それまで、色々なものをおねだりしていったものであったが、言うまでもなくファミコンはそれまでのどんなものよりも高かった。しかも、当然ではあるがファミコン本体だけではただの箱である。ソフトがあって初めて本体の意味が成立するので、つまりは最低でも2万円は必要という事だ。いまならアケコンレベルの価格であるとは言え、1985年当時の2万円、かつ自分では稼げない小学生にとっての金額だ。今であれば軽く10万円、つまりエントリーレベルのゲーミングPCを買うのと同じような感覚であるという事だ。
まあ、そんな感じでこそあったものの、どうにかしてファミコンを買ってもらう事に成功した。最初は近所のお店に行ったのであるが、あいにく売り切れだと言う。そして翌日の日曜日、本厚木ミロードのおもちゃ屋にて購入した。当時のファミコンがどれほどの人気だったかは記憶にないが、とりあえず予約なしで買えたという事はまだ供給に余裕があったという事なのだろう。そして、数多くのソフトがショーケースに展示されていたが、実は何のソフトを買うのか決めていなかったのである。
ハードを買う理由は、基本的に「どのゲームがプレイしたいか」である。しかし、この時の自分はあくまでファミコン本体が欲しいとしか思っていなかったのだ。という訳で、今では考えられない話ではあるのだが、なんと店員にお勧めを聞いてもらった。その結果、買う事になったのはコナミの「イーアルカンフー」である。一応、プロの店員のお勧めなのだから、そのお店の中では売れ筋であったに違いない。
一応、コロコロによってそのゲームの存在は知っていた。しかし、当時の感覚で言えば大体初めてのソフトは任天堂、またはナムコとかが定番だった時代に、コナミのゲームを最初に選ぶというのはあまりなかったように思える。そして、買ったはいいものの、当時はのちのコンポジットや、現在のHDMIのように、差し込んだだけでゲームが映る訳ではなかった。よって、アンテナ線を加工してRFスイッチに取り付けるという作業が必須となるのだが、当然子供には難易度が高い事案である。という訳で、どう考えてもゲームには縁がない父親に取り付けてもらった。
元々アーケード版がオリジナルであるが、このファミコン版「イーアルカンフー」はそれとは全く異なるゲームである。今ならググればいくらでも出てくるだろうが、全5面しかないループゲームなので、5面以降はひたすらそれの繰り返しである。一応、カラーが変わるのでその楽しみだけはあるとは言え、基本的に何面まで行けるかだけが勝負である。
今思うと後にグラディウスでファンになるコナミの作品、そして後のストIIにもつながる1対1の格闘ゲーム、という事で、それなりにそれは運命だったのかも知れない。実際、前述のようにループゲームではあるものの、それなりに楽しめた事も事実である。今でもニンテンドーダイレクトに収録されるぐらいメジャーなソフトでもあるので、初期ではそれなりに著名なソフトと言えるだろう。