チャドウィッグボーズマンの訃報は2年前、そうコロナ禍の真っ只中、2020年8月28日でした。黒人メジャーリーガーの先駆者、かのジャッキーロビンソンを描いた「42~世界を変えた男」で主役の座を射止め、本シリーズの第一作「ブラックパンサー」で黒人スターの仲間入りを果たした彼は43歳と言う若さでこの世を去ってしまいました。この「ブラックパンサー」シリーズはまだまだ続いただろうに...。40歳にしてようやく掴んだトップスターの地位なのに、これからという時にさぞ無念だと思います。そして彼の遺志を受け継ぐように生まれたシリーズ第2弾「ブラックパンサー/ワカンダフォーエバー」が公開されました。物語は実際の出来事と同様にボーズマンが扮していたワカンダの国王にしてワカンダの守護神ブラックパンサーであるティチャラが天才科学者である妹シュリの努力も実らず世を去ると言うショッキングなシーンから始まります。国王亡きあと国を必死に守るのは母親、妹、恋人、そして勇猛果敢な女性親衛隊長といわば国の主軸は女性ばかりになっていきます。主役不在のコミックヒーロー作品。果たして...。
「国王ティチャラ死す」
この訃報は世界中を駆け巡った。国王の死後、国が喪に服しているにもかかわらず、世界中の大国がワカンダの生命線である鉱物ヴィブラニウムを狙って暗躍する。だが国王の死後、国主の座に就いた母親ラモンダ女王の見事な統率力によりなんとかヴィブラニウム流出だけは防がれていた。女王の奮闘をよそにティチャラの妹である王女シュリは愛する兄を救えなかった自責の念に駆られ研究ラボに閉じこもったままでいた。
そんな中、ワカンダ国内にしかないと思われていたヴィブラニウムを大西洋の海底でアメリカの研究チームが発見する。だが彼らを乗せたアメリカ艦隊が何者かに襲われ全滅する。容疑の眼差しは当然ワカンダ王国に向けられた。窮地に立たされた女王ラモンダと王女シュリの前に突然、一人の男が現れる。男の名は海の王国タロカンの支配者ネイモア。アメリカの研究チームを襲ったのは彼らで、その存在を知られず海底に眠るヴィブラニウムを平和利用し穏やかに暮らしていたのに対し、アメリカの探索により海底の民の生活が脅かされたという。彼らは地上へ出て世界を相手に戦う、ワカンダにも手を貸せと言う。当然の如くラモンダは撥ねつけた。ネイモアはそれならばワカンダはタロカンを敵に回すことになる、手始めにアメリカでヴィブラニウム探知機を開発した研究者を殺すと言い残し姿を消す。シュリと親衛隊長のオコエは急遽アメリカへ飛び、唯一のワカンダの理解者、CIA捜査官のエヴァレットロスに協力を仰ぐ。ヴィブラニウム探知機の開発者はなんとMITの女子大生リリウィリアムズだった。しかも、趣味の合間に偶然にもできてしまったのだという。シュリとオコエが保護に向かった時アメリカの捜査機関と遭遇、カーチェイスの真っ最中にタロカンの戦闘隊が現れ、シュリとリリが拉致されてしまう。
女王はかつてワカンダの情報機関の優秀なエージェントであり国王ティチャラの恋人であったナキアにシュリの救出を依頼する。一方、拉致されたシュリとリリは海の民タロカン人が暮らす大西洋の深海へ連れていかれたがシュリはそこでタロカンの歴史を知る。支配者ネイモアの出生の秘密、タロカンたちが地上世界の人々により虐げられ海底深くに暮らしを求めたとき、そこに眠っていたヴィブラニウムに出会い圧倒的な戦力を持っていることも...。シュリにタロカンたちへの同情心が芽生えかけた時、女王の命を受けたナキアが現れ、見事二人を救出。二人をワカンダへ連れ帰った。母ラモンダとの感激の再開もつかの間、激怒したネイモアがタロカンの軍隊を引き連れついにワカンダへ攻め入ってきた!
この作品、男がほんまあかんのよね、ワカンダを守る主軸は女性ばかり、ヒーロー不在のコミックヒーロー作品です。この作品自体は亡きボーズマンのレクイエムとしてなかなか面白くよくできてるなあと思いましたが、さあこれを続けるのか、妹シュリがブラックパンサーとして守護神となり世界のヒーローとして躍動するのかと言うことなんですが、うーん彼女をヒーロー、ヒロインとしてこのシリーズの主軸とするにはあまりに線が細い気が...
未開の地、第三国として世界から見られていたアフリカ大陸の小国が実は国の唯一の資源であるヴィブラニウムと言う世界最高峰のエネルギーにより世界最先端の技術を持ち、国の守護神であるブラックパンサーにより世界のどの大国にも負けない国力を誇るというこの設定に果たしてこの少女が背負えるのかと言うとなんかこれから以降の物語、線が細いという気がするんですがいかがでしょう。
それにしても近年のハリウッドの「映画の資源」(要するにネタ)の乏しさは何とも寂しい気がします。これを衰退と言うのか、一時の過渡期とみるのか、コロナ禍のせいだとみるのか、日本の配給会社の目が節穴なのかはわかりませんがなんか乏しい気がします。「こりゃ面白そう」と目を引くのがアメコミヒーローもんばっかりと言うのはいかがなもんでしょうね。そりゃハリウッドの物量、綺羅星の如く連なるビッグスターたちの数をみればそりゃあ勝る国はありませんが韓国映画はもう日本を飛び越え熱量はハリウッドをも凌ぎます。ハリウッドにはもっと頑張ってほしい。いい映画人がそろっとらんのかな?
かつて私が二十歳そこそこのころ、フィルムメーカーの大御所たちに「カメラをおもちゃにした髭ズラの若造たち」と揶揄された彼らはもう70を超え、今度は彼らが大御所になってしまいました。「髭ズラの若造たち」とはスピルバークであり、コッポラであり、ルーカス達であります。次々と面白い映画を作り出しましたよ。まさに80年代、90年代を支えたのは彼らです。今、そんな名前出てきますか?今の彼らに揶揄してもらえるような名前出てきますか? 映画は脚本です。脚本を書くにはネタです。イマジネーションです。あの小さな朝鮮半島であれだけの脚本が書けるんやから安易にコミック雑誌に走ってしまう今のハリウッドってどうなんでしょう...。