自分が小学生のころやったか、シェリーって外国人かハーフかのタレントがおって、彼女が主人公のドロシーを演じた日本のテレビドラマで、「オズの魔法使い」を観たのが初めてでした。ブリキの木こりに、臆病なライオン、かかしはえーっとなんやったっけ? とにかくこの三人とともに願いをかなえてくれると言う「オズの魔法使い」を探しに旅に出るという物語。なんか子供心に「桃太郎」に似た話やなと思ったのを覚えています。
この児童文学の傑作、「オズの魔法使い」で少女ドロシーを演じた元祖が本作の「ジュディ 虹のかなたに」の主人公ジュディガーランドです。「オズの魔法使い」でドロシーを演じたのが17歳。しかし彼女はこの時すでにハリウッドの大スターとなっていました。けれどもそれは彼女の人格を破壊し様々なトラウマやトラブルを招き「ハリウッドの問題児」の烙印を捺されることになってしまいます。他の同年代の少年少女たちよりも歌がうまく、踊りがうまく、輝きを放っていたためでした。この作品は晩年のジュディガーランドが描かれています。だからドロシーのあのあどけない人々を魅了する姿は描かれていません。彼女の童顔で魅力的な笑顔を期待する方は見ない方がいいでしょう。(でも彼女を知っている人ってもう、そうおられないでしようね)
描かれている彼女はまさに「ドサ回り」の芸人で、自分の子供を舞台に引きずり出し、ホテルからホテルの旅暮らし、彼女の容姿に輝きはなく、衰え果てた姿が描かれています。彼女が亡くなった47歳の時の姿が描かれていますが47歳にもみえません。
白塗りのような厚化粧、荒れた肌、演じたレネーゼルウィガーがそれを意識してたのかどうか。それでも我を張り、スターであることを誇示しようとする。薬とアルコールで舞台で倒れ、ステージに物が投げ込まれる。私には「哀れ」という表現しか思い浮かびませんでした。そんな彼女が最後のロンドンのステージでほんの一瞬、輝いた、それはろうそくの炎が消える間際に一瞬だけ勢いよく燃える、それによく似ていました。
幼い娘と息子を連れて劇場の巡業を回る一人の中年女性。ホテルからホテルを回る旅芸人のようなそのその母親はかつてハリウッドで一世を風靡したエンターテイナー、ジュディガーランド。嫌がる娘と息子を舞台に引っ張り上げ親子で踊るその姿にはかつての輝きはもうない。目一杯の見栄を張り一流ホテルに滞在するものの宿泊代が滞ってしまい、ついに三人はホテルを放り出されることになる。やむなく、プライドを捨て別れた夫のもとに身を寄せた彼女は、オファーを受けていたロンドンの興行主の依頼を受け、愛する娘と息子を別れた夫に預けロンドン公演の舞台に立つ。しかし睡眠薬とアルコールで身も心もボロになっているジュディ。彼女の少女時代がオーバーラップする...
17歳にして「オズの魔法使い」で名を馳せハリウッドのトップスターになったジュディガーランド。しかし少女が一番楽しいはずの青春時代は過酷なものだった。MGMの社長ルイスメイヤーの言葉巧みな誘導によりすべてを制御され、他の少女たちとは異なる生活を送る。過度なダイエット、薬物接種、彼女が出演する作品は次々とヒットを飛ばすものの私生活は荒れ、だんだんとトラブルメーカーのレッテルを張られるようになる。
彼女の身の回りの世話をすることになったロザリンや興行主はそんな彼女に不安を覚えるのだが...しかし一旦ステージに立つ彼女はまさに最高のエンターティナーだった。歌声は観客を魅了し、ステージでのパフォーマンスはなんら色あせるものではなかった。だが、彼女の肉体と精神は限界にきていた。治らない薬物接種とアルコール、度々舞台でトラブルを起こし遂にはステージで倒れ、観客からは罵声が浴びせられ、物が投げ入れられる。そしてついに契約が打ち切られる...
ジュディガーランドが死去する数か月前に行われたロンドン公演での出来事を中心に作られた、本当に彼女の最晩年の出来事を描いた作品で、ジュディガーランドを演じたレニーゼルウィガーはこれで本年度のアカデミー主演女優賞を獲得しました.それに充分に値する熱演だったと思います。ジュディガーランドの生い立ちをみるとスーパースターという名の被害者だということがよくわかります。三人姉妹の末っ子として生まれた彼女はまさに悪魔のごとき母親に幼いころよりショービジネスの世界に放り込まれます。歌や踊りがズバ抜けていた彼女は母親の売り込みにより幼くしてMGMのルイスメイヤー(このおっさん、一説によるとロリコンらしい...)に見いだされ17歳でハリウッドのトップスターに...
輝かしく切り開かれているはずの未来がまさに地獄のような苦しみを味わう結末になるとはこの頃、誰も思ってなかったでしようね。唯一、それを感じていたのはジュディガーランド本人ではなかったでしようか?これって形は違えど日本に今、蔓延している幼児、児童虐待と同じですよね。エンターテイナーという虐待です。それでも彼女はやっぱりスーパースターでした。姿形は衰えど、舞台に上がるとみているものを魅了する圧巻のパフォーマンスを見せることができる。悲しいかな、それがジュディガーランドでした。
ラスト、クビになった彼女が飛び入りでステージに立ち自分をスターダムに押し上げてくれた「オズの魔法使い」の主題歌゛Somewhere over the Rainbow(虹の彼方に)"を歌いますが涙で声が詰まって歌えない。
だけどその時、観客から~Somewhere over the Rainbow~と歌声が流れる。胸打たれるシーンです。
やっばり彼女は最高のエンターテイナーだったんですね。
ちなみに女優のライザミネリ(映画の中にも登場します)はジュディガーランドの娘であることは有名です。「キャバレー」「ニューヨークニューヨーク」など母の血を受け継いだ大女優です。そしてその「キャバレー」で1973年第45回アカデミー主演女優賞を獲得しています。そのライザミネリのスピーチも有名です。
「母が果たせなかった生涯の夢を果たすことができた。このオスカーは母のものです 」
彼女はそばで母親の苦悩を見ているんですよね。
1955年第27回アカデミー賞では主演女優賞は「スタア誕生」のジュディガーランドが大本命でした。薬物、アルコールで数々のトラブルを起こし、MGMを解雇され苦悩の末にカムバックし、たどり着いたノミネートでした。けど蓋を開けて見れば受賞したのは「喝采」のグレースケリー。いろいろな憶測が飛んだそうです。だから娘のライザミネリは感激もひとしおだったんですね。
娘が、自分自身を演じた女優が賞を取り当の本人が獲れなかった...なんとも皮肉ですよね。でもハリウッドに残るその名声と功績、その偉大さは娘ライザミネリよりも、彼女を演じたレネーゼルウィガーよりも大きいものがあります。
スーパースターとはそういうものなんですよね。