前回の記事で触れたように、世界初のゲームミュージックCDは、ナムコのアーケードゲームのVGMを収録した「ビデオゲーム・ミュージック」である。1980年代後期まで、ゲームセンターの筐体はいわゆるテーブル筐体と言うのがメインであり、スピーカーもモノラル、当時のゲーセン事情ではかなりVGMを堪能するには厳しい環境だった。
そういう事情もあり、単に私が知る由がなかっただけで、1980年代後半になるとゲームミュージックの大半はアーケードゲームのサントラで占められていた。そして、私が初めて購入したサントラは、もちろん「グラディウスIII」である。まだFM音源メインの時代ではあるが、矩形波倶楽部のメンバーが作曲したその楽曲群は、並みのアーケードゲームのレベルを軽く超えており、今なお語り継がれる名曲中の名曲揃いであったのだ。
しかし、前に触れたよう、このグラディウスIIIと言うゲームは、シリーズ中でももちろん、アーケードゲーム史においても屈指の難易度を誇ったゲームであった。ゲーメストの攻略があったにせよ、当時はYouTubeなどと言う便利なものはもちろん、ネット自体も存在しなかった時代である。つまり、動いている先の面を見るには、スーパープレイヤーが集う店、もしくは自力でそこにたどり着く以外なかった時代だ。しかし、前者はほぼ都市部に限られ、後者はそう一筋縄ではいかない。なら音楽だけならサントラで、と言う訳でこのCDは馬鹿売れ、なんとオリコンで26位を記録したのだ。
「ビデオゲーム・ミュージック」が19位を記録したそうなので、新記録とはならなかったものの、この26位と言うのはかなり長い間金字塔として語り草となったものだった。そして、前述のよう私も購入したのであるが、もちろんアーケード版もプレイ済みとは言え、それ以上にSFC版の存在も大きかった。言うまでもなく、SFC版は名前こそIIIを冠しているものの、基本的に移植の系列からは除外されているいわば「別物」である。しかし、一部を除きBGMに関してはほぼそのまま使用されている、それどころかPCMとステレオ化により、アーケード版よりもパワーアップしている曲も多かった。
それらに聞きほれた私であったので、これだけのCDが欲しかったのであるが、あいにくSFC版オリジナルは「千両箱」と言う3枚組のクソ高いCDしかなかったので、その代わりとしてアーケード版のサントラを購入したのだ。その出来は素晴らしく、アレンジ3曲に加え、開発秘話まで入っているという力の入れようであったのだが、まだ家庭用の音しか知らなかった私は、オリジナル音源の素晴らしさに圧倒され、しばらくの間はそれもアレンジと思ったぐらいのクオリティだったのだ。
1トラックにつき複数楽曲と言う形であったので、曲をシークするのが面倒と言う欠点もあったのだが、期待にたがわぬその美しいメロディに、それはそれは何度も聴き返していったものである。
そして、それと同じく思い出深いCDと言えば、同年記録的大ヒットを果たした「ストリートファイターII」のサントラである。カプコンに限った事でもないが、当時のサイトロンレーベルの売り方として、大ヒット作プラスその他、と言う2枚組がしばしば見られた。このストIIもそうであり、そのために3500円と割高であったため、しばらく躊躇していったのだが、買ってからはそれだけの価値がある、と思ったものだった。
この頃になると、どこのCD屋でも「ゲーム」のコーナーが設けられ、ゲームミュージックは完全にひとつのジャンルを築いていた。そうなると、ゲーメストの記事などにより、私自身もゲームよりもミュージックのみに興味を惹かれる機会が増えていき、プレイした事のないゲームのサントラまで購入する事もあった。その最たるものが、伝説的3Dシューティングである「ナイトストライカー」であった。
「ダライアスII」のカップリングであったが、1990年のゲーメスト大賞で同アルバムが大賞を受賞した時、読者の大半がメインのダライアスIIではなくナイトストライカーを支持していた。ゲーメストの読者投稿でも見受けられたので、どんなに良いのだろうか、と興味を抱いた私も購入したのだが、確かにそれは本当に素晴らしく、そして格好いい出来であり、それはもう毎日リピートで聴き惚れてしまうほどであった。
しかし、全国で333台しか出荷していない筐体、しかも壊れやすいとなると、1992年当時ですら見つける事は困難であった。長らく神保町の「ハイテクノーベル」に置かれていたらしいが、さすがにそこも撤去。半ば諦めていた時、なんと地元に近い本厚木で稼働しているのを発見、7日ほど通い詰めてワンコインクリアを達成した。
現在はかの有名な秋葉原のHEY、そしてもう一台大阪近辺で稼働しているらしいが、少なくとも現在確認が取れている限り、現役で稼働しているのはこの2台だけのはずである。ゲーム自体も、「ザ・ベストゲーム」で4位を記録するほどの支持を得ていたが、BGMの存在もそれに拍車をかけていた事は間違いない。もちろん私にとっても特別なゲームであり、グラディウスIIIについで思い出深いゲームだ。
それ以降は格ゲー時代に突入、特にネオジオのゲームなどはかなりクオリティが高く、しかもサイトロンレーベルは1500円で購入できたので、「餓狼伝説SPECIAL」や「サムライスピリッツ」なんかはかなり聴いていったものである。バーチャファイター2が発売される直前あたりでゲーメストを買うのをやめてしまったので、他に買ったと言えば「極上パロディウス」あたりだったであろうか。今でもiPhoneに当時のサントラを記録しているが、それらを聴くたびに当時の情景が思い起こされるものだ。それがゲームの良い所であると私は思う。