、そしてOB、先生方のご好意で、4日間沖縄に

滞在し、 講演をさせて頂いた他、フィールドワークも企画して頂き

ました。

盛りだくさんの4日間をまとめて言うのはとても難しいのですが、
チャンスを見つけようという意欲に溢れた学生さんたちとの交流は、
私にとってもかけがえのないもので、新たしい気づきもたくさん頂

きました。

「沖縄で写真展をやってほしい!」という声をたくさん頂き、私にも

目標が増えました。 今度は写真を展示できる場で、また学生さん

たちと熱いお話がしたいです。

また沖縄に伺えるのを楽しみにしています。
お世話になった皆様、本当にありがとうございました。
(安田菜津紀)



06【編集後記】未来をつくる実践と思惟 


もしも今戦争が起こったら、僕はどうするだろう。そんなことを考

えられること自体、僕らは恵まれています。しかし、そんな想像力

すら、あと少しで届かないところに行ってしまいそうな気がして、焦

りを感じます。僕らが「あの戦争」について考え出したことは、色々

な巡り合わせがあってのことです。「HIV」についてもそうです。知

らなければ、何も考えなかったかも知れない。そう考えると背筋が

寒くなるのを感じます。天才哲学者にして編集者だったチャールズ・

パースは、アイデアにしても何にしても純粋な直観というのは存在

せず、必ず経験した何らかの認知が影響していると考えました。そ

れを信じるならば、僕らがやるべきことは明確です。 少しでも思考

のための要素をばら蒔くこと。 どこかで僕らの言葉や写真に出会

った人が、それを切っ掛けに何かを感じて考える。その可能性を、

消さないように繋ぎ、拡散していくこと。 幸運にも、僕らには新しい

メディアがあります。 それらは諸刃の剣ですが、間違いなく世界を

変える爆発力を備えています。 140年前、マルクスの『資本論』の

初版はたった1000部でした。 カントは『純粋理性批判』の中で「内

容なき思惟は空虚であり、概念なき直観は盲目である」と言ってい

ます。カントの言う「内容ある思惟」とは、「実践を通じて、実感を伴

った思惟」ということだと思います。ほんの少しでもそれに近づける

ように。また来週お目にかかります。
(ヤハギクニヒコ)


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編集  ヤハギクニヒコ 笠原正嗣
執筆  ヤハギクニヒコ 安藤理智 安田菜津紀 笠原正嗣 佐藤慧
発行  株式会社スタディオアフタモード/ studioAFTERMODE Co.,Ltd.
    http://www.aftermode.com/

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