サンセバスチャンヘ、ようこそ | kazuのブログ

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サラリーマン社長のムービートラベル

監督ウッディアレン、御年88歳だそうです。数々の功績を映画界へ残した方。そしていわゆるニューヨーク派って言う立ち位置で監督、制作、そして俳優さんです。今回の作品は「サンセバスチャンへ、ようこそ」。「ニユーヨーク派」と呼ばれる彼ですが近年では、自分が大好きな「ミッドナイト・イン・パリ」の他、「恋のロンドン協奏曲」「ローマでアモーレ」などニューヨークを飛び出して、ヨーロッパに舞台を求めています。しかしニューヨークってところはどこかヨーロッパの匂いがします。関係あるんかな?

で今回の作品なんですが、倦怠期を迎えた熟年夫婦が仕事でスペインのサンセバスチャンへでかけて、まあ2枚目の男が現れて妻は...と言うような内容。なんですが観終わった後の感想を一般観客たちに求めてみたら...。ネットの感想を見てみると「退屈」「途中で出た」「半分寝てた」「老いたりウッディアレン!」とまあさんざんな一言が載ってました。でもそれはそうやろ。その気持ちはよくわかります。日頃映画を観ない方々が観るとそうなると思いますよ。かなりのマニアでないと。自分は絶賛するほどではないにしろよかったですよ。物語の主人公は一応、小説家なんやけど昔は映画に関してニューヨークの大学で教鞭をとっていました。彼が好きなのは、フェリーニ、ルルーシュ、ベルイマン、トリュフォー。いわば芸術家肌の監督ばかり。こんな名前が出てくるだけで自分なんかのマニアは十分満足なんです。そしてこの主人公はウッディアレンそのものなんですわ。

かつてはニューヨークの大学で映画の教鞭をとっていた熟年男性モートリフキン。今は小説家に転身したものの全く売れない。彼は映画の広報担当である妻のスーの仕事に同行しスペインのサンセバスチャン映画祭へやって来た。彼の愛する作品はフェリーニ、ルルーシュ、ベルイマン、ゴダール、トリュフォー。ヨーロッパの格調高い作品を愛するモートであったが昨今の作品はすっかり変わってしまっていた。スーとの間もなんとなくぎくしゃくし、少々憂鬱な気分でここサンセバスチャンへやって来たのだが彼の気分を害することがもう一つ。映画祭で多くのプレスに囲まれ人気の的となっているのが新進気鋭の映画監督フィリップ。二枚目で注目の的となっているフィリップを担当しているのがスーなのである。夫のことはそっちのけで昼間は常にフィリップと行動を共にするスーを見て、浮気をしているんじゃないかと勘繰ってしまう。芸術性とは真逆に反戦映画を作りだす彼の作品をモートは全く買っていない。そんなフィリップの作品がマスコミに持てはやされるものだから益々モートは面白くない。

そんなストレスからかこの地へ来てからモートは奇妙な夢や幻想を見るようになる。それはまるで彼が愛したモノクロの映画の一場面のよう。それからというもの体の調子が思わしくない彼はサンセバスチャンへ来ている友人のプロデューサーから診療所を紹介してもらった。診療所で出会ったのは美人の女医ジョー。一目で年甲斐もなく心がときめいてしまったモートは体調に異常なしとの診断を貰ったのに、それから何かとかこつけて診療所を訪れるようになった。生憎ジョーは既婚者であったがモートは彼女の抱える問題を知ることになる。ジョーの夫は芸術家で自堕落な生活を送る浮気性な男。そんな彼女をモートはドライブに誘い出す。すっかり意気投合した二人はサンセバスチャンの名所を回り充実した一日を過ごすのだが...。

 

映画の好きな人間は長い人生の中ほんとにどっぷりつかってしまう時期があります。好きで好きでたまらない時期。その時が人生の一番の充実期だと思える時。主人公モートリフキンにとってそれが50年代、60年代のフェリーニやルルーシュ、ベルイマン、ゴダール、トリュフォーといったヨーロッパの名称たちが跋扈してた時代なんやろうね。まさに映画は芸術だって言うような時代。一時期流行したヌーヴェルヴァーグ(新しい波)の時代とでもいうんかな。自分の場合はやっぱり70年代後半から80年代。それはアメリカが必死でベトナムの悪夢から抜け出し新たなるヒーローが生まれた時代。それはかつてのジョンウェインやゲーリークーパーのような正統派のヒーローから「ダーティーハリー」や「ランボー」のようなアウトロー的なヒーロー、傷を背負ったまさに「汚れた英雄」の時代かな。そう言えばこの作品にも出てきます。新進気鋭の映画監督フィリップがジョンフォードやハワードホークスと言ったまさに英雄を創り出したハリウッドの骨太監督らを師事していると言ったところでモートが激怒するシーン。ヨーロッパのヌーヴェルバーグの監督らとは真逆なんですよね。フォードやホークスはまさに映画は娯楽。「観ている者を楽しませるぞっ!」と意気込む監督さんたち。別に悪くはないんですよ。自分はどっちかって言うとこっちの方が好き。けどウッディアレンの作品の質を観ると真逆ですよね。ヌーヴェルヴァーグの旗手たちを師事しているって言うのがよくわかります。

だからその辺を観ているだけでも自分は無茶苦茶、興味深くて面白いんやけどね。今の若い映画ファンにフェデリコフェリーニって?ジャンリュックゴダールって?フランソワトリュフォーって?なんて言ったって知らん人多いでしょ。そんな名前並べられたって退屈でしょ。うちのスタッフの大学生の息子はウッディアレンだって知らんていうとったもん。ウッディアレンが年とってからヨーロッパへ飛び出しているのはそんな先人たちへのオマージュなんやろね。けど彼の場合はそこにユーモア、コメディといったスパイスが加味されてます。だから独特。

一時、彼が50代から60代くらいの頃かなしょっちゅうアカデミー賞にノミネートされた時期がありました。けど彼はいつもハリウッドには来ません。授賞式には出ません。その頃何してんのかって言うとニューヨークの自宅でヴァイオリンを弾いてるそうです。一芸に秀でた方はやっぱり「変人」です。けどそんな「ハリウッド」がなんぼのもんじゃ言って精神が彼の「ニューヨーク派」って呼ばれる所以なんやろね。