今回は、TSの踊り子・いちるさんの一周年作「かぐや姫」について、「踊り子は皆かぐや姫」という題名で観劇レポートします。

 

 

 

 

 さっそく、いちるさんの1周年作を紹介しよう。

 華やかな和物姿で登場。赤い着物の上にピンクの打掛けを羽織る。

 最初の場面、金色の扇子で顔を隠して現われる。一服の絵になっている。竹取物語のかぐや姫だ!とピンとくる。

 なんて華やかな衣装だろう♪ 透け透けのピンクの打掛けには花の刺繍が施されてある。

 黒い髪型がかぐや姫そっくり。ピンクの花の下に二つの赤白まだらの布が垂れ下がる髪飾りを付ける。

 打掛けを脱ぐと、長い袖のある白と赤を組み合わせた着物地が現われる。赤と金が織りなす帯が豪華で、後ろ背に花のリボン結びされている。

 更に、下半身の衣装を脱ぎ軽装になる。青竹を使って舞う。

 そして、打掛けを羽織りベッドショーへ。小さな小箱から櫛を取りだし、髪をすく。

 最後に、天井から吊り下がるリング。銀色のカバーを外し中から赤いリングを取り出す。このリングは月をイメージし、かぐや姫が月に還っていくシーンを演出している。いちるさんが見事にリング演技を行い目が点になる☆ どれだけ練習したことか。脱帽である。

 素晴らしい1周年作に拍手☆

 

 かぐや姫は「竹取物語」の主人公。

 竹の中から生まれて、竹取翁夫婦に育てられ、三ヶ月で美しく成長する。5人の貴公子から求婚されるが、結婚の条件にそれぞれ難題を出して退ける。帝の求婚も断り、八月十五夜、天人に迎えられて月の世界に還っていく。誰もが知っているストーリー。

 この物語は9世紀後半から10世紀前半に成立した、日本最古のSF大作。仮に日本童話でディズニー映画に取り上げられるなら真っ先に「かぐや姫」だと私は思っている。

 

 

改めて「踊り子というのは私にとってかぐや姫だ」と思う。

 ストリップは踊り子に恋する場。私にとっては月の光のように淡く儚いものに思える。千円札を握ってポラを買ったりチップを渡して求愛するも、恋は叶わず、いずれ目の前から消えて行く。

 だからこそ、踊り子には金で動かず心で動いてほしいと念ずる。どんなお金持ちも権力者も相手にせず、誰の手にも届かない清らかな存在のまま、月の世界に還ってほしいなと勝手に思っている。そんな気持ちで童話『かぐや姫への想い』を書いた。1周年記念にプレゼントします。

 

 いちるさんはデビューから、私の手紙&童話ファン。大切な読者の一人。なかなか応援に顔を出さなくて申し訳ないけど、いつまでも大切な太郎チルドレンの一人として応援させて頂きます。

 

平成28年9月                         池袋ミカドにて

 

 

 

 

『かぐや姫への想い』 

~いちるさんの一周年作「かぐや姫」を記念して~

 

 

月から発せられた青白い光がまっすぐ地球に届いた。その光は、ちょうど神社の裏の竹やぶに当たった。竹の中には月から降臨したかぐや姫が入っていた。それを見つけた神社の神主は、月から召された神の使いとして、かぐや姫を大切に育てた。

 

年頃になったかぐや姫は巫女として仕事をするようになった。

ところが、かぐや姫はこの世の人とは思われない神々しい美しさを持っていた。

たくさんの若者が一目かぐや姫の美貌を拝もうと集まった。彼らがかぐや姫に会うためには一枚1000円のおみくじをひかなければならない。彼らは毎日のように参拝してはたくさんのおみくじを買い、たくさんの贈り物をかぐや姫に差し上げ、彼女の気を引こうとした。来る日も来る日もその行列は絶えなかった。

しかし、かぐや姫は贈り物に心を動かしたりはしなかった。

 

その中、ひとりの貧しい若者が一枚のおみくじを買って、手紙を一通置いていった。また何日かして、同じように一枚のおみくじを買っては手紙を置いていった。それは定期的に続いた。

かぐや姫はその手紙を開封し読み始めた。手紙はかぐや姫の心の扉を叩き開かせた。その瞬間、彼の心を乗せた言葉たちがかぐや姫の心に入っていった。言葉は心の贈り物。かぐや姫は、その若者の自分を想う気持ちに心が動いた。そして、若者に対して返事を書いた。

返事を受け取った若者は大変恐縮した。自分のような貧しく取り柄のない者に対して、かぐや姫が返事をくれるなど夢にも思わなかった。手紙への返事が次々と若者のもとに届いた。

若者は言いました。「あなた様からお手紙をいただき仲良くして頂けるなんて奇跡としか考えられません」 

それに対して、かぐや姫は答えました。「いや、私とあなた様とは、出会ったことは奇跡と思いますが、仲良くなれたのはとても自然な流れですよ」

 

若者はもともと文章を書くのが好きですらすらと楽しく書いていたが、一方のかぐや姫も若者の文章の魅力に惹かれ、手紙を書くのがどんどん大好きになっていった。会話が弾むごとく、文章が弾んだ。二人は心の会話を求め、お互い惹かれ合った。

二人は恋をしていた。しかし、どんなに仲良くなろうと、若者は決してかぐや姫に求婚しなかった。自分は神々しいかぐや姫に相応しくないと頑なに思い込んでいた。

 

実際に、彼の認識は間違っていなかった。

とうとう、かぐや姫は月に帰らなければならない日がやってきた。月が青白く光り始めていた。

 その日、かぐや姫は直接、若者に向かって話し出しました。

「私はこの地球に、本当に美しいものを求めてやってきました。それをこれまでずっと探していましたが、本当に美しいものは目には見えないことが分かりました。

 わたしは真実の愛をあなたとの手紙のやり取りで知りました。あなたは手紙を通じて、心を贈ってくれました。本当に美しいものはあなたの心の中にありました。

 わたしは、本当に美しいものを見つけたら月に帰らなければならない運命(さだめ)を持っています。そして、本当に美しいものを見つけた今、その時が来てしまいました。

 勝手な話でごめんなさいね。」

そして、かぐや姫はこう付け加えた。「これまで仲良くして頂いた御礼に、なにか贈り物をしたいのですが・・・」

若者は答えた。「私はなにも要りません。あなたと仲良くしていただいた思い出があるだけで十分幸せです。あなたから頂いたお手紙はいつまでも大切に保管しておきます。」

かぐや姫はにこっと笑って言いました。

「あなた様のお陰で楽しい日々を送ることができました。感謝でいっぱいです。わたしも、あなた様からいただいたお手紙だけを携えて、月の世界に帰りたいと思います。」

二人の会話が終わった瞬間、青白い光がかぐや姫を包み月の世界に連れて行った。

 

その後も、若者は満月の夜には必ず月を仰ぎ見ました。

そのたびに、かぐや姫が微笑んでいるように見えて幸せを感じるのでした。

 

                                   おしまい