おお-っ!!あの名作「ウエストサイド物語」をスピルバークが監督?これは映画界にとっては大ニュースですよね。映画ファンとしてはワクワクな人も多かったと思います。しかし正直、わたしはして貰いたくなかったな。「ウエストサイド物語」は1961年度公開の伝説的作品です。翌年のアカデミー賞受賞作品です。ネットでこの年のノミネート作品を調べてみました。「ナバロンの要塞」「ニュールンベルグ裁判」「ハスラー」「ファニー」。いずれも映画史に残る名作です。これを押しのけての作品賞受賞。テレビ放映でも確か、どっかのリバイバル上映でも私は観た覚えがあります。若かったですからね。実際には私が生まれる前の作品です。主演のナタリーウッド、リチャードベイマーの切なさもなんやけど、やっぱり...ジョージチャキリスやねぇ。しょっぱなに颯爽と登場し、クルリとターンしてドアップ!「「なんや!このカッコよさ!」
赤いジャンバーが似合うのはやっぱし、ジェームスディーンにジョージチャキリスと相場が決まってます。そしてなんと、知る人ぞ知るこの物語の原案はあのシェイクスピア、そう「ロミオとジュリエット」なのであります。中世イタリアの古都を舞台にした名家の争いに巻き込まれる若者たち悲劇。この古典を1960年台ニューヨークの下町に舞台を置き換え、名家の争いを人種偏見で対立する二つのストリートギャングのグループに変え、やがて悲劇に巻き込まれる若い男女の姿を描いています。監督は名匠ロバートワイズ。その名作中の名作を現代の名匠スティーブンスピルバークが監督するんやけど名匠って人、自分流によく作品をこねくり回すんよね。それがちょっと気になりました。
その「ウエストサイド物語」が「ウエストサイドスーリー」としてこの2022年に蘇ります。
都市開発が進むニューヨークの下町ウエストサイド。瓦礫の連なるこの町の中で二つのグループに別れた若者たちが顔を合わせる度にに抗争を続けていた。先に移民してきたヨーロッパ白人系のグループ「ジェッツ」と遅れてこのウエストサイドに住み着いた新興移民のグループ「シャークス」である。二つのグループには警察も手を焼いていた。「ジェッツ」のリーダーはリフ、「シャークス」のリーダーはベルナルド。リフの親友トニーは元々、リフと共に「ジェッツ」のリーダーであったが傷害で警察に逮捕、少年院から出てきてからは老婦人バレンティーナが経営する雑貨屋で真面目に働き、生まれ変わろうとしていた。一方、ベルナルドにはマリアと言う美しい妹がいたがマリアは兄が常日頃、縄張り争いで白人グループと争いを繰り返すことに心を痛めていた。そんなトニーとマリアがダンスパーティーで出会い一目で恋に落ちる...。
ベルナルドがジェッツの元リーダーと妹が付き合うのを許すわけがない。ベルナルドは妹の相手に真面目なプエルトリコ系の若者チノを紹介しようとするがマリアの目にはトニーしか映らない。そんな兄妹の姿を観てベルナルドの恋人アニータは胸騒ぎを覚える。一方のトニーも再三、リフからジェッツへの復帰を促されるが真面目に生きることを誓ったトニーの意志は固い。そして何よりもマリアの存在がある。この二人の出会いがきっかけでジェッツとシャークスが「果し合い」をすることになった。リフはこっそりと町のギャングから銃を忍ばせる。
それを知ったトニーにマリアに「必ず止める」と誓い、戦いの場へ向かう。何とかリフとベルナルドに説得を試みたトニーだがリフを止めようとしたその時、ベルナルドのナイフがリフの胸に突き刺さる。逆上したトニーはそのナイフで思わずベルナルドを刺してしまう。あまりにも残酷な運命に翻弄されるトニーとマリア。だが、更なる悲劇が二人を襲う...。
典型的な古典戯曲と華やかなアメリカのミュージカル。全く相反するこのテーマが思いっきり融合したのが1961年度制作の「ウエストサイド物語」。スティーブンスピルバーグ監督が「ウエストサイドスーリー」としてリメイクしたこの作品、結論として言うと...よかったぁ~。数々のヒットメーカーとしてハリウッドに君臨することになったスピルバーグやけど、この人、ミュージカルなんて撮れるの?って思いましたがその辺は専門家が付くんやろね?よかったのがスピルバーグが「変にいじらなかったこと」。「名匠ぞ名匠を知る」、やっぱりロバートワイズ監督を、そしてこの作品をリスペクトしてたんやろね。付け足したところって61年版でアニータ役をやっていたリタモレノが90歳にして再登板し演じた雑貨屋の女店主バレンティーノ役くらいかな。あとはコピーと言ってもいいほどそっくりそのまま撮った感じ、しかしそれでもスピルバーク色がないかと言うとそんなことはない。なんでかわからんけど彼独特の迫力を感じましたね。ファーストシーンから「マンボ」「アメリカ」とかつての名曲が流れるダンスシーンは圧巻。正直言うと上映時間ほぼ3時間と言う長丁場。長くは感じませんでした。圧倒されっぱなし。そやけどやっぱりオリジナルの脚本やないんやね。映画史に残る名作は前作と言うことになってしまいます。当時、すでにトップ女優の仲間入りをしていたナタリーウッドを筆頭にリチャードベイマー、ジョージチャキリス、リタモレノと言った名前の残る面々と今回主役を演じた舞台の役者さんや殆ど無名の若手俳優たちと比べるのは勿論酷。マリア役の女優さん(レイチェルゼグー)なんて歌うまかったもん。当然の如く今回も本作はアカデミー賞にノミネートされています。
ほぼ日本では名前の知られていない若手俳優たちがどう巣立っていくのかも楽しみ。明日のナタリーウッドやジョージチャキリスがはたしてこの作品から出てくるのかどうか、スピルバーグって若い人らとワイワイやりながら楽しい作品作るの好きそうやもんね。けどラストで悲しみにくれるマリアが銃を拾い上げ「ねえ、撃ち方を教えて!どうやったら弾が出るの!みんなが憎い!」って叫ぶシーンはナタリーウッド版のマリアのセリフでもあったけど私の最も気に入っているシーン。「ロミオとジュリエット」でジュリエットがロミオが飲み干した毒の小瓶を拾い上げ「酷い人!私に一滴さえ残していない!」と嘆くシーン、そしてラストでヴェローナ公が二人の若者の骸を前に両家に向かって「キャピュレットはどこだ!モンタギューはどこだ!お前たちにも、そして予にも、天は罰を下された!」と絶叫するシーンに繋がります。
憎しみは憎しみを呼び、怒りは怒りを、そして悲しみは悲しみを呼ぶ。悲劇は人間の愚かさから誕生するもの。ウィリアムシェイクスピアは何百年も前からそれがわかってたんですなぁ...。