関心領域 | kazuのブログ

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非常に楽しみにしていた作品なんです。本年度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞作品「関心領域」。明るく燦燦と太陽の光が降り注ぐ中で、明るくはしゃぐ子供たち、何気ない会話が弾むご婦人たち、ゆったりとチェアに腰掛け寛ぐ夫。典型的なヨーロッパの上流階級の休日。何の変哲もない幸せそうな家庭。だが幸せそのものの彼らの邸宅の壁一つ隔てた向こうは...。

時は第二次世界大戦中、ナチス高官の邸宅。壁一つ向こうはアウシュビッツ収容所。この世界と真逆の地獄絵図が繰り広げられているであろうところなのであります。映画の冒頭、原題の〝THE ZONE OF INTEREST〟という黒に白抜きの文字が浮かび上がります。ところがその文字が時間をかけてゆっくりと消えていく。真っ黒なスクリーンで場内は真っ暗。これが1分位続くんですな。これでなんと日頃の睡眠不足からかこっくりこっくりとしてしまいます。急に燦燦と降りそそぐ日差しの中、川辺で遊ぶ家族の姿が映し出されます。けどそんなスクリーンとはうらはらにどこか耳障りな音、ごぉーっ、ごぉーっと不快な音が耳に残ります。「地獄絵図」はスクリーンに映しません。スクリーンは退屈そのもの。明るい陽射しの中で日常を過ごす家族だけが描かれています。

観てるだけで何故か睡魔に襲われる。この作品の作り手たちは一家の長たるルドルフヘスはともかくとして塀一つ向こうでおこなわれていることに家族は知ってか知らぬか、全く日常のことであるのか「関心の領域外」、全くの無関心というかユダヤ人は全くの人として対象外なのです。だから「観客たちよ、関心を持てるか?」と言われているようなのだが、眠りに落ちてしまう私は最低の無関心者なんやろうなあ。

燦燦と日差しが降り注ぐ水辺のほとり。ある家族が休日のピクニックを楽しんでいる。上流階級らしいその家族、子供たちははしゃぎ、妻たちは話に夢中になり、夫はチェアに寝そべっている。時は第二次大戦の最中、ヨーロッパの戦乱とはうらはらにここはまさに平穏そのものであった。

翌日、夫は仕事に出かける前、家族から誕生日の祝福を受けた。仕事に出かけるこの家の主はハーケンクロイツの入った軍服姿。彼の名はルドルフヘス。アウシュビッツ強制収容所の所長である。そしてヘス一家の邸宅はそのアウシュビッツ強制収容所の壁一つ隔てた隣なのである。夫は仕事へ、子供たちは学校へ、妻たちは家で自分たちが手に入れた洋服について談笑する。彼女たちが手に入れた洋服はもとはユダヤ人たちの物である。一日は普通に流れていく、そんな時の流れのなかで隣の建物からは常に耳障りな音が微かに聞こえてくる。何かを燃やすような轟音、誰かが叫ぶような声...。それでも家族は何事もないように時を過ごす。そんな一家の主に転属の話が持ち上がる。周りの者たちからは転属の再考を願う手紙が舞い込む。

「親愛なる閣下。アウシュビッツ収容所の司令官であるヘス親衛隊中佐が転属すると聞きました。同志ヘスは4年間で偉業を成し遂げました。ヘスは囚人の扱いを熟知し...彼の資質はあまりに多く、転属が理不尽なのは明白と言えます」

皆の前でこの手紙が読み上げられる。しかし軍はヘスの転属を決定。ヘスは妻に転属が決まったことを打ち明けるが彼女は怒り、一緒にはいかないと言う。平穏で幸せな今の暮らしを手放したくないのだ。しかし、日常は続く。壁一つ向こうの世界では煙が舞い上がり、銃声が、叫び声が聞こえる。ヘスは単身で転属することを決めるのだが...。

 

なんかあまりに期待していたのにがっかりと言うより半分うつらうつらとしてしまったのが残念。あまりに退屈すぎた。カメラはずっと収容所の隣の邸宅の日常を追っています。あまりに平凡、頭の中の想像で「ああ、隣は悪名高きアウシュビッツ収容所だ」と思うんだけれど視覚に入るのはただの上流階級の日常。けど聴覚は終始、耳障りな不気味なと言うか不快な音を捉えます。カメラは収容所の中を一切写さない。けどワンカットだけカメラは塀を超える。ナチ高官の表情がアップになり彼の周りを火の粉が、黒い燃えかすが舞い上がる、煙が立ち上がる、今まで微かに聞こえていた不快な音がはっきりと聞こえる。銃声、叫び声、悲鳴。それに快感を得ているのか、悲惨さに呆然としているのか何とも言えない周りを見渡すその表情。私にはこのワンカットが何よりも強く心に残りました。けど虐殺シーンは一切ありません。どんな作品にも描かれているアウシュビッツ強制収容所は下がぬかるんで、空はどんよりと曇っている情景ばかり。それが壁一つ越えれば緑の庭園に燦燦と降り注ぐ陽光。本当にそうだったん?

「関心領域」何という意味深な題名。観ている者が試されているような、問いかけられているような...。壁一つ向こうの世界に繰り広げられているであろう阿鼻叫喚の世界、地獄絵図。それでも隣に住む家族たちは何の罪悪感もなく、そして恐怖を感じることもなく日々を過ごす。考えてみれば怖いですよね、この神経。観客たちはこの家族とどう違う?観て見ぬふり?無関心?子供たちは何が行われているのか理解している?隣の世界で何が行われているのか妻は知っているはずなのにこの土地から、邸宅から動きたくないと駄々をこねる。「無関心」。それは80年経った今でも世界の至る所で行われているホロコースト、ジェノサイトを見て見ぬふりの世界に対する「怒り」をつきつけたようにも思えたんですが。けどそれに対して舟をこいでしまった私は重ね重ね不甲斐ない。