プロレスの殿堂 | ONCE IN A LIFETIME

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フィリピン留学から人生が変わった一人の男のお話です。

大体どのスポーツにも殿堂的なものがあるが、「殿堂」と名がつけば全てが権威あるものかと言えばそうではない。例えば、日本のプロ野球などは1959年に創立されたものの、殿堂入りの基準が今ひとつ明瞭ではなく、さらに後に金田正一によって創設された名球会がはっきりとした入会基準を明確した事もあって、日本では今なお名球会の方が権威があるきらいがある。

 

当然、基準に達していない名選手も数多い訳であり、何より前述のように、元々は金田正一が創設した私的な会社である。という訳で、それらの事情を諸々に考慮すると、やはり殿堂の方が権威が上でなければならない、というのが常識的な意見だろう。日本プロ野球機構もその辺りは理解しているようであり、昭和の時代はオールスターの試合前にひっそりと行われていた殿堂入りを、2000年代以降は5回終了時に催されるようになったりもした。まあ近年はプロ野球自体はほとんど見る事がなくなってしまったので、最近はぶっちゃけどうか知らないのであるが、殿堂入りの報道自体はYahooのトップページでもほぼ報道されているので、それなりに認知度は広まっているとは思われる。

 

それとは対照的に、完全な権威を築いているのがMLBの殿堂である。こちらは選考基準が明確であり、レジェンド級の選手はほとんど殿堂入りしている事もあって、MLBでは最高の栄誉となっている。その辺りはさすがアメリカ、と言った所であるが、ここでようやく本題、プロレス界にも当然殿堂は存在する。ただ、長らく多くのその組織自体がかなりマイナーであり、一応報道はされるもののその権威自体にはクエスチョンマークがつかざるを得なかった。しかし、ここに来て唯一無二というべきの権利が確立された。言うまでもなく、WWE殿堂である。

 

元々は1993年に急死した世界的なレスラーである「アンドレ・ザ・ジャイアント」を顕彰するために創設されたものであり、その後数年に渡って何人かの歴史的レスラーが表彰されていった。しかし、当時はプロレス雑誌でもあまり報道される事はなく、実際に認知度も低かったのか1996年を最後にひっそりとフェードアウトしていった。その後、その名を聞く事はなかったのであるが、2004年に突如として復活し、レッスルマニアの最中はもちろん、その前日にはそれだけのセレモニーを大々的に行うようになった。

 

それだけならWWEのイベントのひとつに過ぎないとの揶揄もあったが、長きライバルであったWCWはすでになく、日本とメキシコ以外のマーケットを独占し、文字通りの世界制覇を果たしたWWEはただのセレモニーでは済まさなかった。つまり、WWEに貢献したレスラーだけではなく、NWAやAWA系、さらにはインディー系のハードコアの連中などにまで手を広げ、WWEだけではなく「世界のプロレス界そのもの」に貢献した偉大なレスラーたちまでをも顕彰するようになったのだ。

 

その代表が、2010年に日本人として初めて殿堂入りを果たした我らが「アントニオ猪木」だろう。一応新日本とは長らくの提携関係にあったとは言え、猪木のMSG登場などはあくまでゲスト扱い、メインストリームに乗る事は決してなかった。つまり、WWEはあくまで猪木を「世界のプロレス界に貢献した偉人のひとり」として表彰した訳であり、そしてWWEの懐の深さ、プロレス界全体の殿堂という権威を位置付けようとしているのだ、という認識をファンも抱いたのである。

 

同じような例で言えば、のちのミル・マスカラスやスタン・ハンセン、アブドーラ・ザ・ブッチャー、そして藤波辰爾や獣神サンダーライガーなどであろう。さらに後に創設されたレガシー部門では、力道山やエル・サント、ヒロ・マツダそして新間寿氏までもが顕彰されていき、これだけでもWWE殿堂が世界のプロレス殿堂たりえる存在であるという認識、そして自負を伺う事が出来るだろう。

 

という訳で、世界的には「WWE殿堂イコール世界のプロレス殿堂」という認識がほぼ認知されていると言って良い。つまり、今の時点でほとんど他の殿堂などはもはや意味をなさないレベルと言って良い存在となってしまった訳なのであるが、ここに来て突如「日本のプロレス殿堂入り」なるニュースがYahooなどを通じて報道された。

 

まさに「寝耳に水」であったのだが、正直いちファンとしては、その発起人や設立の経緯自体「ん?」と思わざるを得ない。ここ日本において、プロレス報道の最高の権威と言えばもちろん東スポである。週プロやゴングにもファン投票による表彰こそ存在はしたものの、今なおプロレス界唯一無二の権威は東スポ主催の「プロレス大賞」ひとつしかない。それは業界だけではなく、ファンの間にも完全に浸透している。つまり、もしプロレスの殿堂的なものを創設するならば、まずは東スポありきであり、それに新日本と、全日本の血統である団体が続く、という形にならないと、ファンとしては決して納得出来るものにはならないのだと思うのだ。

 

案の定、この「プロレス殿堂」には批判的意見が集中したようであり、それに関連したニュースは全て削除されている。別にそこまでする必要もないとは思うのだが、このままでいくと3年後にはプロレス界特有の「なかったこと」にされてしまう可能性が今のところかなり高いだろう。さすがにそれは気の毒ではあるものの、まあプロレスのファン気質を考えると、日本のプロレス殿堂は東スポと新日本が中心になってありきである。