PERFECT DAYS   | kazuのブログ

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サラリーマン社長のムービートラベル

かなりの映画を観てきたけどヴィムベンダース監督の作品ってまだ観てません。彼の代表作である「パリ、テキサス」や「ベルリン・天使の詩」でさえも。あれだけ評価の高い作品やのに。機会がなかったと言うか相性が悪かったたというか。そんなベンダース監督が日本を舞台に撮った作品がこれ。「PERFECT DAYS」。ただ単に公園のトイレ掃除の仕事をしている初老の男性。彼の日常をほんまにただ淡々と描いているんですよ。ただそんな日常にもほんの小さなさざ波のような波紋が起こるわけです。聞けばこの人、小津安二郎監督を師事しているらしいですね。まあ小津安二郎って言ったって我々の世代でもなかなか知っている人がいない。「小津組」と言われる作品の中でしょっちゅう出ていた役者さんが笠智衆さん(りゅうちしゅうと読みます)。と言っても若い人は知らんやろね。「寅さん」に出てくる「御前様」って言った方がわかるかな。この人名優なんですよ。話は横にそれましたがなんせ「ほのぼの」とした日常を描く人。そんな日本人監督を師事していたと言うのは嬉しいですよね。この作品にもそれが反映されてます。役所広司が演じるこの清掃人の男、平山の日常をカメラは追います。日が昇る前から起きて公園のトイレ掃除に出かける。丹精込めて一生懸命トイレを磨く、そんな姿を淡々と描くんですよ。映画を観終わった後、ふと気づくんです。これって昭和の高度経済成長期に日本を支えた日本人の姿やないかってね。昭和の時代のような古いアパートに住み必死になって働く。手を抜かずに。夕方になると居酒屋へ行って一杯飲み、本を読みながら寝る。日本人が昭和の時代に忘れてきたものをこの令和の時代にこのドイツ人の監督がわざわざ昭和へ出向いてとって来てくれたような作品です。

渋谷の公園のトイレ掃除をしている平山はまだ夜が明けきらない時間、外で近所の年寄りがほうきを掃く音で目が覚める。押上の古いアパートを出てワゴン車を走らせ、スカイツリーを横目に渋谷へ。公衆トイレを一軒、一軒、丁寧に心を込めて便器を磨く。いつもの人波、子供の声、そしてなぜか気になるホームレス。同じ地区を担当している同僚のタカシは今どきの若者。仕事はいい加減だし、好きな女の子の尻ばかり追いかけて挙句の果てに金の無心。腹は立つけどどこか憎めない。仕方なしに金を貸してやる。昼はいつもの公園でベンチに腰掛け、木々の間からこぼれる木漏れ日を眺めながらパンと牛乳で昼食を取る。気に入ったアングルがあれば手持ちの小型カメラで写真を撮る。公園に気に入った草木があれば根元からそっと掘り起こし持ち帰って育てる。ささやかな趣味だ。午後からの清掃が終わると家へ帰ってから、今度は自転車で風呂屋へ。風呂屋の帰りに地下街の居酒屋で野球や相撲を観ながら一杯やる。家に帰って横になる。本を読みながらまどろみの中眠りに落ちる。そして、ほうきの音...。

たまの休みの日は作業着の洗濯にコインランドリーへ。写真屋で公園でとった写真の現像。古本屋で女性店員の書評を聞きながら本の購入。夜になったらお気に入りのママのいるスナックで手料理を頂きながら一杯やる。

そんな何の変哲もない毎日を過ごす平山だったがある日、家に帰ると、姪のニコが訪ねて来ていた。久しぶりに会った彼女を家に泊めてやるがそれをきっかけに平山の日常がほんの少し揺れ動く。

 

最初、役所広司のセリフが殆んどありません。「寡黙な男」とはまさに彼のこと。無駄口は叩かない。ただひたすらにトイレを便器を磨く。まさに昭和の人。まだ暗いうちから起きて車を走らせると下町にそぐわないスカイツリー、渋谷へ行けば令和真っ只中の若者たち、不潔なイメージのトイレであるはずのこのモダンな作り。すべて日本なんですよ。下町を見下ろすようなスカイツリーも綺麗なトイレもすべて日本が作り出したもの。その原点には昭和の男たちが懸命に働いた痕跡が残っているわけです。それは令和になった今も脈々と続いているんです。平山は正直、時代に取り残された人間です。妹は運転手付きの車に乗ってるような人間、その娘は親に歯向かって叔父である平山を何故か慕う。今の時代、日本人はそぐわない生き方をしてるのでしょうか?平山は妹や年老いた父親と何かがあって疎遠になっている模様。彼になにがあったのか?もとは違う仕事をしていたのか?もともとこの仕事を選んだのか?父親と何があったのか?姪を迎えに来た妹を抱きしめ(このへんは日本人がしない行動。少々違和感なんやけどやっぱり西洋の国の監督やからかな。それでもなんかこのシーンは印象的)、妹と姪が去った後泣き崩れる。この平凡な日常を描いた作品で唯一、気分が高揚するようなシーンです。平山になにがあったのか知りたいですね。彼のバックグラウンドをどのように思い描いていたのかベンダース監督に聞いてみたい。

この作品、本年度のアカデミー賞国際映画賞(昔の外国語映画賞)の候補に挙がっています。すでに役所広司はカンヌ映画祭で最優秀男優賞を獲得しています。現在はイギリス映画でありながらドイツ語作品である「関心領域」と言う作品が優勢だそう。なんでもアウシュビッツ強制収容所の隣に居を構えたナチ高官の家族を描いたものらしい。この作品も面白そう。けど「PERFECT DAYS」にはぜひとってほしいですね。受賞すれば「ドライブ・マイ・カー」以来2年ぶり。

本作といい、「ドライブ・マイ・カー」といい、そして「おくりびと」もそう。黙々と仕事をする日本人が海外では好まれるよう。私は「ゴジラー1.0」が日本代表と思ったんやけど。

なにはともあれドイツ人監督が日本人の日常を大げさな脚色もなく淡々と描いてくれたのがうれしい。某ハリウッドの監督の様に「ええ、これって日本?」と言うようなシーンもなかった。淡々とただ淡々と日本の下町を、その下町で生きていく日本人を描いてくれてます。