「マレーシアの国語はマレー語だが、英語も広く通用する」というのが行く前の認識だった。フィリピンであれば法律で英語がフィリピン語と並ぶ公用語とはっきりと示されているのだが、このようにマレーシアにおける英語というのは少し分かり辛い立ち位置であったので、正直どのぐらい通用するかは実際に行くまでは分からなかったものである。
空港では当然マレー語と英語のバイリンガル表記であり、それはどこのアジアの国でもそうなのでそれはあまり参考にならない。私が現地で初めて英語で会話したのは、現金引き出しに何度も失敗した後に寄ったSIMカードのお店である。当然英語であったが、前述のように空港であれば香港でも台湾でも完璧に通用したので、特に驚きもしなかった。むしろ片言の日本語でありがとうと言われた事の方がインパクトがあった。
KLセントラルのNUセントラルにおいては、外国人も多いためか英語表記が優先的な感じであり、エスカレーターやCOVID-19における注意書きなどは英語しかなかった印象がある。フィリピンのモールなどは99%英語オンリーであったが、前述のようにこちらは公的に公用語とされているので、マレーシアの事情とは若干異なる。なので、このNUセントラルに居る時点で思ったよりも英語が使われている事を実感した。
マクドナルドやKFC、サブウェイなどのチェーンは英語中心だ。一応、店内のチラシなどはマレー語オンリーだったものだが、メニューなどはさすがに英語である。KFCで微妙な英語の店員に出会した事はあったものの、基本的にチェーン店において堪能な英語力は必要ではないので、ここではあまり参考にはならないだろう。
そして、鉄道関係においてはさすがに完全バイリンガルの世界だった。ここはもう香港の英語のように、どこにおいても必ずバイリンガル表記となっており、立ち位置としてはほぼ公用語に近いものだったと思う。駅名はマレー語なので、それは覚え辛い事この上なかったものの、それ以外に関しては前述のように公用語レベルだった。
ジャランアローで注文する時も全て英語であったが、当然簡単な英語のみとは言え、不自由する事もなかった。実に4度も通ったマッサージ店も同様である。ピンクモスクにおいてはマレー語のみであったが、スタッフは当然英語であったし、結論としてはKLやペナン島において英語で不自由する事は皆無だった。
それはそれで本当に気楽なのであるが、言い換えればスリルが減るという事でもあるし、またバイリンガルどころかマルチリンガルの世界であり、マレー系華人は4ヶ国語以上も珍しくはないので、「英語を話せる事による」優越感が皆無、というのも確かである。これが香港であれば、英語はまだエリートの言語という認識であるし、また新界などでは英語の通用度が低く、時には片言の広東語で対応する必要に迫られる事もあるものの、それはそれで旅の醍醐味だと言える。
そういう意味で、香港に滞在していた時のように英語へのモチベーションが上がるという事は実はなかったものである。まあ、現地でもう少しコミュニケーションを取っていれば変わったのかも知れないが、スリルではなく安心を求めるのであれば住みやすい国ではあるかとは思う。