りゅうせんけいの「重箱の隅」 -9ページ目

りゅうせんけいの「重箱の隅」

知らないことは罪である!

「その6」より続き


 それにもまして、いまだ経験の浅い僕をして不安に感じさせるのは、件の先輩が設計した部品が破損、もしくはトラブルを起こすという事例が、「頻発」とはいかないまでも、「散発的」に発生しているという事実である。


 以前にも、ある製品(機械)の耐久試験中に、その中に組み込まれていたある部品が破損するという事態が発生した。

 当時僕は、コンピューターによって「有限要素法」という手法を使い、新規に設計される部品の設計の補助や、部品が破損した場合の原因究明とその対策(補強など)を行っており、この案件が僕のところに持ち込まれてきた。


 詳しい説明を受け、破損した部品の図面と「境界条件(部品のどこに、どのくらいの力が、どちらの方向に加わるか、など)」を書いた紙をもらい、早速解析にかかったのであるが、計算の結果、与えられた境界条件の下では、破損が危惧されるような箇所が見られない

「何か間違えているのか?」

と、あれこれ調べてみたが、間違いは無いように思われた。

 自らのチェックだけでは不安に思い、僕が有限要素法の手ほどきを受けた「師匠」ともいうべき、大先輩にお願いしてチェックしていただいたのであるが、

「特に問題は無いみたいだけど・・・」

とのご託宣で、ならばと改めてもう一度計算したのであるが、やはり結果は変わらず


 そこで僕は、与えられた「境界条件」をチェックしていったのであるが、よくよく調べてみると、部品に加わる力の大きさがおかしなことに気付いた。

 いろいろ計算してみると、与えられた力の大きさでは、その機械の性能を満足できないことがわかってきた。

 すなわち、与えられた力の大きさでは、その機械の性能はもっと低くなくてはいけないことになる、という結論に至った。


 そこで、機械の性能のほうから加わる力の大きさを逆算し、それを基にして解析を行ってみた。


 結果・・・

 部品の取り付け部付近に強い応力集中が発生しており、その応力の値は、その部品の材料(アルミ合金)の許容値を上回っている

ということになった。


 そこで僕は、この部品の設計者(件の先輩)にこのことを説明したのであるが、いかにも「半信半疑」といった表情で、なかなか納得してくれない。

 困った僕は、それならばこの部品をどうやって設計したのかと尋ねたところ、

今回の製品(機械)の、「一世代前」の、ほぼ同サイズの機械の部品を参考にした。

とのことであった。


 そこで僕は図面庫へ行き、その「一世代前」の部品の図面を探して、今回の部品の図面と見比べてみた。


 図面を見て驚いた。

 図面庫から持ち出してきた、「一世代前」の部品の図面と、今回破損した部品の図面とが、ほとんど「瓜二つ」であったのである。


 「一世代前」の製品と、今回耐久試験を行っていた製品とでは、(半ば当然ながら)後者のほうが大幅に性能が向上しているにもかかわらず、である。


(続く)

「その5」より続き


 そもそも僕は「理論的計算だけですべて設計できる」などとは考えていない


 確かに僕は、理論的計算を重視する傾向にあると自分でも感じているが、

「理論」は所詮、現象の「近似」に過ぎず、現象を完全に再現しうるものではないことは確かであり、「理論」と「現象」との間には、どう頑張っても「誤差」が生じてしまう

というのが、僕の持論(というより、多くの技術者の等しく考えることであろうと思う)であり、「理論偏重」は避けるよう、常に自戒しているつもりである


 この「持論」は、「故障」「トラブル」の中には、その「誤差」に起因するものが少なからずあるという事実からも間違ってはいないと考えている。

 それゆえ、21世紀の今日に至っても、少なくとも機械の設計においては、「経験」や「実績」との比較検討が不可欠なのであり、特別の理由や余程の「ブレイクスルー」でもない限り、それらから大きく逸脱するような設計は「タブー」とはいかないまでも、「忌避」されているのが現実である。

 もちろんそうすることにより、過去に発生した「故障」「トラブル」などのいわば「失敗」を繰り返すことの無いようにして、ひいては「再設計」のようなものを極力減らすという狙いがあるのはおわかりであろう。


