今では考えづらい事であろうが、大昔はゲームが話すという事だけが大きな売りとなっていた時代があった。そこで今回は私の知りうる限りの逸話を紹介していこうと思う。
アーケードやその他家庭用でにおいての元祖は不明であるが、ファミコン版で初の音声合成を取り入れたゲームと言うのは「スパルタンX」である。同名の香港映画をビデオゲーム化したものであるが、主人公とヒロインの名前だけが同じであり本編の内容とは全く関係ない。しかし、ゲーム化のおかげでジャッキー・チェン映画としては最も知名度が高い作品のひとつでもある。
で、ステージをクリアする毎にデモが入るのだが、そこで挿入されるミスターXの笑い声がファミコン初の音声合成なのである。ひたすら笑い声を繰り返すだけなのであるが、あきらかに人間の肉声が聞こえてくるというのはちょっとした衝撃であり、今でもファミコン世代は音声と言えばスパルタンXを思い出す人が多いほど、当時としてはかなりのインパクトがあったものだった。
1987年、ジャレコがROMの自社生産の強みを活かし、かの伝説的クソゲーである「燃えろ‼プロ野球」に独自の音声合成チップを搭載させる。これはファミコン内蔵音源よりも遥かにクリアな音で再生され、プレイボール、ストライク、ボール、ホームラン、そしてピッチャー交代、観客の歓声などが収録された。もちろんファミコン野球ゲーム初の音声合成ゲームでもあった。私は所有していなかったが、サンソフト発売の「水戸黄門」も、同じように独自チップを活かして、かの有名なセリフを長々とタイトル画面で話していたのを友人の家で見かけた記憶がある。しかし、こちらは燃えプロのようにある意味メジャーにはなれなかったので、あまり話題にはならなかった。
そして1988年、家庭用ゲーム業界にとって革命的な商品が発売される。言うまでもなく、PCですらフロッピーディスクオンリーだった時代に、それに先駆けてNECHEが発売した、世界初のCD-ROMユニットであるPCECD-ROM2(シーディーロムロム)である。何故ロムロムなのかは不明であるが、この革命的な発明により家庭用ゲーム機の音源は飛躍的な発展を遂げたのだ。
当時の家庭用ゲーム機の容量は1メガバイトにも及ばないので、当時540メガバイトとされたCD-ROMの容量をほとんどを音源に費やせた訳だ。つまり、単にCD音源を再生しているだけなのであるが、これにより理論上は世の中に存在する全ての音を流せるようになった訳である。もちろん、ボイスもそうなのであるが、いくら大容量とは言っても音声を再生するだけでは74分が限界である。そこで、インターフェースユニットにはAD-PCM音源が新たに積まれ、音質的にはノイズまじりでかつモノラルであるものの、これを利用する事によりそれまででは考えられないレベルの台詞を喋らせる事が可能となったのだ。
その先鞭をつけたのは、おそらく小川範子と言う、当時でもあまりメジャーではなかったアイドルを起用した「NORIKO」と言うゲームだったかと思われるが、やはりその力を世に示したのは「天外魔境」ではなかったかと思う。さすがにユニットだけでも6万を超すハードは学生には買えなかったが、やはり当時としては革命的な大ボリュームのゲームだけあって、各雑誌でも大きく取り上げられたので、当時のゲーム少年にとっては強烈な印象として残っていった。
それ以降、PCEは音声とアニメ調グラフィックを徹底的にプッシュしていき、それがピークに達したのが「天外魔境II」だった。しかし、確かに前半のアニメシーンまでは圧倒されたものの、「イースI・II」などに比べるとやたらと長いセリフが多く、かつスキップも出来ない。そしてもちろん、重要シーン以外は全てAD-PCMなので音質も悪い。正直、それらがなければ単なる時間がかかるだけのRPGと化してしまうので、それに力をいれざるを得なかったのは分かるのだが、これによりゲームのテンポが大幅に失われ、個人的にはこのあたりから「話すのうぜえな」と思うようにもなってきた。
32ビット機全盛を迎えて以降は、話す事に対して何の物珍しさもなくなってしまい、それはFFシリーズがPS2まで採用しなかった事も明らかである。その代わり、FFVII以降、「ムービー詐欺」と呼ばれるムービー垂れ流しのゲームばかりが占めるようになり、とっとと自分のキャラを動かしたい古参ゲーマーからは大きな反発を生むようになってしまった。
よって、1990年代半ば以降は、話す事もアニメーションも全くもって普通の技術となってしまったが、その2点を完璧なまでに生かし切ったゲームがひとつ存在した。それこそ恋愛シミュレーションゲームの大傑作であり唯一無二の存在「ときめきメモリアル」である。存在自体はPCE版で知っていたが、さすがにその当時はプレイする気にはならず、PS版の大ヒットによりようやくプレイしてみたのだが、主人公以外の登場人物全てが肉声で話しかけてくる、と言うのは超絶的インパクトであり、一気にゲームの世界に引き込まれたものだった。
さらに、2においてはEVSと言うコナミ独自のシステムが採用され、なんとキャラひとりだけとは言え自分の名前を実際に呼び掛けてもくれたのだ。おそらく、ゲームの歴史上もっとも音声合成が昇華されたのはこの「ときメモ2」においてであろう。PS2以降になると、DVDが採用されギガバイト時代に突入、もはや話す事など物珍しくもなんともなくなってしまった。昔はよかった、とは言わないが、今でもいかにも機械的な声を発していたレトロゲームをプレイする度に、これだけで騒いだ時代もあったんだな、と当時を思い出してしまうものだ。