海外旅行を語る時、避けて通れないのが英語力の話題である。出来るなら出来た方が良いに決まっているのだが、個人的な結論をいきなり出してしまうと、私自身の経験のみからにおいては永遠に結論は出ない。何故かと言えば、前にも触れたように、完全に「英語力ゼロ」のまま海外に放り出された経験が皆無だからだ。
もっとも、中学までは義務教育を全うできる日本人にとって、ちゃんと授業に出席していればの話ではあるが、少なくとも卒業時点において英語力ゼロ、と言うのはほぼありえない話だ。なので、いくら苦手意識が強かろうとも、実はほとんどの日本人は英語の基礎自体は備わってはいる訳である。
しかし、それであっても私自身は前述のよう、初めての海外渡航となったフィリピン留学時の時点でオンライン英会話をすでに1年以上続けていたので、TOEICの点数は低くとも、少なくとも現地で基本的な日常生活を送れるだけの会話力自体は備わっていた。大抵の日本人はそこまでのレベルには到達はしていないはずなので、なので全く英語が出来ないまま海外行ったらどうなるか、と言う経験はこの時点でもう一生出来ないままだったのである。
ただ、それでも現地の言葉がほとんど分からないのに、一人旅を挑んだ国自体は存在する。それはもちろん、深セン・中国大陸である。台湾やマカオも一応非英語圏ではあるものの、少なくとも観光客が訪れる場所でさえあれば、間違いなく大陸よりかは英語は通用するし、また漢字も日本語に近い繫体中国語なので、英語が分からずともそれがある以上困る事は少ない。しかし、一部のネットでは「お父さん」とまで揶揄される中国大陸においてはそうもいかず、街中ではほぼ英語は絶望的と言っていい。さらに、同じ漢字であっても、ご存じのように大陸は簡体中国語であるため、そのままでは日本人には分からない漢字も多く、実は読みもあてにならない事が多いのだ。
そんな環境で果たして買い物なんか出来るのか、と言う話なのだが、わずか半日ばかりの観光とはいえ、これが意外にもなんとかなった。もちろん、出来ない事も多かったのであるが、少なくとも買い物に関してはゼスチャーで全てなんとかなった。もし、私が姿かたち完璧な西洋人であれば、向こうも片言の英語を使ったりしてもっと楽になったのかも知れないが、同じ東洋人としてはそれは期待薄であり、おそらくほとんどの現地人が「なんでこの人は無言なのだろう」と思った事であろう。
前にも触れたように、言葉が通じないというのは人間の生活において最もスリルを感じる瞬間ではないか、と思う。おそらく深センの人たちも、ほとんどが普通話しか話せないだろうから、自分に対してもバーッと話しかけてきたものだが、やはり何言っているのか分からないというのはかなりの恐怖を感じるものだ。それをスリルに転嫁出来れば良いのであるが、それが出来ない人ももちろん存在するため、そういう人たちは言葉が分からない限りやめておいた方がいいだろう。また、スリルを感じた私でさえあっても、数時間もすれば言葉が通じないストレスや不便さに嫌気がさしてくるため、やはり中国旅行には普通話は必須である、と言う事も身をもって実感した。
まあ、前述したように、英語でさえあれば大抵の日本人は基礎は出来ているため、少なくとも中国旅行よりかはハードルは低いであろう。しかし、旅の楽しみは観光やショッピングだけではない、そう、一番我々をエキサイトしてくれるのは現地人や他の国の旅人との国境と国籍を超えた交流である。そして、もちろんこの時になんと話しかけるか、言うまでもなく会話のきっかけとなるのはHello? や Where are you from?である。これがある程度の英会話力を要してないとほぼ不可能に近いのである。
もちろん、旅行の目的など人それぞれであり、そんなの知った事ではないよ、と言う人も多いだろう。しかし、やはりそれでも見知らぬ人たちとの出会いと言うのは、海外旅行における最高の醍醐味のひとつである事には間違いないのである。つまり、最初から英語の勉強を放棄しているとしたら、自らこう言った素晴らしい機会を逃している事でもあるのだ。
香港へ初渡航をしてから早9年、その間様々な人たちとの出会いが訪れていったが、確かに言語能力に優れた香港人、その中にはネイティブ並の日本語話者も多く、日本滞在経験が豊富な人たちもいた。そう言う人たちは、香港では滅多に日本語を話す機会が持てなかったので、私も彼らと話す時は日本語で通した。しかし、彼らはあくまで特殊な例であり、大抵の現地の人たちとは英語を通じてしか意思疎通が出来ない。嬉しい事に、その中の数人は、単に私と会ってくれただけではなく、ケーキの準備やレストランの予約までしてくれて誕生日を祝ってたりもしてくれたのだが、もし私が彼ら彼女らと容易に意思疎通出来る英会話力を備えていなかったら、こんな機会は一生訪れなかった事になるのだ。
また、昨年、2012年に知り合った台湾人の女性の方と7年ぶりに日本で再会を果たしたのであるが、当然、彼女との会話も全て英語である。イコール、自分が非英語話者であれば、これも前述と同様こんな機会は永久に訪れなかった事であろう。
日本人は海外でもつるみがち、と言う話を聞くが、ぶっちゃけどこの国の連中もそれは同じである。ただ、やはり男だけ3人のグループとかを見る度に、せっかくの海外でいつものメンツと絡むだけで面白いのか?とはやはり思わざるを得ないのだ。まあそう言う訳で、確かに言葉が通じなくとも海外旅行は可能なのではあるが、英語が出来ると出来ないでは、そこで得る経験がそれはもう桁違いなものになるというのが、少なくともこれまで私が経験してきた事からのひとつの結論である。