殆どの人が知らない、配給会社の「観てもらおう」と言う意欲がない、パンフレットさえ映画館に置いていない、映画の宣伝自体皆無と言う作品がたまにあります。
年間何百という映画が公開されれば致し方ないけどが、ガラガラの入りでもいい作品はある。逆に連日満員でもくだらない作品はあります。必ずしも観客動員と作品の質は一致しないと思うのですが...
いいか悪いかはさておいてこの「マイ・エンジェル」という作品は、そういった点からは派手さもないし期待もされていないのが手に取るようわかる作品です。
でも内容はというと日本でも社会問題となっている、育児放棄、ネグレクトが物語の根幹にあります。
主演はフランスとハリウッドをまたにかけるアカデミー賞女優マリオン・コティヤール。彼女がもうどうしようもないシングルマザーを演じています。子連れの結婚式の日その再婚相手と娘の目の前で会場の厨房で他の男と....とか8歳の娘をほったらかしで友達と飲み歩いたり、挙句の果てに娘を自らの遊び場に連れて行く、娘は大人たちの目を盗んで酒を飲んでいるという、もう絶望的な状況。
その絶望的な状況に輪をかけるようにこのシングルマザーが娘の前から姿を消します。でもこういう母親の子供というのはよく言えばしっかりしている。悪く言えばこまっしゃくれているというかなんというか...
母親がいない間も普通に生活している。学校は休みがちで、友達には嫌われても学校へは一応行っている。彼女の唯一の心の支えは自分と同じような境遇にあるトレ-ラ-暮らしの青年。彼女はこの青年を父親の虚像として見ているのか、それとも男として見ているのか、なんかものすごく切なくなります。だからこの母親の駄目っぷりが余計に際立ちます。
本当、これだけだと救いようのない映画なんやけど観ているものが一筋の光明を見いだせるのが彼女が娘を愛しているということ...
いなくなった娘を狂ったように探す姿はなぜか観ている者をほっとさせます。
遊びたい、子供に縛られたくない、大人になり切れない大人、母親になりながら母親になり切れない、そんな女性をマリオン・コティヤールが熱演しています。
物語の舞台は南フランス、暖かい太陽の光が降り注ぐコートダジュール。こんなリゾート地でも大都会と同じような問題を抱えてるんですね。幼い娘を抱きしめて去っていく母親の姿は一筋の光明を感じながらもどこか危うさも漂わせています。
昨今、新聞紙上を賑わせている幼児虐待その行きつく先がまだ何もわからない、喜びも悲しみさえも知らないまま、この世から抹殺される子供たち。我々はそんな報道を見るたびにそんな親に対して憤りを感じます。
そんな親から見ればこのママリオン・コティヤール演じる母親はまだましかなと安易に考えたりして...この母娘これからどうなっていくのか、期待と不安が同居するラストは決してハッピーエンドとは思えませんでした。