Wizardryについて語る・その3 | ONCE IN A LIFETIME

ONCE IN A LIFETIME

フィリピン留学から人生が変わった一人の男のお話です。

秋葉原BEEPなどで売られている、ウィザードリィファンによる同人誌「ウィザードリィの深淵」のIとIIをそれぞれ最近購入した。正直、同人誌というのはほとんど購入した事はないのであるが、内容的には普通に商業誌として本屋に並んでいても全くおかしくない出来であり、ファミコン版でウィザードリィの世界にいざなわれた世代にとってはまさに必読という内容であった。

 

もちろん、そこで初めて知った事実も多いのだが、その中のひとつに売り上げがあった。当時、どの雑誌においても売り上げランキングなるものが掲載されていたが、そのほとんどが協力店による売り上げから算出したポイントのみが掲載されており、具体的に何本売れた、というのはまったく不明だったのだ。のち、ミリオンセラー以上のゲームであればある程度は公開されていったのであるが、もちろんそれ未満のソフトはほとんど不明である。せいぜい、初代FFの売り上げが50万本ちょい、と言った程度だ。なので、初代ウィザードリィの売り上げが30万本というのはこの本で初めて知った事実であったのだ。

 

ファミコンが爆発的ブームとなった1986年頃においては、どんなソフトも出せば20万本は売れる、とされた時代であったらしいが、この1987年においてはそのブームはひと段落しており、一部では下火とも言われた時代だった。確かに、小学生の間ではビックリマンシールやミニ四駆などが新たにブームとなり始め、ファミコンがその陰に隠れがちになったのは事実である。しかし、だからと言って下火という訳では決してなく、ブームが一段落して完全に「いち文化」として定着したというのが正しいだろう。もちろん、ソフトの数が増えるにつれてクソゲーが粗製乱造されてきた事も確かであるが、それでもそれなりのクオリティを誇ったゲームであればそれなりの本数は記録したはずである。

 

なので、確かにドラクエIIやファミスタのセールスと比較すれば、30万本というのは物足りなさの残る数字である事は確かである。しかし、いくらドラクエIIや桃太郎伝説などのおかげで、小学生世代にもRPGが浸透してきた時代とは言え、やはりウィザードリィというゲームそのものはまだ敷居が高いものであった事は間違いない。実際、私も含め、周りでウィザードリィを買った、という人は皆無であった。なので、そういう当時のリアルな空気を知っている人であれば、30万本でも大健闘、と言う感覚だろう。

 

そして、さらに意外な事実としては、今もなおシリーズ屈指の名作とされている初代よりも、IIの方が売り上げが高かった、というのだ。シナリオ3を基にした、ファミコン版IIの難易度の高さを知っている人たちであれば、いくら初代が出来が良かったとは言え意外としか思えなかったはずである。翌年発売されたIIIは20万本程度という事であるが、ドラゴンクエストIVと、ファイナルファンタジーIIIという2大巨頭に挟まれた1990年3月の発売と考えたら大健闘とも言える。

 

私も一瞬なぜ?と思ったものだったが、少し考えたらそれも納得だった。というのは、あくまで自身の経験からの結論であるのだが、初代が発売された当時、あのドラゴンクエストが参考にしたゲームというだけあり、どの雑誌においても大々的に特集がなされていた。なので、それらに目を通していた子供たちであれば、少なくともその存在程度は目にした事は間違いないのである。しかし、それでも3Dダンジョンというのは小学生にはさすがに敷居が高く、結果それで敬遠した人たちの割合はかなり高かったはずである。さらに、そのちょうど1年前に発売された、ファミコンにおける初の3Dダンジョンゲームである「ディープダンジョン」の出来がいまひとつなのも影響していた。

 

しかし、そんな小学生も、2,3年もすれば中学生へと進級する。そうなると、コロコロコミックからジャンプ、ドラえもんからドラゴンボールへと流れていくように、ゲームももう少し敷居が高いものへとの欲求が強くなっていくものなのだ。小学生当時では手が出ないと思っていたウィザードリィも、今であればプレイできるかも知れない。しかし、その当時初代をプレイしようとしても、新品ではなかなか売っているところを探すのは難しかったのだ。そして、その中毒性の高さから、手放す人が少なく、中古市場への出回りも少なかった。今よりも行動範囲が限られ、当然ネットショップなども存在しないとなればなおさらである。という訳で、入手性の良さから続編を選んだという人も決して少なくなかったはずである。

 

まあほとんど私の体験談なのであるが、という訳で私が初めてプレイしたシリーズがファミコン版のIIIであった。もちろん、初代からプレイすべきだとは思っていたのであるが、前述のような理由からこれしか新品で買えるシリーズがなかったのだ。しかし、ゲームの雰囲気としてはIIよりかは初代に近いこのファミコン版III、さらにゲームそのものが大幅にアレンジされている事もあって、初心者にとってはほぼPC版に忠実で敷居の高いIIよりも遥かにとっつきやすい出来であったのだ。よって、私はこのIIIをきっかけとしてウィズの世界にのめり込んでいったものだった。

 

その2ヵ月後、ようやく初代を新品で購入、それも落ち着くとようやくIIを購入した。IIが最後になったのはもちろんその難易度に不安を覚えていたからであるが、それでも自身で初めてマッピングを完成させるなど、思ったよりかは楽しめたものであった。しかし、それでもさすがにアイテム探しとレベルアップの楽しさは初代とIIIにはかなわなかったと思う。

 

その頃になると、当然国産PC版への欲求も高まっていたものだったが、さすがに今よりもはるかに高嶺の花であったPCを入手できる事はなく、最もオリジナルに近いバージョンは1998年2月にローカスより発売された「ウィザードリィ・リルガミンサーガ」まで待つこととなる。そして、翌年にニューエイジオブリルガミンが発売され、これによりようやく完璧な初代5作品が家庭用でプレイ出来るようになった。PS版リルサガにおいては、メモリーカードの仕様上、リアルタイムセーブが不可能という弱点こそあるものの、おそらく最も出来が良い家庭用ウィズである事は間違いない。一応、SS版は前述の欠点が解消はされているのであるが、PS3でもプレイ出来る事を考えるとPS版一択だろう。

 

それで今思う事は、版権問題がこじれている事により、現在では復刻不可能とまでされている初代5作品が、ギリギリのタイミングで家庭用に移植された事は本当に良かったと思っている。これがなければ、家庭用ユーザーが原典をプレイ出来る機会はもしかしたらなかったのかも知れないのだから。一応、PC98版のエミュレータであるウィザードリィ・コレクションがWindowsでも発売されたが、アッというまに廃盤になってしまい今ではプレミアがついてしまっている。と思うと、つくづく日本のウィザードリィファンは恵まれ、そしていかに日本人が世界で一番ウィザードリィを好きな民族であるかも実感出来るというものである。