大河ドラマ『光る君へ』“勝手に解説”~第十二回(2)ー①一条天皇と藤原為時に関する逸話 | 愛しさのつれづれで。〜アリスターchのブログ

大河ドラマ『光る君へ』に関して、勝手に、私感含めて書いております。ネタバレは~という方はご注意ください。

読み進む前に「はじめに」をご覧いただければ幸いです。




(2)為時の越前国守任命

①一条天皇と藤原為時に関する説話

伊周の陣座の席が取り払われたという正月二十五日の除目において、藤原為時は淡路守に任じられました。しかし、二十八日になって越前守の源国盛と任国を交換することになります。

 

大江匡房がまとめた『続本朝往生伝』には、このときの為時と一条天皇に関する説話が載っています。

当時、地方行政区分としての国は大国・上国・中国・下国の四つに分かれており、このとき為時が任されることになった淡路国は下国だった。これを知った為時は、一つの詩を女官に託します。女官は渡しそびれたものの、運よくそれが夜になって一条天皇の目に止まる。そのときの漢詩は

「苦学寒夜 紅涙霑襟 

 除目後朝 蒼天在眼」

(苦学の寒夜、紅涙が襟をうるおす。除目の後朝、蒼天眼に在り)というものだった。

寒い夜の苦学のかいもない結果で、赤い(血の)涙が襟を潤しています。除目の翌日の春の朝、蒼天に眼ありというのに

 

つまり、「寒い夜に耐えて勉学をしていたのに思うような官職にも就けず、赤い血の涙が私の襟を濡らしています悲しい(希望が叶わなかった)除目の翌日の春の朝、蒼天(青空=天帝、転じて君主を指す)は見ているというけれど(もしも除目の変更があるならば、蒼天=一条天皇に一層の忠誠を誓います)」

一条天皇はとても感激します。漢詩として「」と「」、「」と「」の対比が鮮やかなこと、希望の任地ではなかったことについても直接的なものではなく「蒼天眼に在り」(神様は見ている)という言葉で表し、詩人としての教養の高さをうかがわせるものだったからです。そうかと言って一度決めた人事は変えられないので、惜しい思いと憐れみとで一条天皇は食事も摂らずに夜から朝にかけてずっと泣いていたえーん天皇の様子を見た道長は、大国の越前守に任じられた国盛に辞表を書かせて、為時をこれに替えます。国盛はショックで寝込み、一家は嘆き悲しみます。秋の除目で播磨国(大国)の守に任じられるも、病が癒えないまま亡くなってしまうのでした。

 

同様の説話は『古事談』『今昔物語集』などにも見られ、一条天皇の学識の高さ、貴族といえども希望の赴任地に任官されない悲哀、それでも文才によって大逆転した下級貴族(為時)とドラマチックな要素がふんだんに詰め込まれています。


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