女優Hの憂鬱 | 森岡利行オフィシャルブログ「監督日誌」powered by Ameba

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脚本家
舞台演出家
映画監督
プロデューサー
文教大学情報学部メディア表現学科非常勤講師

今回、『幸せになるために』に出演している女優Hが

稽古場に子供を連れて行きたいという連絡があった。

彼女に子供がいることも、結婚していることも知らなかった。

 

子供好きな私は了承した。

実はそれはHの子供ではなく、元カレの子供だという。

「元カレはナニやってる人?」

「ホストです」

「ホストか……よくありそうな話だな」

「でも彼の子供でもなくて、彼の浮気相手の子供で、

その浮気相手がいなくなって、彼もいなくなってわたしが面倒見る羽目になったンです」

「ひえ~だね」

 

※写真はイメージです(笑)。

 

稽古が始まり、最初は大人しかった子供も、

慣れてきたら稽古場を走りだした。男の子は元気がいい。

Hの出番になると「Hika×~!」と大声で叫んでいる。わんぱくだ。

 

休憩になり、Hがわたしの傍にきて、子供を膝の上に乗せ遊んでいた。

「へぇ~ちゃんとママしてるンだ?」

「もしかしたら……この子のおかげかもしれないです」

「え? 何が?」

「私が生きていられるの」

「生きてるでしょ」

そう言うとHは袖を捲って見せた。

そこには彼女が自分で傷つけた無数の傷跡が痛々しく残っていた。

 

「何度、死んでやろうと思ったことか……

母が妹を連れて家を出て行ったときも……

学校でイジメられたときも……バイトで風俗やって、

『このくされマンコ!』とか言われて万札投げつけられた時も……」

「風俗やってたの?」

「あいつが帰ってこない時も……

稽古中、森岡さんが下らないギャグを言うときも……」

「それは関係ないだろう」

 

「でも……この子がいるから私は帰らなきゃいけないし……

浮気されたら浮気仕返してやろうと思ったけど……

この子、保育園に迎えに行かなきゃいけないし……モテるんです保育園で……」

「イケメンだよね」

「私……母親の愛情、全部妹に取られた気がしてるンです……

だからずっと淋しくて……この子育ててたら本当の子供のように思えて……

自分の子供時代やり直している……そんな気がして……

私、『路地猫』のとき、全然みんなと飲みにいかなかったでしょ」

「それはコロナで禁止されてたからね」

「いつも淋しくて……いつも何かに苛々してて……

この子けっこう明るいンですよ……

それって見ているくれている人がいるからなんですよね……

だから明るく元気に生きていられるンです……」

「Hのこと……ママって思ってるのかね?」

「どうでしょ……まだ一ヶ月だから……

私のとこへ来る前は施設に預けられていたみたい

です……母親見つからなかったら……

そこへ連れて行きますよ……今だったらまだ忘れら

れるし……ナンチャッテ」

 

Hの身の上とか、聞いたことがなかった。

「人ってね……苦さを味わうから、甘さがわかると思うンですよ」

Hはそういうと、母のような優しい瞳で子供を瞶めていた。

子供のいる稽古場で何か、ひとつ、大切なことを学んだような気がした――――。

 

と、いうところで目が覚めた。

世間はまだ闇の中だ。明るくなるまでまだ時間がある。

 

来年、30周年で新作やれとスタッフがうるさいから、

何か考えるか……書かないけど(笑)。