今回、『幸せになるために』に出演している女優Hが
稽古場に子供を連れて行きたいという連絡があった。
彼女に子供がいることも、結婚していることも知らなかった。
子供好きな私は了承した。
実はそれはHの子供ではなく、元カレの子供だという。
「元カレはナニやってる人?」
「ホストです」
「ホストか……よくありそうな話だな」
「でも彼の子供でもなくて、彼の浮気相手の子供で、
その浮気相手がいなくなって、彼もいなくなってわたしが面倒見る羽目になったンです」
「ひえ~だね」
※写真はイメージです(笑)。
稽古が始まり、最初は大人しかった子供も、
慣れてきたら稽古場を走りだした。男の子は元気がいい。
Hの出番になると「Hika×~!」と大声で叫んでいる。わんぱくだ。
休憩になり、Hがわたしの傍にきて、子供を膝の上に乗せ遊んでいた。
「へぇ~ちゃんとママしてるンだ?」
「もしかしたら……この子のおかげかもしれないです」
「え? 何が?」
「私が生きていられるの」
「生きてるでしょ」
そう言うとHは袖を捲って見せた。
そこには彼女が自分で傷つけた無数の傷跡が痛々しく残っていた。
「何度、死んでやろうと思ったことか……
母が妹を連れて家を出て行ったときも……
学校でイジメられたときも……バイトで風俗やって、
『このくされマンコ!』とか言われて万札投げつけられた時も……」
「風俗やってたの?」
「あいつが帰ってこない時も……
稽古中、森岡さんが下らないギャグを言うときも……」
「それは関係ないだろう」
「でも……この子がいるから私は帰らなきゃいけないし……
浮気されたら浮気仕返してやろうと思ったけど……
この子、保育園に迎えに行かなきゃいけないし……モテるんです保育園で……」
「イケメンだよね」
「私……母親の愛情、全部妹に取られた気がしてるンです……
だからずっと淋しくて……この子育ててたら本当の子供のように思えて……
自分の子供時代やり直している……そんな気がして……
私、『路地猫』のとき、全然みんなと飲みにいかなかったでしょ」
「それはコロナで禁止されてたからね」
「いつも淋しくて……いつも何かに苛々してて……
この子けっこう明るいンですよ……
それって見ているくれている人がいるからなんですよね……
だから明るく元気に生きていられるンです……」
「Hのこと……ママって思ってるのかね?」
「どうでしょ……まだ一ヶ月だから……
私のとこへ来る前は施設に預けられていたみたい
です……母親見つからなかったら……
そこへ連れて行きますよ……今だったらまだ忘れら
れるし……ナンチャッテ」
Hの身の上とか、聞いたことがなかった。
「人ってね……苦さを味わうから、甘さがわかると思うンですよ」
Hはそういうと、母のような優しい瞳で子供を瞶めていた。
子供のいる稽古場で何か、ひとつ、大切なことを学んだような気がした――――。
と、いうところで目が覚めた。
世間はまだ闇の中だ。明るくなるまでまだ時間がある。
来年、30周年で新作やれとスタッフがうるさいから、
何か考えるか……書かないけど(笑)。