「ナースコール」。言うまでもなく看護師さんを呼びだすボタン、スイッチ。原題は〝HELDIN〟ドイツ語で「ヒーロー」「ヒロイン」「英雄」と言う意味です。パンフレットの表紙には英題名〝LATE SHIFT〟とあります。「遅番」ですよね。作品はスイスの映画、出演者はドイツの方が多いですね。この作品、各国で上映されていますが題名をご覧の通り、それぞれの国でいろんな受け取り方がある事がわかります。一言で日本では夜中に絶え間なくなり続ける「ナースコール」からとっているんでしょう。物語はある病院での一夜の出来事を描いています。あまりにも過酷な仕事、それでも彼女たちは息を付き暇もなく動き続けます。絶え間なく続く患者の注文(わがままやね)、今どこにいるのか、自分が誰かさえわからない老人 、死期が迫った患者、常に不安を抱える病床の人々、そして家族。かく言う私も大病を患い、病院にお世話になりました。文句を言ったことも何度か...本作を観て反省です。「あっ、それ忘れてるでぇ」ってことも言いたくなるようなシーンもあります。カメラは常に一人の看護師の後姿を追います。淡々と...。点滴を入れ替え、注射に薬品を入れて、血圧を測り、時には患者に寄り添い、時には罵られる。コロナの時、世界中の医療従事者の方々に感謝の意が伝えられました。それで今は?まさに遅番の過酷な仕事の中、ナースコールがなり続ける中、彼女たちは英雄であります。一晩を描く1時間32分、まさに病院と言う名の戦場にいるような気分でした。
スイスのある病院。遅番のフロリア・リントが出勤してくる。同僚との他愛もない挨拶もそこそこにいきなり老婦人の下の世話だ。それが終わると早番の看護師と引継ぎの確認。この日は欠勤者が一人出て、2人だけで東西両病棟をまかなわなければならなかった。次に手術予定の患者がいるのだがこの患者が遅刻、いきなり予定が狂う。その間に検査の結果を知りたがってくる患者が彼女に話しかけるが担当医でないと伝えることはできない。担当医はこの日、一日中、手術中だ。定期巡回の時間がやって来た、フロリアは順番に病室を回って行く。腹痛を訴え、たった一人で入院した患者はCTスキャンを控え孤独感に苛まれている。「私がいます」と励ます。意識のレベルが低下している患者に四六時中、つきっきりの娘がいた。もう限界だ、休息を取ることを勧めても頑としてきかない。特別室の裕福なビジネスマンは対応が遅いことに嫌味な言葉を投げかける。
それでも患者たちに献身的に尽くし、自分を殺しながらも看護師の業務をこなしていくフロリア。だがひっきりなしにかかるナースコール、患者やその家族からの要望に彼女の仕事は少しづつ滞り出す。呼吸器のボンベを引きずりながら煙草を吸う患者は注意しても聞こうとしない。弱り切った母親の容態を気遣う3人の息子たちに詳細を求められてもフロリアには答えることができない。彼女の対応に苛立ちを募らせる家族。そんなフロリアに対して看護師をメイドか秘書程度にしか考えていない傲慢な特別室の患者は「すぐにお茶を持って来い!」と怒鳴りつける。そんな態度にも黙って従うしかないフロリア。その時、一人のアジア人の患者の容態が急変、医師の措置で事なきを得たがフロリアが間違った鎮静剤を投与したためだった。すると今度は3人の息子たちを持つ母親の容態が急変する。必死の蘇生措置も空しく母親の呼吸は止まる。納得いかない息子たちはフロリアを責め立てる。もう限界だ。泣き崩れる彼女だったが容赦なく特別室の患者が発した言葉でついに...。
自分が入院した時はコロナの真っ只中。それまでにも何度か病院のお世話になったことはありましたが「膵臓癌」、そしてステージ4と言う診断を聞かされるとさすがに絶望感と恐怖とが入り乱れてやっぱり正常な精神状態は保てなかった。「俺はもうすぐ死ぬ、だから何をしても、なにを言ってもいいんや」と患者は思うもの。運よくいい薬に巡り合い、あれからもう5年生き延びています。人は勝手な文句を言ってても助けて貰ったら感謝感謝です。こんな身勝手な人間の相手をしなければいけないし、当然「死」と向き合うことも数多い職業です。物語の最後にスイスでは2040年までに看護師が4万人、世界では1300万人が不足するとテロップが流れます。夜勤が終わりバスで帰宅の途に就く看護師フロリアのあの安堵ともやるせなさともとれる表情は看護師不足という世界が抱える問題の大きさを語っていると思います。病院の廊下を走るよりも早く歩き回る彼女の姿をカメラはただ淡々と追い続けます。一人の患者の世話が終わるごとにアルコールで手を洗い、注射器に薬剤を注入し、飲み薬を届け、血圧を測り、お茶を持って来いと言われれば運び、患者の汚れ物を取り換え、患者の愚痴を聞き、刺すような家族の視線にも耐え、それでも患者に寄り添う。昔は「ナイチンゲール」を代表とするように「白衣の天使」と呼ばれました。もうそれは今では死語やろな。そんな生優しいものではない、今ではその天使たちは疲労と苦悩と忍耐でボロボロになっています。あと15年ほどで世界中の病院が絶望的な状況に陥ります。ただでさえ高齢者が増え続けるのにそれでも大国のリーダーたちは戦争を続け負傷者をその病院へ送り続けるんですか?


