前回の続きとなるが、マカオ域内では現在LRTが建設中とは言え、おそらく当分完成する事はないのは確実なので、あと数年は間違いなく域内移動は路上交通のままだ。よって、大きく分けてタクシーかバスしかない。旅行者にとって一番楽なのはもちろん前者であるが、香港に比べて面積が小さすぎるためか、需要に対して供給が全く追いついておらず、タクシーを拾うのはかなり大変。
運よく拾えたとしても、未だにボッタクリタクシーによる日本人被害が止まないため、広東語が話せて意思疎通が行えない限り、利用はリスクが高いと言わざるを得ない。よって、ほぼバス1択に迫られるのだが、フェリーターミナルで地図が貰えるし、半島内であれば万が一行先を間違ったところで、そう致命的な事にはならないため、早めにマカオパスを購入しておくのが得策。
また、外港ターミナルからの脱出手段として、各ホテルのシャトルバスを利用する事があらゆるメディアで紹介されている。これは宿泊者以外でも利用できるため、セナド広場にほど近いリスボア行きのバスなどは利用価値大なのだけれども、それが利用出来る事は皆が知っているため、バス停前には確実に長蛇の列が起きるので、乗るにはかなりの時間を要す事になるだろう。15分に1回は香港からの船が着く訳だし。
かくいう私はどうしたかと言うと、2013年9月の旅行において、わざわざ徒歩まで世界貿易中心まで行き、マカオパスを購入した。外港からは若干歩くとは言え、道自体は一直線だし巨大なカジノビルディングも見る事が出来るので、案外それだけでも楽しかった記憶がある。
しかし、やはり軌道系路線がないのは大きい。当然の事ながら街は駅中心に発展するし、初めて訪れる場所であっても、とりあえず駅前行けば何かしらお店があるだろう、との目星はたてられる。特に、香港のMTR全駅には必ずコンビニやら薬局やらパン屋らが構えているし、そこから突然マカオだと、地図を見ても一体どのあたりが栄えているのかまるで掴めず、妙な区画の所が栄えたりしているので、これは初めて訪れた時はかなり戸惑ったものだった。
そして、マカオと言えば400年以上もの間ポルトガルの支配下にあったので、返還後の今もなおポルトガル語が公用語となっている。よって、香港ではどこでも中国語と英語のバイリンガル表記だったものが、マカオでは全て中国語とポルトガル語の2ヵ国語表記となっている。よって、当然Bank of Chinaもポルトガル表記だ。
当然、中国語とポルトガル語のダブル表記がなされている場所など、ほぼマカオ以外はありえないと思うので、これはかなり新鮮、もしくは非常に違和感を感じるだろう。もちろん、私自身もこれほどまでにポルトガル語の羅列を見たのは生まれて初めてだったから、最初はかなりの新鮮味を覚えたものだ。
しかし、数時間もすると、まるで理解出来ない意味不明なアルファベットの羅列に次第にイライラさせられる事となる。バスのアナウンスも、広東語、ポルトガル語、普通話、英語の順だったかな?でされるが、当然訳分からないし、独自のアルファベットの表記にも違和感を覚えまくるようになる。
さらに問題なのは、400年以上も支配下でポルトガル語が唯一の公用語だったにも関わらず、住民のほとんどが話せない事だ。ウィキペディアなどによると、広東語の母語話者数が8割以上なのに対し、ポルトガル語に至ってはなんと0.7パーセントしかない。住民の1パーセントも話せない、一体誰のためなのか、ほぼまるで形骸化しているような言語が未だに公的に表示が義務付けられていると言う、日本に居る限り、日本人の感覚ではおおよそ理解出来ない話ではあるのだが、そんな不条理もある種マカオの魅力かも知れない。そりゃ、公用語に指定されている言語を、ほとんどの住民が話せないとか面白すぎるでしょう。
さらにその上、そんな状況にも関わらず、ポルトガル統治時代は英語の看板や標識はご法度とされたため、今でも名残として英語表記はほぼ見かける事はない。まあ、日本人的には漢字を見れば大体の意味は分かるのでまだ救いはあるが、それも読めない欧米人などにとってはまるでさっぱりだろう。
とは言うものの、返還後の爆発的な観光客増加に対応してか、セナド広場や歴史的建造物などへの行先表記には英語も含まれているし、ホテルや観光地などでは英語はほぼ通用する。長年排除してきたはずの英語が、結局ポルトガル語よりも普及しているとなっては、ポルトガル本国としては屈辱的な趣さえあろうが、世界的な普及度とアジア諸国でのポルトガル語の話者数を考えたらどうしようもない話だ。
ただ、単語レベルではあれ、中国語で大体の意味は分かる分、ポルトガル語ではこういう単語なのか、と言うのがある程度理解出来るようになるのは面白い。例えば大馬路だったらAvenida、おそらく英語で言うAvenueとか、中心がCentro、出口がSaída、空港がAeroportoなどなど。なので、日本でももっと英語表記を増やせば、小さいうちから英語ならどう言うのかが理解出来て面白いとも思う。特に、日本だとおそらくアジアで唯一とも言えるほど、鉄道の駅名における普通名詞ですらほぼローマ字そのままなので、カッコで注釈でもいいから英語の直訳を載せれば、学生にも勉強にもなるし、またもちろん訪日外国人にも分かりやすくなると思うのだけど、いかがでしょうか。国土交通省の役人の皆様。