たまに何の気なしに観た映画が心を揺さぶられることがあります。この作品もその類です。「プアン/友だちと呼ばせて」。
プアンとはタイ語で「ともだち」です。この作品は珍しいタイ映画。けどなんかしらんけど今、タイのテレビドラマが女子の間でブームらしい。俗にいうボーイズラブね。わたしは観ませんが二枚目同士が愛し合うというのが女性にはものすごく受けるらしい。男性しかも還暦を迎えた私には全くわかりません。今はこういうことを言ってしまうと非難の嵐は半端じゃありませんからね。でもこの物語は友情と恋愛の三角関係が最後に展開される物語。不治の病を抱え余命いくばくもない青年。彼は人生の最後に喧嘩別れしてしまった親友にある頼みごとをします。だけどそれは彼が親友に対して抱えてしまった贖罪のための言い訳に過ぎなかったのではないか?これは観た人によってそれぞれ意見が分かれるんとちゃうかな?主人公は二人。不治の病で余命いくばくもない青年と何とか彼を助けたい青年。友情と呼ぶにはあまりに哀れで切なく、そして惨く、どうにもならない人間の感情、エゴ、そして罪の意識にさいなまれる日々、その果ての怒り、どうしようもない悲しみ。もし自分の投稿でこの作品を観ようと思った人に聞きたいですね。「二人のことどう思う?」って。
タイ人のボスはニューヨークでオーナー兼バーテンダーとしてバーを営んでいる。彼は二枚目だがバーにやってくる女性客にすぐに手を出すプレイボーイと言うより女性にだらしない青年である。そんな彼に生まれ故郷タイからかつて親友でありながらあることがきっかけで数年前に喧嘩別れしてしまったウードから電話がかかる。ウードは癌に侵され余命幾ばくもないと言う。
「最後の頼みをきいてくれないか?とにかくバンコクへ帰って来てくれ。」
ポスは矢も楯もたまらずバンコクへ帰った。ウードの頼み事とはニューヨークにいた時、付き合っていたアリスに思い出の品を届けに行きたいから運転手をしてほしい、とのことだった。ウードの亡き父親の形見、古ぼけたBMWに乗り込む二人。車内はラジオのDJだったウードの父の在りし日のテープが流れる。車はアリスがダンス教室をするコラートへ向った。実は二人が喧嘩別れをする原因となったのはアリスだった。実家が資産家のボスはニューヨークの豪勢なマンションで暮らしていた。ウードはルームメイトとしてボスのマンションに転がり込んでいたがニューヨークでダンスの勉強に来ていた恋人のアリスがどうしても生まれ故郷のタイでダンス教室を開きたいと言い、ボスが引き留めるのを聞かず一緒にタイへ帰ってしまったのだ。ボスはウードと二人でバーを開くという約束をしていた。当然気が乗らなかったがウードの「最後の頼み」とあって運転手を引き受けたのだ。頑なに「会いたくない」と拒むアリスであったがボスの説得で二人は再会する。過ぎし日を懐かしみ、自然と手を取り合い踊る二人を見てボスは安堵する。これで役目が終わったと思ったボスにウードが告げる。
「次はヌーナーだ」
「おい、かつての元カノみんなに思い出の品を返して回るのか?」
憤慨するボスであったがすべて終わったら化学療法を受けるという条件をもとにボスは運転手を続けることを引き受ける。
女優のヌーナーとは彼女がニューヨークへ演技の勉強に来ていた時に知り合った。女優になるという夢をウードが諦めろといったことから破局となったのである。サムットソンクラムで撮影の真っ最中にやってきた二人は、演技がうまくいかず塞ぎこんでいる彼女にようやく出会えたが当然ヌーナーの怒りは収まらない。ウードは彼女が撮影中にそっと「思い出の品」を置いてその場を後にする。
チェンマイにいるルンとは彼女がニューヨークでカメラマンの卵だった時に知り合った。一緒にタイに帰ろうと言われて断ったのはウードの方だった。前もって電話で約束を取りつけていたのだが家の前に着いたとき電話をするとシンガポールへ行ったとのことだった。裏庭に回って家の中を覗き込んだボスは電話を取る彼女の姿を見て愕然とする。だがウードはカーテンの隙間から手を振る彼女の一人娘を見るだけで満足そうだった。玄関先に「思い出の品」を置いて二人はチェンマイを後にする。
傷心のウードを思ってボスは自分の実家があるパタヤへ誘う。ボスの「姉」は後妻として資産家の元に嫁いでいた。彼の「実家」はパタヤの高級リゾートホテルのオーナーだった。だがウードの本当の目的はここにあったのだ。4人目の女性、プリムはボスのかつての恋人だった...。
ラストはちょいドロドロしてて、でも誰でもやってしまいそうな...あらすじはだいぶ残ってるんですがこのブログをご覧になっている数少ない方々のために書かずに置きます。ぜひ見てほしい作品です。キーワードは「思い出の品」です。彼は最後に「とんでもない」「思い出の品」を置いていきます。「トップガン」も「ジュラシックワールド」も皆さん、あれだけの宣伝と超有名なスタッフ、キャストでシリーズものですからお話しするまでもなく映画好きの方はご覧なると思います。殆んど宣伝もされない、知られていない、隠れた名作こそ自分は発信したいと思います。
「恋する惑星」「ブエノスアイレス」「天使の涙」など映画ファンなら一度は耳にしたことのある作品を手掛けた香港の敏腕監督ウォンカーウァイが制作に回り、彼がその腕にほれ込んだというバズブーンビリアと言うタイの監督さんがメガホンをとったこの作品は昔懐かしのノスタルジックな気分に浸れるシーンをところどころに散りばめています。例えばタイの安アパートのベランダで恋人同士がキスするシーン、人に見られないように洗濯物で隠すなんて純粋さを粋に表現しています。なんかいい!自らの裏切りを告白し、傷つけたことに対する後悔の念。当然、自らに怒りの矛先が向く。でも許されることなんてないと思っていても「友よ...」「友よ...」と連呼する。恥ずかしいはずなのに友であることは認めてほしい。その切なる願いがなんとも胸を締め付けられます。死が間近に迫っている友に対するやり場のない怒り、溢れ出る感情。見事に描かれ0ていると思います。ウードは下層階級の出身、なんとか金をためてニューヨークへやって来た。ボスの豪勢なマンションで一緒に暮らし、彼は親友だと思いながらも心のどこか奥底で、金持ちでいわゆるボンボン育ちのボスに対して妬み、嫉妬を持っているんですね。だけどボスはボスで姉(本当は母親)を資産家の家族にとられ、居場所がなくニューヨークへやって来たわけです。亡くなった父がDJをやっていた時の録音がテープに吹き込まれています。そのテープになぞらえてテープのSide-Aに吹き込まれた物語がウード、そしてその裏面Side-Bに実はボスの物語が吹き込まれているという、これまた何ともおしゃれな演出。うーんもうこれ以上は語りたくても語れません(もうほとんど言うてもうたがな)。ハリウッドのヒットメーカー達に勝るとも劣らない手腕だと思います。ハリウッドの豪勢なディナーばかりで食傷気味の向きにはぜひともお勧めしたい作品です。