 
 ただ、上司や先輩の

「うちは今までこれでやってきた」
「今までの流れで・・・」

といった発言の源をたずねてみると、

「失敗を繰り返さないように」

というよりは、

「今のところこれで問題になってはいないのだから、変更する必要は無い」

というニュアンスが多分に見られているのが気になる。
(勿論、この言葉の裏には「変更≒冒険」と捉え、これを避けようとする思いがあるように感じる)


 上記について、一見するとまっとうなようにも思えるかもしれないが、よく考えてみて欲しい。

「問題になってはいない」のはよいが、どのレベルで問題になっていないのかがわからないのである。

すなわち、

「十分な余裕を持って安全といえる」

状態であるのか、

「実用上、もはやギリギリのところで、かろうじて問題となるのを回避できている」

状態であるのか、
そのレベルがこれまで把握されてきていないのである。

 そのあたりのことを尋ねてみるのであるが、返ってくるのは

「わからない」
誰も調べたこと無いから・・・」

・・・。

 調べていないのならば、僕の設計に対して、果たして「理詰め」で修正を求めてきているのか、疑いの目を禁じえない


というか、「誰も調べたことが無い」というのであれば調べてください

 なんなら、僕が調べますが。


 先述の「S43CかS45Cか」の件についても、

「(過去に)「軸」の材質にS45Cを使ったら不具合(軸受の焼き付きなど)が発生し、S43Cに変更したら解決した」

といったような「経験」「実績」があるのであれば、納得もできようというものであるが、そういった話は全くといってよいほど話されず、

「S43CもS45Cも、材質としては大差ないのだから、S43Cでよい」

といった「不可解」な理由(「大差ない」というならば、別にS45Cでもよいのでは・・・)や、

S45CよりS43Cのほうが
「価格が安いかもしれない
あるいは
「入手しいやすいかもしれない
「製作する部署に在庫があるかもしれない

といった、調べてもいないのにわかるはずのない理由を並べ立てて、材質の変更を迫られるのだからたまらない。



(続く)


「その4」より続き


 問答続きで、一向に仕事が先に進まないのを見かねてか、遂に上司が口を挟んできた。


 しかし、上司の主張もまた、先輩の主張と全くといってよいほど同じもので、僕は納得するどころか、ますます心配が募る始末に。

 
 そして、なおも「これでは心配である」という僕に対し、

「理論的計算だけですべて設計できるわけではない」
「今までこれでやってきているのに、なぜわざわざ変える必要があるのか」

といった、いかにもな抽象的かつ一般論的な言葉で返され、僕はますます困惑。
(そのくらい、いくら僕でもわかっているつもりですが・・・)


 挙句の果てに、

「それでは、僕は納得できません。」

と僕が言ったところ、上司から返ってきた言葉は

「君が納得するかしないかなんてことは、関係ないことだ」

という始末。


・・・。

 正直、

「うちの部署は、この先もつのか?」

と、本気で思った。


 結局のところ、

「黙って(こちらの)言う通りに図面を引いておけばいいんだよ。」

と言いたいわけである。


 それでは、一体何のために決して安くはない給料を払って、僕らのような「技術者」を雇っているのであろうか


 単に図面を引くだけならば、技術者を雇わなくとも、「製図工」というのであろうか、図面を引く専門の方々がおられるのだから、そちらに頼めばよいのではないか。

 そのほうが「言われたとおり」かつ「正確」で、何より「僕などに頼むより余程早く」図面が出来上がってくると思うのであるが。


 僕がこのような発言をすると、

「そのような単純な考えではない」
「図面を引かせるのは、『新人技術者の教育』という意味合いも含んでいる」

といったお叱りを受けそうであるが、もちろん僕とて、そのぐらいのことは承知の上である。

 というか、僕は、図面を引くことは嫌いではない
 むしろ「自分が設計したものは、自分で図面を引く」ものであると考えている

 ただしこれは「図面を引く専門の方々を信用していない」ということではないので、念のため。


 僕が言いたいのは、

「設計にあたって、いたずらに『実績』『経験』ばかりを叫び、そしてその名の下にきちんとした検討を怠っているのではないか」

ということである。


(続く)