
ランディ・パウシュ博士の「最後の授業」
ある日、僕の学生に訊いたところ、大部分がまだ親と一緒に暮らしていることが分かりました。驚きました。なぜなら、アメリカでは、大学が家に近くても、多くの学生は、親から独立して、大人としての自由を感じたいと思い「一人暮らし」を始めます。一方、子供に一人前になってもらうために、そうした一人暮らしがよい経験だと理解している親たちも少なくありません。共働き家庭の多いアメリカでは、小さいときから、部屋の掃除、洗濯、晩御飯の手伝いをしている子供(男の子も女の子も)は珍しくありません。アメリカには、僕のクラスの日本人学生のように、親たちが全面的に面倒を見ている若者はほとんどいないといってもいいでしょう。
僕は、現在、日本に住んでいるので、家事を自分で全てやらなくてはなりません。ときどき、面倒に思う事もあります(笑)。十分な所得があるので、身体的な負担を減らすために、毎晩、自炊する代わりに、外食にしようと思ったこともあります。でも、栄養バランスが心配になり、毎日、仕事帰りに八百屋に立ち寄り、新鮮な野菜を仕入れ自炊しています。掃除もお手伝いさんを雇おうと考えました。でも、自分でできるのでそこまでする必要はないという気持ちに加え、「倹約精神」が旺盛なので(笑)、自分でやっています。来月、2週間、米国に里帰りをするときに、その状況は一変します。ただし、そのときだけですが。母が美味しい手料理を作ってくれます。家族みんなで、いろいろな楽しい話をしながら、母の手料理を美味しく食べます。母は、毎日、私の部屋を片付けて、私の汚れた洋服を洗濯してくれます。また、必要に応じて、僕の散髪もしてくれます。「最高の幸せ」です。
振り返ると、一人暮らしをする前に、僕は、母のこの愛情に満ちた気配りを完全に認識していませんでした。認識できませんでした、と表現したほうが適切かもしれません。もちろん、一人暮らしをする前から母の気配りに感謝していました。なぜなら、高校の友達と比べると、僕の人生が楽だと分かっていたから。また、母の苦労を見て、感謝の気持ちがいっぱいになったときもありました。ただ、僕自身がその辛さを感じるまで、どんなに恵まれたかを完全に理解することはできませんでした。私の場合と同じように、今の日本の学生の状況を考えると、彼らを幸せにするために、どんなに彼らのお母さんが努力してくれているか、たぶん完全に理解することは難しいのではと思っています。
残念なことですが、それが、普通だと思います。実は、英語でも、このような状態を表現する格言があるぐらい普遍的な現象だといえます。このような場合、”You do not appreciate what you have until you lose it”と言います。日本語に意訳すれば、「失うまで、自分の持っているものの価値を認めない」となります。
でも、こうした格言に該当しない偉大な人物もいるのです。それが、亡くなった米カーネギー・メロン大学の元教授、ランディ・パウシュ(Randy Pausch)博士です。彼は大学主催の「Last Lecture」(最後の講義)の一連で、「幸せの秘訣」を説明します。日本語はどう響くか分かりませんが、英語では「亡くなる前の最後の話」という意味合いがあります。もともと、大学で、「もしも、あなたが死ぬ前に最後の講義をするとしたら」という想定で開催したそうです。その一連の題名を「Last Journey」に変えた後、パウシュ博士は膵蔵がんでなくなる前に、すべてのエネルギーを使って、彼の「最後の講義」を行いました。
そのレクチャーでは、自分の子供のとき以来、実現できた夢を語りながら、いろいろな人生の教訓を紹介してくれます。このレクチャーを紹介してくれた日本の友人は、パウシュ博士の「煉瓦の壁にぶつかる教訓」が好きだと語ってくれました。パウシュ博士によると、私たちの夢の実現を妨げるものは「壁」のようですが、それは私たちの前進を阻害するためのものではありません。反対に、我々がどれほどその夢を実現したいかを確かめる機会をくれるものです。このような壁で、夢に向かっての前進をあきらめる者は、そもそもその夢をそんなに欲しくなかったのです。
僕もこの教訓が結構気に入りました。でも特に印象的に残ったのは、パウシュ氏の考え方です。それをまとめると、幸せとは、いつか手に入るものではなく、また目標達成によって獲得するものでもありません。むしろ、人生を過ごしながら、日々の出来事、接する人間、それから夢の追求のプロセスを楽しむことこそが「幸せ」なのです。
彼の話の中では、この幸せの秘訣が特に印象的でした。でも、僕の心に一番響いたのは、彼の行動でした。膵蔵がんの生存率をいうと、診断の4年後、僅かな4%の患者しか生存しないといわれています。このがんがあんまり深刻なので、その治療法を追求する研究者が少なく、研究のための資金も少ないそうです。こうした状況を変え、効果的な治療方法の必要性を呼び掛けるべく、パウシュ博士は死の直前であるにもかかわらず、議会証言を行いました。彼のこうした行動が、将来の世代に貢献することにつながると信じて。そして、彼のこうした勇敢な行為は、ものをもらうより、他人に与えることが真の幸せなのだという強烈なメッセージを世界の人々に伝えたのでした。
きっと、私の母や僕の学生のお母さんたちも、与えることの幸せを日々感じているのだと思います。
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以下のリンクはパウシュ博士のLast Lecture(最後の講義)の画像につながります。1時間以上ですが、とても分かり易い内容です。計算したところ、Gunning Fox Index が8.20で、中学2年生の英語力に相当しています。Flesch Reading Ease 82.1なので、12-13歳以上であれば、容易に分かるはずです。多忙のなかでも、1時間の時間を費やすだけの価値のある素晴らしい講義です!
"Randy Pausch Last Lecture: Achieving Your Childhood Dreams"
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