WWE Network | ONCE IN A LIFETIME

ONCE IN A LIFETIME

フィリピン留学から人生が変わった一人の男のお話です。

WWEのYouTube視聴者数が7000万人を超えた。これは常にYouTube全体のサブスクライバーの7位前後を行ったり来たり、としている所だが、とりあえずスポーツのカテゴリーとしては断トツで1位である。アメリカのナショナル・パスタイムと呼ばれるMLBですら266万人である事を考えると、その凄さが分かる。

 

30年以上前、プロレスと言うカテゴリが存在する国々はアメリカ、日本、メキシコ、そして小規模な欧州のUKやドイツぐらいしかなかった。それがいまや、フィリピンやネパールと言った途上国の人たちにも認知されている、と言うのは間違いなくWWEの功績である。韓国映画「力道山」において、力道山が「プロレスリングは世界のスポーツです。人種も国境も問われません」と涙ながらに語る名シーンがあるが、まさにプロレス、そしてWWEはそれをありのままに体現している。

 

そんな世界を制したWWEが、どうしてもマーケットで1位を取れない国が地球上に2つだけ存在する。ひとつは、世界的にも「ルチャ・リブレ」と言う特別なジャンルとして認識されているメキシコである。そして、もうひとつが我らが日本だ。今では世界で3番目の規模となってしまったが、それでも今なお、南北アメリカ大陸以外の国においては、我らが日本の新日本プロレスこそが世界で最大規模のプロレス団体である。

 

しかし、そんな新日本であっても、YouTubeの視聴者数はようやく40万人、英語版を合わせても80万にも届かない。動画サイトである新日本プロレスワールドの会員数が10万人を超えた、と一時話題になったものの、対するWWEネットワークは150万人であり、YouTubeも動画サイトもまるでWWEには遠く及ばないのが現状だ。

 

レスリングオブザーバーのベストバウトをここ数年独占している事から分かるよう、試合内容のクオリティに関しては断トツである。一昨年、新日本がWWE以外の団体としては初めてMSGを使用し、そして超満員にした事もまだ記憶に新しい。しかし、それでもどうしてもWWEのような市場規模には至らず、コアなファンにのみ届くばかりである。

 

プロレスにストーリー性は絶対必要であり、もちろんプロレスラーにはマイクパフォーマンスの技量も求められる。そのおかげで、新日本プロレスのレスラーたちは総じて20年以上前に比べて滑舌が良く、やり取りにも不自然さはない。しかし、やはりストーリーよりもリング上のクオリティを求められるのが日本の伝統であり、あくまでマイクなどは添え物である。

 

そして、最近ではジェイ・ホワイトや、ウィル・オスプレイらのように、英語でのマイクも行われる事はあるが、ほとんどの日本人客には意味不明であり、やはりメインは日本語でのやり取りがなされる。そしてまさに、WWEにどうしても及ばないのがここであろう。いくら試合のクオリティが高くとも、プロレスにとって非常に重要な要素であるドラマ的展開が、世界語である英語ではなく、日本語と言うローカル言語のみで展開されていく、と言うのは普通に考えて世界戦略上の大きな障害となっている事は間違いない。

 

もちろん、それはWWEが日本でシェアを取れない理由のひとつでもある。実は、1985年6月に、当時のWWFが新日本プロレスとの提携を解消してからも、常に虎視眈々と日本のマーケットを狙っていた。その直後から、WWEは主にPPVの日本語版ビデオを販売しており、レンタルビデオ店にもそこそこ置かれていたので、緩やかではあるが市場自体はそれなりに拡大はしていった。

 

そして1990年4月、新日本・全日本の協力を仰いだとは言え、WWF日米レスリング・サミットと称した大会を東京ドームで開催。一応の成功を収めると、4年後の1994年には遂に単独でツアーを慣行した。しかし、以前の記事でも触れたように、ハルク・ホーガン離脱後と言う事もあり、集客に大苦戦したこのツアーは大失敗、秋に予定されていたと言われるツアーも中止となった。

 

これが相当尾を引いたか、PPVのビデオのリリースも止まり、我々日本のファンは動く映像を見る機会を失った。しかし、その反面、一時期はWCWに押されまくり倒産の危機と言う憂き目に遭いながらも、ストーンコールド・スティーブ・オースチンの超絶大ブレイク、それに端を発するアティテュード路線、そしてザ・ロックと言うスーパースターの誕生もあり、アメリカ国民からはあのハルク・ホーガン時代を遥かに凌ぐ支持を獲得したのだ。

 

