オッペンハイマー | kazuのブログ

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ガッカリやわ。今年のアカデミー賞で流行ったアジア人差別がどうのとは別にして、クリストファーノーラン監督は言いました。「日本人にこそ観てほしい」と。観ましたよ、で?何が伝わって来たかと言うと、ああ、この物語「オッペンハイマー」は共産主義者との関わりに関してに重きを置いて描かれているのだなと言うこと。ナチスドイツが降伏した後、「まだ日本がある」と強硬に原爆投下を推し進め、その結果、作った本人が、その惨状に苦悩し、被爆に関する幻影を見るところが申し訳程度に描かれているけどやはり広島も長崎も被爆の惨状はその映像に描かれていません。アメリカ人の原爆、核兵器に対する意識は薄いのだなと、何も今更「罪の意識を感じろ」と言うつもりはないけど「ああ、この程度なのね」と言う思いが強かった。この作品の中には日本人にとって「胸糞」なセリフやシーンがいくつか出てきますね。「落としてやった」「大戦の終結を早めることができた」「米兵の命を救うことができた」「京都は歴史的建造物が多いからやめとこう」「東京は空襲で破壊するものがもうないからな」。忌々しい限りですわ。「原子爆弾を作ったのはキミだが、使ったのは私だ」と言うトルーマンのあの胸を張る誇らしい態度。今更ながら気分が悪くなりました。トルーマン大統領を演じているのがゲイリーオールドマン、またこういった憎まれ役がうまい!物語は戦後、共産主義者のレッテルを張られたロバートオッペンハイマーの聴聞委員会のシーンから彼の半生を回想していくような形で展開されて行きます。最初の20分位で「核兵器の使用」に関する贖罪もなく、オッペンハイマーに対する、共産主義者であるか否かと言う嫌疑とノーラン監督お得意の抽象的な映像で延々3時間終わってしまうんやなと思いました。日本人にとってオッペンハイマーが赤かどうかなんてことはどうでもいいこと。核兵器、新型爆弾=原子爆弾を作り上げたこと、それを使用されたことに彼がどういう思いでいたのか。それを知りたいんやけどね。どうやらクリストファーノーランが描きたかったのはそれとちゃうらしい。

第二次世界大戦後、マッカーシーの「赤狩り」旋風が猛威を振るうアメリカ合衆国でJロバートオッペンハイマーは聴聞委員会にかけられていた。共産主義者との関わりを追求されていたオッペンハイマーは「マンハッタン計画」において原子爆弾の開発・製造を主導し戦争を終結させた人物としてアメリカ中から称賛された人物だった。

彼は1926年イギリスに渡りケンブリッジ大学で実験物理学を専攻していたが実験は大の苦手。主任教授のニールスボーアに奨められられドイツへ渡って理論物理学を学ぶことに。彼はそこで才能を開花させ博士号を取得した後、アメリカへ帰国。カリフォルニア大学で教鞭をふるうことになった。あるパーティで共産党員のジーンタトロックと会い恋仲になる。聡明だが奔放な彼女とは長続きはしなかった。その後、植物学者のキャサリンと出会い子供もできる。だがこの頃から彼の身辺捜査をFBIが開始し始める。

1942年「マンハッタン計画」の最高責任者である陸軍将校レズリーグローブスよりプロジェクトの参加を打診。彼はそこで極秘プロジェクトである原子爆弾の開発に加わることになる。当時ナチスドイツとの軍拡、核兵器開発競争は激化を極めていた。アメリカは全米から優秀な学者たちを招集。開発の主導的立場だったオッペンハイマーはニューメキシコのロスアラモスに研究所を設置。家族たちをそこに移住させ国家の存亡をかけたこのプロジェクトに全精力をそそいだ。

1945年ドイツ降伏。だがアメリカの戦いの矛先は日本に向けられ原子爆弾の研究は続けられた。遂に新型爆弾=原子爆弾が完成。7月の「トリニティ実験」に成功。そして遂に8月、広島、長崎に原子爆弾が投下。日本は降伏する。戦争終結の立役者としてアメリカ中から称賛を浴びるオッペンハイマーだったが投下後の惨状を知った彼は苦悩し、幻影を見るようになる。

終戦後、時代はソ連との冷戦に突入。アメリカ政府はさらなる威力をもつ水素爆弾の開発に邁進していく。オッペンハイマーは原子力委員会のアドバイザーとなるが核開発競争の加速を憂慮した彼は水素爆弾の開発に反対の立場をとる。だがそれは共産主義者との関わりが取りざたされる彼にとっては自らを追い詰めていくことになるのだつた...。

 

放射能を浴びた人や街の惨状はおろかキノコ雲さえ映像はない。アメリカ人は自分たちのやったことを現実として直視することを避けたと感じましたね。広島の原爆資料館に行きゃあこの地獄絵図は嫌と言うほど見れます。現にこのインバウンドのご時世、アメリカ人の方で足を運んで衝撃を受けている方々も多数います。その昔、革命家としてその名を轟かせたチェゲバラが日本に来日した時のエピソードを目にしたことがあります。来日した時、何はともあれ「広島へ行きたい」と言ったそう。原爆資料館でその惨状を目にし「ここまでされて、日本はなぜ怒らないんだ!」と憤ったといいます。科学の発展と大量殺戮兵器。まさに諸刃の剣です。東京大空襲も原爆投下も非武装、無抵抗の民間人を大量虐殺することにおいては明らかな国際法違反。日本人としてはここんところをもっと描いてほしかったですな。たらたらと3時間も一人の科学者の人生観や人間性、主義主張を無駄に描くならね。最初の方の一幕で実験室に置いてあるリンゴに毒薬を注入したものの、慌ててそのリンゴを恩師の手から奪い取るシーンがあります。これはオッペンハイマーと言う人物の精神的な危うさを描いたシーンだと思います。

演じているのがやはりやや病的な感じのするキリアンマーフィ。この役でオスカーをとったのは記憶に新しいところ。だがこの作品に出演している顔ぶれが凄い。妻を演じたエミリーブラントの他、「マンハッタン計画」の責任者、陸軍将校レズリーグローブスにマットデイモン、最終的に戦後、水爆実験を巡ってオッペンハイマーと対立することになる原子力委員会の委員長ルイスストローズにロバートダウニーJr、オッペンハイマーの恩師にケネスブラナー、その他にもレミマレック、ジョシュハートネット、ケイシーアフレックと綺羅星の如く名優が顔を揃えています。クリストファーノーランの情熱に惹かれて集まった面々は顔ぶれが凄い。けど日本人には、少なくとも自分には心が揺り動かされるものがなかったですね。ロバートダウニーJrに関してはオスカー初受賞したあの態度(プレゼンターのアジア人俳優キーホイクァンを無視したって言うアレ...)そのままの役なんやなって。ああ、この国はやっぱり横柄な国、それでもしゃあなしにつき合っていかなあかんのやね。延々3時間言い訳にもならんようなこと並べたてられた感じです。まあどっかの国みたいに80年近くもたって今更誤ってくれなんて言わんけどね。けど、水爆実験で生まれた「ゴジラ」が同じ年の舞台に立ったと言うのは洒落と言うか皮肉と言うか運命と言うか...なんか...ねぇ。この場で何度も言うようですが日本は世界で唯一の被爆国です!