基本、家庭用ゲーム機を買う最大の理由は、「あのゲームをやりたいから」に尽きる。今でこそネットやYouTube、そして体験版などでプレイ前にある程度の情報を得る事が出来るものの、そんな事が到底不可能であった1990年代ぐらいまで、家庭用ハードのローンチを牽引していたのは間違いなくアーケードの移植作品群であった。
例えば、かのファミコンで言えばドンキーコングやマリオブラザーズなどであったが、両者ともいわずもがなオリジナルはアーケード版である。そして発売翌年、すでに家庭用では独走状態であったファミコンを、さらに牽引していったのがご存じゼビウスであった。PCエンジンはモンスターランドの移植である、ビックリマンワールドがローンチであったが、実際に人気を決定づけたのはやはり当時としては信じられないほどの移植度を誇ったR-TYPEに尽きる。同年、発売されたメガドライブはアーケードの移植作品が存在せず、よって当初はかなりの苦戦を強いられたのだが、翌年夏に発売された大魔界村の圧倒的な移植度によって、一気に注目度が上がったものだった。
そんな傾向はドリームキャストやPS2のローンチ付近までは存在していたのだが、皮肉にも家庭用ハードの性能が上がるにつれ、ゲーセンへの客足は遠のいてしまい、PS3とXbox360の時代になるとその伝統はほぼ過去の物となってしまっていたのだ。
しかし、2010年代半ば、PS4時代になってもはや完全に廃れたかと思われたその習慣は突然として復活する。それこそ、株式会社ハムスターが立ち上げた、過去のアーケードゲームを復活させるプロジェクトであるアーケードアーカイブスシリーズ、通称アケアカである。レトロゲームの復刻ダウンロード販売に関しては、Xbox360のXboxライブアーケードが先鞭となっていき、その後PS3やWiiなどでも同様のサービスが開始されていったので、別にアケアカ自体は目新しいサービスでもなかった。
しかし、ほぼPC並の性能を持つPS4におけるアケアカは、マシンパワーを活かしたさらに原作に忠実なエミュレートに加え、マニアをも唸らせる豊富なオプション類など、もはや基板と比べても遜色ないそのクオリティ、過去のアーケード復刻販売を遥かに超えた出来であったのだ。
初期は1980年代前半の作品が多く、知名度はそれなりでも当時まだ4万円近くしたPS4を買ってまで、と言うほどのラインナップではなかったのだが、2015年1月、遂にアケアカの存在意義とも呼べる作品が登場した。もちろん、かの伝説的存在のシューティング、「グラディウス」である。
今でこそ知らない人も多いのだろうが、往年のゲーマーではその名を知らぬ者は居ないほど、まさにアーケードゲーム界に革命を起こしたほどのゲームであった。この当時はゲームからは離れていたため、アケアカの存在自体も知らなかったのであるが、2016年8月、遂にダライアスまでもが事実上の初移植がなされた際に、過去のラインナップを覗いてみると、その初代グラディウスのみではなく、なんと沙羅曼蛇やグラディウスIIまでもがリリースされているではないか。
その年末ぐらいにようやくPS4を購入したのであるが、アケアカの存在が目に入ったのはダライアスではあるものの、まだゲームから離れていた自分に購入を決意させたのは、もちろんグラディウスシリーズの存在が一番であり、当然最初に購入したソフトも初代グラディウスであった。
つまり、往年のゲーマーにとって、グラディウスと言うゲームは、アーケード版の発売から35年が経った今でも、4万円ものハードの購入を決意させるほどの物凄い存在なのである。アケアカのリリース当初は、遅延も存在したようだが、アップデート済みの当時はそれも解決、さらに同時期に発売された2017年のリアルアーケードプロの反応速度の改善もあり、画質以外はほぼアーケード版同等に楽しめたものだった。
Xbox360に比べて、PS3は内部遅延が酷く、それがPS4の購入を長期間躊躇う理由であったのだが、確かに遅延が存在するレトロゲームは存在するものの、幸いにもグラディウスに関しては、前述の通り気になるものはなく、違和感なく操作が行えたものだった。
しかし、それでもいくつかの不満があった。まず最大のものとしては、どういう訳だかゲーム画面がモニターの枠ギリギリまで拡大出来ないのだ。ブラウン管時代であれば、画面が全部収まりきらない事を考慮したスコア配置などに最初からの仕様であったりもしたのだが、フラットTVオンリーの現在では全く関係ない。2019年に発売された、アケコレでは解消されていたものの、あくまで中身は簡易版のアケアカなので、それをメインにする事などは到底出来ないものだった。
長らくそんな状態が続いていったのだが、2020年7月9日のSwitch版の発売に合わせ、PS4版も久々のアップデートにより、遂に画面が枠最大まで拡大出来るようになったのだ。たったそれだけでも歓喜であったのだが、今回はそれだけでは終わらない。何と、音源のステレオ可まで実装されたのだ。もちろん、アーケード版はモノラルなので、コンセプト的には全く無意味な実装なのであるが、言うまでもなくグラディウスのBGMと言うのは、今なお語り継がれるほどの名曲中の名曲揃いだ。過去、PSとSSで発売されていたデラックスパック版は、ステレオ可されて収録されていたのだが、今回はそこまで派手ででこそないものの、それ以来の久々のステレオ音源である。早速、VictrixPRO FSにヘッドホンを接続して聴いてみたのだが、これが実に良い。あのグラディウスの特徴的な金属音を、現行のハードでノイズ交じりの美しい音源で聴けるとは、往年のファンにはたまらないというものだ。
PS4は全世界で1億台以上売れたらしいが、今でもこのアケアカや、そしてその他のアーケード復刻プロジェクトが今でも一定の成功を収めている事からも、往年のゲーマーも多少なりともそのセールスに貢献している事は間違いない事であろう。まだグラディウスシリーズ自体も全作移植されている訳ではないので、是非ともこのプロジェクトを続けていってもらいたいものだ。