そして日本ではスカパーで視聴可能となり、2002年に再び単独で大会を開催すると、ロックの初来日もあって大成功を収め、翌年にはフジテレビで深夜枠ながらスマックダウンの放映も開始。ちょうど新日本が暗黒期を迎えた事もあり、WWEは一定の地位を収めたかに見えたが、地上波の放映が打ち切られるとその勢いは消え、恒例の日本公演が見送られる事すらあった。

 

一時期、ダゾーンで放映されていた事もあったものの、わずかな期間で終了。相変わらずJスポオンリーと言うのがハードルを高くしているのかも知れないが、今ではかつてのホーガンやオースチン、ロックやそしてジョン・シナのような、アメリカ人全員が知っているようなアメリカンヒーロー的なスターがぱっと見居ないので、それも大きいだろう。

 

そういう訳で、ようやく本題となるのだが、そんな日本において最も手軽にWWEを視聴できる方法が、タイトルにあるWWE Networkだ。2016年初頭から日本でも視聴可能となり、月額9.99ドル、つまりは10ドルでリアルタイムの地上波以外であればPPVも見放題、と言う、規模で言えば新日本ワールドを遥かに凌ぐものとなっている。マジで本当にレッスルマニア1からのPPVはもちろん、権利を獲得しているWCWのナイトロやPPVまでもが見放題であるので、本当に桁違いのスケールと言えるだろう。

 

しかし、日本で視聴可能となっても、さらにほぼ同時期に中邑真輔を獲得し、NXTのタイトルを取らせたりしても、日本における視聴者数はあまり伸びてはいないようである。理由は簡単、日本語サイトも日本語字幕も存在しないからである。正直、登録や検索だけなら大した英語力は不要だとは思うのだが、得意よりも不得意の方が圧倒的に多い日本人の事、やはり未だに英語によるハードルの高さはかなりのものがある、と言う事なのだろう。

 

しかし、さすがに膨大な動画の量を誇るだけあって、現実的に考えて全てに日本語字幕を付けるのは不可能だ。日本語のサイト作成ぐらいは可能だろうが、それすらも未だに存在していないので、WWEとしても「世界語を理解出来ない連中を相手にしてもしょうがない」と見切りをつけているに違いない。

 

ただ、逆に言えばどうやったって英語に頼るしかない訳であり、プロレスが好きでさえ居れば、かなり有益な英語教材とも言える。前述したように彼ら彼女らのマイクパフォーマンスの力量は非常に重視され、さらに世界をマーケットにしている事も前提としている訳であり、滑舌や発音が非常に良い事がまず挙げられる。特に、個人的に言えばHHH、ステファニー夫妻や、ザ・ロックことドゥエイン・ジョンソンの英語などはかなり聞き取りやすく話してくれる。

 

もちろん、それでもノンネイティブには理解不可能な事も多い。しかし、アメリカのテレビはかなり長い昔から、クローズドキャプションが法律で義務付けられている。もちろん、このWWEネットワークもCC対応だ。それをオンにすれば、PCでもスマホでも、そしてTVでの視聴の際にも、全て英語字幕が表示される。

 

これだけでも日本語字幕など別にいらない、と言う感じなのであるが、それでも一般的日本人には敷居が高いのだろう。そのハードルを断念し、WWEネットワークを契約するのを断念している人たちも中には居るかも知れないのだから、英語を始めた当時はプロレスとやや疎遠になっていた事もあったとは言え、まさかプロレスを見る上でもそれが有益になるとは思いもよらなかったものだった。

 

まあ、良く考えれば常に外国人レスラーを必要としてきた日本のプロレス界、他のスポーツよりも遥かに外国語との親和性が高いジャンルであったのであるが。もちろん、かつては米国武者修行が出世街道であった昭和の日本人プロレスラーなどは、例外もあるとは言えそのほとんどが米国でサバイバル出来るレベルの英語は習得していた。特に、アメリカでも大成功を収めたマサ斎藤やザ・グレート・カブキ、後に全日本で外国人担当、そしてWWEで新崎人生のマネージャーまで務めた佐藤昭雄の堪能さなどは知られている所だ。

 

まあそれはともかくとして、確かに日本人が英語を習得するには、大変なお金と時間を費やさなければならない事は事実なので、決して平坦な道のりではなく、誰しもが達成できる事ではないものの、それを乗り越えた人たちにはやはりそれだけの見返りが得られるのだ、という事も、私がWWEを通じて知ったうちの一つである、という事だ。もちろん、PPVにおける試合のクオリティは見事であるし、別に意味不明であってもプロレス自体は十分楽しめるのも事実なのであるが、それでも英語を理解出来る方がさらに楽しめる、という事は間違いない。