りゅうせんけいの「重箱の隅」 -10ページ目

りゅうせんけいの「重箱の隅」

知らないことは罪である!

「その3」より続き


 先輩のところに行くと、別に急ぎの用件があったらしく、

「あとで見る(チェックする)から、(「結果」を)もらえるか?」

ということであったので、僕はさきの「結果」と、比較検討に使った「軸」の図面を先輩に渡し、自席に戻って別の仕事をこなし始めた。


 
 しばらくして、先輩が僕の席に来た。


 正直、「注文がつかない」ことは無いであろうとは思っていたが、

その「注文」をつけた上で、

「その上でならば、まぁ、いいだろう。進めて」

ぐらいにはなるであろうと想像していた僕に対し、先輩の言った言葉は、

「(比較検討に使った)この『軸』、随分古いもので、壊れたか壊れなかったかわからないから、『これで比較検討しました』ということにはできない」

であった。


・・・えぇっ!?

 うちの図面管理は、「壊れたもの」と「壊れなかったもの」の区別もつかない状態にあるわけ?


さらに続けて、

「なぜ(材料を)S43CではなくS45Cにしたのか?」

と質問された。


 どうやら「軸」の材料に、(何故だかわからないが)うちの部署ではよく使われる「S43C」を指定せず、「S45C」を指定したことに不満があるらしい。


 前者については、ここではひとまず置いといて、まず後者については、僕なりの理由がある。

 それは、材料の「疲労限度」などを測定する、いわゆる「材料試験」のn数が多く、データが比較的そろっているから。

 n数(「エヌすう」と読む)とは、平たく言えば「試験の行われた回数」のことで、当然ながらこれが多いほど取られたデータの数が多く、また一般的にデータの数が多いほど、その特徴をつかみやすいであろうことは、ご想像いただけると思う。

 このn数が、S43CよりS45Cのほうが圧倒的に多く(10倍や20倍どころではない)、一方でS43Cについては「無いことはない」ものの、あれこれと調べてみたものの極めて少ないというのが現実で、そうなればどちらを採用するかは言わずもがな、S45Cのほうを選んだわけである。


 一方の前者については・・・正直、絶句である。


 というか、理屈が合わない


 繰り返しになるが、「軸」の直径について、先輩の計算では35mm、僕の計算では38mm、これに種々の理由を加味して40mmとなった。

 そして僕は、先輩の言うところの「壊れたか壊れなかったかわからない」ものと、35mm、40mmとを比較検討し、「やはり35mmでは不足」という結論を得た、ということは先に述べた。


 ここでちょっと考えて欲しい。

「壊れたか壊れなかったかわからない」ものとの比較検討においてさえ「35mmでは不足」という結論になったというのに、「35mmにしろ」というのは・・・

おかしくないか!?


(続く)


「その2」より続き


 僕の提出した「軸」の部品図を見た先輩は開口一番、

「なぜ(「軸」の)直径を40mmにした?」 

 もっともな話である。「35mmでもつ」と教えたはずなのに、出来上がってきた図面は40mmになっていたのだから。


 僕は先述の経緯を踏まえ、計算書を見てもらい、強度計算における根拠(材料の実験資料など)を提示し、「軸」の直径を、教えてもらった35mmではなく40mmとした理由を説明した。


 僕の説明を一通り聞いた先輩が次に発した言葉は、

「・・・で、実績は?」

 この言葉に、最初僕は、何を聞かれているのかわからなかった。


 要は

「過去にも別の製品で同じような試験が行われているはずであるから、そのときの『軸』について、同じように解析を行い、比較検討したか」

ということである。


「そんなことをする必要があるのか?」

という考えが一瞬、頭をよぎったが、先述のように「装置が壊れてしまっては話にならない」わけであり、ましてや僕のような、設計経験の浅い者のやることである。
 過去のいわゆる「実績」と比較検討するというのは、ある意味当然のことといえる。

 今思えば、恥ずかしいことであるが、当時の僕は些か自分を「過信」していたようである。

 とはいえ、「『実績』との比較検討」を示さないことには仕事が前に進まないので、僕は早速「実績」探しにかかった。


 そこでまず、図面庫(過去の図面を収納してある倉庫)に行き、「軸」の図面を探したが、なかなか見つからない。

 ようやく見つかったのは、なんと1970年代の図面。
 もっと最近にも試験は行われているはずであるが、どうしても見つからない。

 仕方なしにこの「軸」と、この軸を使って試験された「製品」の仕様を用いて計算を行い、今回僕が設計している「軸」と比較検討したのであるが、やはり今回の試験において、「軸」の直径は35mmでは不足という結論に至った。


 その結果を持って、さきの先輩のところに説明に行った。


(続く)

「その1」より続き


 それは配属から数年経た昨年夏のことである。

 僕はひとつの仕事を与えられた。

 それは、ある製品(機械)の試作が進み、耐久試験を行うことになり、そのための装置を設計せよというものであった。

 「装置」といっても、回転する「軸」と、それを支える「支持台」からなる単純なものであったが、
件の「製品」が、海外への輸出も視野に入れたものであると聞くに及んで、「これはいよいよ責任重大」とばかりに、鼻息荒くして仕事に臨んだ。


 通常、「装置」を設計するに当たっては、まず全体の配置を決める「計画図」を作成する。
 このとき、「軸」の直径や「支持台」の脚の太さなどは、比較的簡単な計算でだいたいの寸法を決めて計画図に描き入れる。

 その後、この「計画図」を基に、各部品の詳細な設計を行い、それぞれの「部品図」を作成する。
 このとき、強度計算や材料の選定などには、理論と経験・実績とを併せよく検討して、細心の注意をもって行う。

 そしてその情報を「計画図」に反映し、部品同士の「干渉(平たく言えば『ぶつかる』こと)」などがないか検討し、必要があれば修正する。


・・・というような作業を行い、一連のいわゆる「設計図」ができあがってくるのが、僕の勤め先のやり方である。
(他社がどうなのかはわからないが)


 この時もこの例に漏れずに、僕は計画図の作成を開始した。

 その際、先輩(件の「製品」の設計主担当、先述の「よいものを・・・」と言った方とは別の先輩)から

「『軸』の直径は35mmでもつ(壊れない)はずだから、それで進めて。」

と指示を受け、僕はそのとおりに計画図を作成した。


 ところが、部品図の作成段階に入り、僕が「軸」の強度計算を改めて行ったところ、直径35mmでは強度が不足する可能性が出てきた。

 厳しい耐久試験を行うにあたり、試験に耐えられなくなって「製品」が壊れるのならまだしも(設計しなおせばよいし、そもそもそういった問題を洗い出すための試験である)、「装置」のほうが壊れてしまっては話にならない

 僕の計算では、耐久試験を無事に乗り切るためには、「軸」の直径は、少なくとも38mmは必要となるはずであったと記憶している。

 これに加え、「軸」を支える「軸受(ベアリング)」の選定(市販品のボールベアリングを使う)ということも絡んで、僕は「軸」の直径を40mmに決定して、部品図と計算書を作成し提出した。


(続く)