待ってましたね。こういう作品。コミックヒーローはどっちかと言うとおなか一杯。製作が女優のリースウィザースプーン。アカデミー賞もとりましたね。動物学者ディーリアオーエンスって言う、女性動物学者の書いた初のフィクション作品に惚れ込み自分の制作会社で映画化権を獲得したそう。監督さんもこれまた女性監督オリヴィアニューマン。そして出演している役者さんたちは主演の少女を演じた女優さんをはじめ日本じゃ名前が知られていない人ばっかし。唯一デヴィットストラザーンて言うかなりな映画ファンでないと知らない名バイプレイヤーが少女を必死で救おうとする老弁護士役で出てますが、まあなんかとにかく新鮮な作品「ザリガニの鳴くところ」。ノーカカロライナ州の田舎町で起こった一つの殺人事件。容疑者として一人の少女が上がります。アメリカ南部の田舎町。まあ閉鎖的なところですよね。小さな田舎町じゃ人の噂も絶えない。そんなところで親に捨てられ一人生きてきた少女のここまでの人生がオーバーラップすると同時に事件の真相にこの物語は進みます。さあ事件の真相は、結末は...
ノースカロライナ州の湿地帯の田舎町で一人の青年の死体が発見される。被害者はチェイスアンドルーズと言う町の富裕層の息子。現場は湿地帯の鉄筋の櫓下。櫓の上から突き落とされた可能性がある。容疑者として逮捕されたのは町の人々から「湿地帯の少女」と呼ばれ湿地帯の森深い小屋で一人で暮らしている少女。町の人々からは気味悪がられ嫌われていた。そんな彼女に一人の老弁護士が手を差し伸べるが心を開こうとしない。
その少女カイヤの人生は悲惨そのものだった。この湿地帯の森小屋で生まれ、両親と姉たちそして兄と暮らしていたが父親はろくでなしだった。妻や子供たちにすぐ暴力をふるう、それが日常茶飯事だった。とうとう妻は耐え切れず子供たちを残して家を出てしまう。続いて姉たち、そして唯一心の支えだった兄までもが家を去る。兄は去り際「お前も早くこんなところは出ろ、危ないと思ったら母さんの言っていた『ザリガニの鳴くところ』まで逃げるんだ」そう言い残した。父親と二人の生活が始まった。着るものもろくに与えられず、父親は相変わらず飲んだくれていた。そんな彼女にやさしく接してくれたのは湿地帯で雑貨屋を営む黒人夫婦だけだった。そんなある日、去った母から手紙が届く。父はそれを読むと母が帰ってこないことを知り荒れに荒れた。母の物をすべて燃やした後、カイヤを残したまま去っていく。カイヤは幼くして一人で生きていかねばならなかった。だが彼女は湿地帯の大自然から生きていく術を学ぶ。川で取れるムール貝を雑貨屋にもっていくと雑貨屋夫婦は高値で買ってくれた。学校には行けなかったが自然がすべてを教えてくれる。カイヤが成長し少女から大人の女性に成ろうとしている頃、テイトと言う漁師の息子が彼女に声をかけてきた。最初は怖がったカイヤだったがテイトは優しく同じように湿地帯の自然を愛していた。字も教えてくれた。初めて人と接することを知り幸せを感じた彼女だったが、その幸せは長く続かなかった。テイトは大学へ行くためこの街を去る。寂しさに耐えるように彼女が書いた湿地帯に生息する生物たちのスケッチが本になり彼女の生活も少し裕福になりかけた。しかし必ず帰ると言い残して去ったテイトだったが約束した日になっても彼は帰ってこなかった。そんなカイヤの心の隙間に入ってきたのが運命の男、チェイスだったのである。
裁判の焦点は犯行時刻に彼女が次回作の本の打ち合わせに隣町のグリーンヴィルへ行っていたことに絞られた。犯行時刻に一旦、地元へ帰り早朝のバスでグリーンヴィルへ帰ってこれたのかどうか。彼女の元へ帰ってきたテイト、そして兄、雑貨屋夫婦。わずかながら彼女の無罪を信じる人たちの見守る中、判決が下される。
アメリカ南部の閉鎖的な町。住民の意にそぐわない者は嫌われます。時代設定は1969年。アメリカの公民権運動の末期になるのかなぁ?まだまだ差別が根強く残っている時代ですよねぇ。「アメリカ」にそぐわないものはすべて排除される「アメリカ」のいやーな部分が描かれてます。それだけに一人強く、必死で生きていく姿に観ているものはついに応援したくなってしまうのですが。これは作り上げた人々が女性であるように女性映画です。観る者は皆カイヤに心寄せます。だから最後の判決のシーンなんかはこころの中で手を合わせたりする人もいるはずです。観客も彼女の無罪を幸せを願います。チェイス?死んで当然。なんて思ったりする方も.....
しかし彼女が唯一愛したテイトさえも彼女の心の闇はついぞや知ることはありませんでした。日本語で「墓場へもっていく」という言葉がありますがその通りです。これから観ようと楽しみにしている方がいらっしゃるといけませんのでこの辺にしますが、「なんかええ映画が観たいわぁ」と思っている人は是非観て頂きたい。女性映画だとは思いますが是非男性にも。奥さんの、彼女の、心の闇が分かるかもしれません。ひとりもんの私が言うのもなんですが。とにかく「超一級のサスペンス」それだけでは語りつくせない作品です。