先日、メキシコ人の英語教師と会話した際、自己紹介でルチャ・リブレが好きとの事だったので、事前に選択したアーティクルを無視してしばらくルチャとメキシコの話に終始させてもらった。メキシコ人教師は初めてではなかったのだが、普通にルチャが好きだという人に当たったのは初めてである。まあ、私も正直超有名所しか知らないので、あまり深い会話という感じでもなかったのだが、いきなり出てきた名前がエル・サントであった事にまず驚いた。
ルチャ・リブレを語る上で絶対に欠かす事の出来ないのが、この聖者・エル・サントについてである。言うまでもなく、ルチャ・リブレの90年近い歴史の中で最大のスターであり、その存在はルチャを超えてメキシコ人なら誰でも知っている存在だ。言うなれば日本で言えば力道山、アメリカで言えばハルク・ホーガンのような存在なのであるが、とは言っても前者は50年以上前に故人となり、ホーガンもさすがに全盛期は30年前だけあって、若い人たちの浸透度は不明である。
すでに若い人の間では、ジャイアント馬場の存在すら知られているかどうか怪しい現在において、今の日本において力道山の名前が語られる事は多くはないだろう。なので、いかにエル・サントの存在が偉大とは言っても、さすがに37年前に他界しているだけあって、今のメキシコ人にとっては過去の存在に過ぎない、と思っていた。しかし、それは全くそうではなかったのだ。その先生は現在34との事なので、つまりはサントの試合どころか、死後に生まれた人である。しかも、メキシコでは1991年ぐらいまでテレビ中継が禁止されていたはずなので、当時のルチャの映像自体もほとんど残っていないのだ。にも関わらず、である。
よって、改めてメキシコ人へのルチャの浸透度、そしていかにエル・サントが今なおメキシコの英雄であるかというのが、改めてこの先生との会話の中で理解出来たものである。そして、サントの永遠のライバルとされているブルー・デモンの名前も当然ながら出てきた。日本においてはミル・マスカラスの存在が絶対なので、サントはともかく日本に未来日のブルー・デモンの名前は、日本のプロレスファンにとってはあまり馴染みがないと言える。しかし、ブルー・デモンも今なおこうして当たり前のようにメキシコ人から語られるよう、やはりサントと並ぶルチャの象徴の一人であり続けているのだ。
まあ、何故この二人があまりにも別格か、というからくりのひとつが、いずれも映画スターであった事が挙げられる。このうちいくつかは、YouTubeでも視聴出来るので、当時の姿を見る事が出来るのであるが、それでもやはりこの人気は異例だ。自分なんかはほとんど映画は見ない人間だからなおそうなのかも知れないが、今の人たちに石原裕次郎や渥美清とか言ってもまずピンと来ないだろう。それを考えると、やはり今なおメキシコ人から語られるルチャ映画というのは別格である。
WWEも全盛期ほどの勢いはないものの、それでもザ・ロックやジョン・シーナなどはプロレスの枠を超えた人気を得たし、YouTubeの登録者数も7700万人を超えている。そう考えると、いかにアメリカ・メキシコに次ぐプロレス大国の日本とは言っても、世間へのプロレスの浸透度というのは前2者とはもはや超えられない壁があると言うものだ。