時短コスメ「サボリーノ」という商品がある。スタイリングライフ・ホールディングス「BCLカンパニー」のブランドだ。
商品をざっくり説明しよう。「Saborino」(サボリーノ)とは、「サボってもキレイでいられる」を実現した時短コスメブランドだ。 たった「60秒」でスキンケアを完了できる忙しい朝、夜の時短に便利なシートマスクである。
この商品の最大の特徴は、顔に60秒間貼るだけで洗顔、スキンケア、保湿下地ができることだ。メイクをするときに、煩わしい化粧前の準備にかかる時間を、一気に時短することを可能にした。まさに、「サボりたいけど、キレイになれる」をコンセプトにした商品だ。
『サボリーノ 目ざまシート』は、2014年春にBCLカンパニー内に発足した「女子開発ラボ」が初めて手がけた商品だそうだ。この「女子開発ラボ」は、部門横断型チームだ。メンバーとして、企画、営業、販売推進、広報などの各部門に所属する20代後半〜30代前半女性が集められた。
商品開発にあたってのヒントは、こうだ。
対人的な業務である営業や広報から参加しているラボ・メンバーから次のような悩み・不満の話が出てきた。
「毎日、バッチリ化粧をしてきているのだが、実は化粧が面倒臭い」
ラボの他のメンバーも同様の不満を抱えていた。メンバー間で、「毎朝の化粧が面倒臭くて嫌だ」という共通の悩みを抱えていることがわかり、盛り上がったそうだ。
この「共通の悩みの発見」をきっかけにして、ベッドで寝ながら洗顔からファンデーションまでできる時短商品ができないか、ということから、「サボリーノ」の開発にたどり着いたのだ。
この「サボリーノ」のヒットの要因は、次の3つにあるといわれている。
第1が「確実に時短を可能にしてくれること」。
サボリーノを顔に貼る時間は、たった60秒間だけだ。従来のフェイスマスクと比べてその時間は格段に短い。しかも「60秒」という具体的な数字で提示したことが、ユーザーに強くアピールした。
第2の要因が、その「高い機能性」である。
とにかく、顔に60秒間貼っているだけで、洗顔、スキンケア、保湿下地の3つを完了することができるのだ。60秒という短時間で、メイクに関して3つの重要な「仕事」を同時に完了できる。そうした「高い機能性」が、忙しい朝に効率的にメイクをしたい、メイクを含め朝の時間を時短したいという女性にアピールできたのだ。
第3が、心理的な要因である。具体的に言えば、女性が持つ「後ろめたい」ような負の感情を取っ払ってくれたことだ。
『サボリーノ』という商品名自体が、「サボる」というネガティブな表現を、ユーモアをもってポジティブに明るく言い換えている。女性同士で「サボリーノを使っているよ〜」と話しても、このネーミングから後ろめたさは感じられない。「メイクをサボる」ことは、悪いことではないんだよと、「サボリーノ」が女性の負の感情を解放してくれたのだ。
そうした「ポジティブ性」は、黄色、ブルー、ピンクなどのパッケージと相俟って、明るさを演出し、店頭で女性が気軽に手に取りやすい環境を演出することにつながった。
さて、最近ビジネスの世界で注目されている「ジョブ理論」というものがある。
この「ジョブ理論」は、「破壊的イノベーション」や「イノベーションのジレンマ」などで有名なハーバード大学ビジネススクール(経営大学院)の故クレイトン・クリステンセン教授が唱えた理論だ。
クリステンセン博士は、「ある特定のシチュエーションで顧客が成し遂げたい進歩」を「ジョブ」(JTBD: Job To Be Done)と定義した。直訳すれば、「完了したい仕事」だ。
人は、それぞれが「完了したい仕事」、つまり「ジョブ」を抱えている。その仕事を完了するために、商品やサービスを購入する、いや「雇っている」のである。
f
たとえば、東京から大阪に出張に行かなければならない「仕事」を抱えているビジネスパーソン。彼、彼女は、その仕事を完了するために、新幹線か航空機の輸送サービスを購入する、いやJR東海、ANA、JALを雇うのである。
あるいは、人は、「喉の渇きを癒す」という仕事を完了するために、コンビニに立ち寄って、ソフトドリンクを買う、いや雇うのである。
そうした顧客の仕事を完了することができる商品・サービスを提供することが、企業のミッションだと、クリステンセンは強調する。
このようなクリステンセンの「ジョブ理論」で言及される有名な「ミルクシェイクの事例」がある。
あるファストフード企業で「ミルクシェイクの売上を拡大する」という緊急の課題があった。そのファストフード店は、まず、従来の経営理論の発想にもとづき「さまざまなフレーバーを追加」した。しかし、コストがかさんだだけで売り上げは伸びなかった。
次に、ミルクシェイクのニーズを調査するためにアンケート調査を実施した。これも、従来の経営理論が教える手法だ。調査の結果、顧客が求めるものとして「安い」や「美味しい」などの要因が浮かび上がってきた。そこで、「味」「値段」「量」を指標にミルクシェイクを改良した。でも、売れ行きは改善しなかった。
そうしたなかで、「ジョブ理論」を採用し、実際に購入者の行動を観察した。来店客は「いったいどのようなジョブを抱えているのか」を追求したのだ。
その結果、次の点が明らかになった。
第1に、平日の朝の購入者は、車の中での「通勤の退屈しのぎ」と「腹持ちの良い、手が汚れない間食」として、ミルクシェイクを、買っている、つまり、雇っていた。
第2に、休日の購買層は、子どもを喜ばせる「優しい父親」と思ってもらうためにミルクシェイクを雇っていた。
つまり、ミルクシェイクの購入者は、味や値段という要素を重視していなかったのである。この調査結果をもとに、フレーバーをシンプルにして、長持ちする「どろっ」としたシェークを開発し、顧客に提供に、無事売上増に成功したのである。
このファストフード企業は、「ジョブ理論」が提唱する「顧客のジョブ」を突き止め、顧客にその仕事を完了させることができる商品を作り出すことに成功したのである。
ひるがえって、「サボリーノ」の成功の理由を「ジョブ理論」の視角から考えてみよう。
世の中の女性は、「面倒なメイクを効率的にして、朝や夜の時短をしたい」という仕事を抱えていた。
そうした女性が、メイクの準備を「サボる」ことに抵抗感なく、時間を効率化するために、「サボリーノ」を雇い、その仕事を完了することができた。
これが、まさに、「ジョブ理論」から導き出せる「サボリーノ」の成功の理由である。