前回は触れなかったが、ウィザードリィと言うゲームの存在自体はファミコン版が発売される前、当時の週刊少年ジャンプにおいて不定期で掲載されていたファミコン神拳の増刊などですでに触れられていた時から知っていた。AppleII版の画面写真もいくつか掲載されていたので、確かに対面での戦闘シーンとステータス表示などはドラクエが参考にしているな、と感じたものだ。そして、ドラクエでは全て日本語表記であったので当時はほとんど意味がなかったが、横文字、つまりは英語におけるRPG用語なども紹介されていた。具体的にはポイズン、パラライズド、そしてサプライズドなどである。
今であればたわいのない英単語であるが、当時はまだローマ字すら習ったかどうか、という時代であったので、カタカナと本来の意味の結びつきが全く頭に浮かばなかった。しかし、その中で唯一既視感があったのがサプライズドである。それはファミコン世代であればお馴染み、ゆう帝こと堀井雄二氏がポートピア連続殺人事件の地下迷路で使用した、「もんすたあ・さぷらいずど・ゆう」からである。
当然、ドラクエや、その後発売されるFFを初めとした和製RPGでは全て日本語表記であったので、これらの単語はここで覚えてもゲーム中で目にする事はなかった。いわば無駄知識、トリビアであったのだが、それがそうでなくなったのはもちろんウィザードリィである。国産PC版は、文章以外のアイテムやモンスター名、イベント名などは全て英語そのままだったのに対し、ファミコン版はそれすらも全て日本語対応された世界初の完全ローカライズウィザードリィでもあった。それまで発音が一定しなかった、GnildaやHrathnirが、それぞれニルダとハースニールに統一されたのもこの頃からである。なので、わざわざ英語を選択する必要もなかったのであるが、スペースの関係で文章以外の日本語は全て女神転生やディープダンジョンのような濁点が一文字扱いであったのだ。
当時は良く見られた表記であったのだが、文章以外とは言えいかんせんドラクエの洗練された画面に比べると子供心にすらカッコ悪く映ったものだった。そこで、おそらく自分だけではなく大多数の人たちが、ゲームに慣れるにしたがって次第に英語表記に変えていったと思う。それだけでも見栄えがかなり変わってくるのではあるが、前回も触れたように文章だけはどうしても国産PC版の漢字混じり表記にはかなわなかった。Windows登場以前のPCはバカ高く、インターネットもない時代では各家庭に必須の機器でもなかったので、X68000などと同様に国産PC版をプレイする事はずっとWiz少年の憧れであったのだ。
それを少しでもPC版に近づけるためには、もう文章まで全て英語表記にするしかない。もちろん、すぐに元に戻すはめとなるのであるが、それでも戦闘シーンの文章ぐらいであれば高校生レベルの英語力でも理解は出来るものであり、同時に面白い事にも気づく。ドラクエなどの国産RPGなどでは、文章などは基本的に全てプレイヤー目線であり、スライムを倒せば「スライムをたおした!」だ。しかし、ウィザードリィの場合は何故かこちらがモンスターを倒した場合であっても、「〜は殺された」という表記になるのだ。
それが割と疑問であったのだが、英語表記にした瞬間に一気に解決。なんの事はない、元の英文が全てis Killed!のように受動態であり、それをそのまま直訳しただけであったのだ。そこで同時にMonsters surprised you.や、PoisonedやParalizedなどの表記もようやく目にする事ができ、ようやく当時のファミコン神拳とも結びつく事が出来た。
ただ、さすがにまだウィズをプレイしていた当時は、英語を本格的に勉強する前であった事もあり、ずっと文章まで英語表記のままとまではいかなかった。それでも、ほぼ自由に言語を選べる昨今のゲームとは異なり、日本語と英語を自由に選択出来るゲームは他にはほぼ類はなかったので、そういう意味でも稀有な存在であったかと思う。また、初期3部作と比べて、文章データが一気に膨れ上がったIVやVにおいて、Google翻訳など全く存在しなかった1980年代は、英和辞典とにらめっこしながら手探りで翻訳せざるを得なかった時代であり、それを考えると当時のフォアチューンスタッフの労力も尋常ではなかったものと思われるが、そう思うと敬意を表さずにはいられないのである。