今回の開会式はリアルタイムでは見れなかったので、あらかじめBS4K版を録画しておき帰宅後に視聴した。もちろん、帰宅前に色々Twitterなどでその様子を調べてはいたのだが、メインとも言える選手入場式に驚くべきサプライズが。言うまでもなく、その際のBGMに日本を代表するゲームのBGMが採用されていたからである。
その先陣を飾ったのは、日本を代表するゲームのひとつである「ドラゴンクエスト」のオープニングである。IV以降のお馴染みの前奏ではなく、I〜IIIのみ、いわゆる「ロトシリーズ」のみで使用された前奏が使われた事から、もしかしたらこの部分だけは馴染みの薄い人たちも多かったのかも知れない。しかし、リアル世代にとって、この前奏は間違いなくシリーズを代表する曲であり、今でもこの曲を聴くと初めて初代ドラゴンクエストのスイッチを入れた瞬間を思い浮かべるほどなのだ。
初代ドラクエが発売された当時、「ゲームをプレイして成長した大人たち」と言うのはほぼ存在しないと言って良かった。つまり、イコールゲームというのは大人たちにとっては「理解出来ないもの、得体の知れないもの」であり、勉強やスポーツに対する弊害と言う認識以外の何物でもなかったのだ。「ゲームイコール悪い事」、そんな当時の時代背景の中、子供たちは必死でゲームをプレイする時間を探し、また人によってはPTAの目を掻い潜りながらもゲーセンに通い詰める者たちもいた。つまり、「ゲームというのは完全にアウトロー」なものであり、当然そんなゲームのBGMも世間の評価に値するものではなかった。
しかし、そんな逆境の中でも、当時のクリエイターたちはどうにかしてゲームを世間に認めさせようと彼らも必死で闘っていた。そんな「たかがゲーム」という世間の風潮を、最初に覆していったひとつと思われるのが、この「ドラゴンクエスト」のオーケストラバージョンであったかと思う。I・IIの時はさほどでもなかったが、IIIはまずゲーム自体が発売前にほぼ大成功を確約、そして実際に社会現象を巻き起こした事もあって、サントラの宣伝、かつ予約も大々的に行われていた。
当時の売り上げ枚数などはどうだったかは不明だが、「NHK交響楽団」という「権威」を手中にした「ドラゴンクエストIII」のアルバムは当然の事ながら大評判となり、同年よりクラシックコンサートが開始、そして年末のレコード大賞でも何かしらの特別賞を受賞したかと当時の資料から記憶している。そして、媒体がレコード、カセットからCDへとほぼ移行していたドラゴンクエストIVにおいては、ゲームミュージックとして遂にオリコン1位を獲得し、以降ゲームミュージックはどこのCDショップにおいてもコーナーが作られるほど、完全に1ジャンルを築き上げたのである。
そして、そのゲーム世代が大人になった今、eスポーツという新たなる単語まで生まれるほど、ゲームに対する世間からの偏見の目は、完全に消えたとは言えないが、ほぼなくなったようなものだと言っていい。そして、今回の入場式である。これまで述べてきたように、当時はまるで世間に認知される事のなかったビデオゲームが、35年もの月日を要し、遂に日本が築き上げたいち文化として世界の隅々にまで発信されたのだ。これで感激しないゲーマーなど存在するはずもない。そんな私も、事前に知っていたにも関わらず、序曲が流れた瞬間に感極まるものが込み上げてきたものだ。
ごく一部からは、「ドラゴンクエストは世界では無名なんですよね」という声も上がっていたが、世界で有名だろうが無名だろうがそんな事は正直どうでもいいのだ。日本の東京で行われるオリンピックなのだから、日本の誇る代表作であればそれで十分なのだ。まあ、個人的な願望で言えば、もう少しドラクエから選曲があっても良かった、ぐらいだろう。
それに続くタイトルは、同じく日本を代表するJRPGであるファイナルファンタジーからだった。しかし、何故か勝利のファンファーレという微妙な選曲、のちにオープニングも流れたものの、個人的にはIIIの悠久の風なんかを流しても良かったのではないかと思う。それ以降も、RPGを中心に選曲されていったが、正直そのほとんどがまともにプレイしていないものばかりであったので、初めて聴く曲がほとんどだった。
そして、ほぼRPG一辺倒であった選曲から、なんと「グラディウス」が流れていく。見覚えがないタイトルだったので、おそらく、1994年頃に発売された、グラディウスのオーケストラバージョンからの選曲であったかと思われるのだが、その内容はグラディウス史上でも最高の名作といわれるIIのOPと装備セレクト画面だった。残念な事に、ダライアスやR-TYPEとは異なり、少なくともここ10年以上はそのシリーズの活動がほぼストップしてしまっているので、最近のゲーマーにはその偉大さを理解出来ていない人が少なくない。
しかし、今更言うまでもないが、グラディウスシリーズというのは日本のアーケードと家庭用ゲーム史を語る上で、絶対に避けては通れないほどの伝説中の伝説である。最近、「ゲーム文化保存研究所」の座談会において、「当時ゲーセンに通い詰めていた人間で、グラディウスを無視できるプレイヤーなどまずいなかった」とあるように、当時のゲーマーとゲーム業界に与えた影響というものは尋常ではなかったのだ。多くの選曲が2000年代のJRPGが占める中、あえてグラディウスを入れたという事は、やはりそれだけゲームに造詣の深い人が選曲していったに違いない。
「日本が誇れるのは漫画とゲームしかないのか」と嘆くような意見も見受けられたが、世界においてどれだけの国が自国の文化を世界中に広める事に成功しているだろうか?西欧からすれば、こんな東の果ての島国が、これだけの文化を築き上げ、そして世界中に発信してきたという事だけでも十分すぎるほどの奇跡であり、誇りであると思う。そういう意味からでも、個人的には非常に感動するこの今回の開会式だった。